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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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魔物

 どうにか気を取り直しアリアは先頭に立って、神殿地下にあるダンジョンへと続く階段を下った。

 数分かけ下った先にはダンジョンの本当の入り口と思わしき重厚感のある巨大な鉄の扉が存在した。

 

「大きいな」

「これってどうやって開けるの。取っ手がないから開け方が分からないんだけど」

「ダンジョンの扉に取っ手なんてあるわけないでしょ」


 いつも通りのアレスの不思議発言に呆れながらアリアは目の前にある鉄の扉へと手を触れた。するとゴゴゴゴと大きな音を響かせながら鉄の扉がゆっくりと開いていく。

 

「この扉は魔道具の一種でしょ。ちゃんと調べたわよね」


 ダンジョンの入り口を閉ざしている大扉は魔道具だ。

 この大扉は魔物を外に出さないための役割を担っている。大扉の能力はいたってシンプル。人間が触れると開く。そのため魔物を通さず人間を通すダンジョンの入り口としてふさわしい物となっていた。

 

「広いな」

「想像以上ね」


 扉の先の光景はアレスたちの想像を軽く超えてきた。

 ダンジョンの中は暗く淀んでいるおどろおどろしい雰囲気に思われたが実際は違った。全面が傷一つない純白の部屋、本当に魔物がいるのかと思われるほど綺麗な空間だった。壁にある温かな火を灯す松明が部屋を明るくさせていた。

 

「ここって本当にダンジョン?」

「たぶんここは安全地帯じゃないかしら」


 安全地帯とはダンジョンの所々に存在する魔物が自ら入ろうとしない不思議な空間の事だ。ダンジョンに入る者にとってこの空間は休憩地点として重宝され、ダンジョン探索を行うなら必ず知っておかなければならない場所でもあった。

 この安全地帯が一体どんな原理で成り立っているのかは解明されていない。


 それはさておき、現在この空間には奥へ進むことのできそうな三つの道があった。その道はどれも暗く、闇に包まれていた。

 

「どこを行くかだな」

「どの道を行くにしてもちゃんと地図は書かないと」

「地図はわたくしが書きますよ」


 リーゼロッテは紙とペンを取り出し軽く地図を書きだした。

 

「お願い。どの道を行くかだけど、悩みどころね」


 アリアは口元に拳を当て考えだした。

 

「どこでもよくない?」

「良くないわよ。この道の選択でどのくらい魔物に遭遇できるか決まるんだから」

「でも悩んだところで、どこにどのくらいの魔物がいるか分からないんだから悩んでるくらいなら進んだ方がいいと思うんだけど」


 そんな至極まともな意見にアリアはハッとしたように目を丸くさせアレスを見た。

 

「まさか、アレスからまともな提案が出てくるなんて」


 普段から謎発言のオンパレードであるアレスから至極まともな提案をされると思っていなかった。そのせいで虚をつかれたように驚いてしまった。

 

「そうかな?ありがとう」

「褒められてないぞ」


 褒められたと勘違いして照れ臭そうに笑みを浮かべるアレスにダバンはすかさずツッコミを入れる。そんなデジャブのような光景は置きアリアは真ん中の道を指した。

 

「なら真ん中にしましょう」


 特に反論は出ず、アレスたちは真ん中の道に入った。

 真ん中の道は、安全地帯である純白の部屋とはかなり違った。

 灰色のレンガのようなものが敷き詰められた壁や床、そこかしこには苔や植物のツタが張っていた。空気は暗く淀んでいて、灯りは壁際に取り付けられている淡く光る謎の光源のみ。

 

「不気味だな」


 ダバンは辺りを見渡し感想を漏らす。

 

「長時間いたら気が滅入りそうね」


 未知の存在である魔物が出現するダンジョンという意味では雰囲気として最高に合っている。しかし、アリアの言うようにまともな人間にはこの空間はいるだけで精神を削られるほど不気味だった。直線的な道の先は暗く、見る事が出来ない。それだけでも不安を掻き立てるのに、どこから現れるか分からない魔物に襲われるかもしれないという恐怖と常に隣り合わせだ。屈強な精神を持たなければ長時間の行動は無理だろう。

 

「安全地帯を見つけたら積極的に休みましょう」

「それがよさそうですね」


 アレスが先頭を歩き、その後ろに地図を書くリーゼロッテ、ダバン、アリアと順に列を作って進む。

 アリアとダバンが周囲を警戒する中、アレスだけは特に警戒することなくスピードを緩めずサクサク歩を進める。

 

「アレス、進むのが早いわ」

「そう?普通に歩いてるはずだけど」

「それがおかしいのよ。ここはダンジョンよ。もう少し警戒しなさい」


 アレスはこの陰鬱とした雰囲気の中、普段と変わらない緊張感のない様子で歩いていた。普段と環境の違う場所を訪れた人間は大なり小なり緊張するものだ。しかし、アレスにはそれが無かった。

 

「そういうものなのか」


 へぇ、とさほど興味のないことを教えられた子供のような空返事をした。歩くスピードを少し緩めるだけで緊張感は宿さない。

 そんな少年の様子を後ろで地図を書いていたリーゼロッテは悲しそうに目を伏せた後、その背中を見た。

 リーゼロッテだけはアレスがこの常に死という危険と隣り合わせの環境に慣れていることを悟った。そしてこの環境が、少年が駆け抜けたあの死戦場に比べて生ぬるいことにも……

 

「リーゼ、手が止まってるわよ」

「あ、ごめんなさい」


 アリアに指摘されリーゼロッテは陰鬱な考えを振り払い地図を書く手を再び動かす。

 しばらく進んでも何も起きることはなく徐々に張り詰めた空気が心の重りにしかならなくなった時、不意にアレスが足を止めた。

 

「どうしたの」

「静かに」


 アレスは後ろに横顔だけ向け人差し指をたてた。

 何事かとアリアたちはアレスの言う通り足を止め静かにした。

 ぼんやりとした闇が続く道、妙な静けさがその闇をより大きくしアリアたちの不安を駆り立てる。

 ボチャンとどこからか水面に何かが落ちる音が響いた。つまりダンジョンに水源があるということだ。アレスが止まったのはこれを見極めたかったと思ったアリアたちは安堵の息を漏らす。不安と安堵の落差によって心に油断が生まれたことに二人は気づかない。

 

「来る」

「え?」


 アレスの言葉と同時に道の奥から規則正しい足音が聞こえてくる。足音は徐々に早くなるのと同時に大きくなる。

 何かが来る。

 

「っ、私とアレスが前に出るわ。ダバンとリーゼは援護を」


 油断したことで判断が少し遅れたが何かが現れる前に配置につけた。アリアとアレスは剣を引き抜き現れる存在に備える。

 直後、闇からその影が現れた。

 

「これが……」


 アリアたちは目の前に現れた存在を見て気を引き締めた。

 灰色の鋭い毛並みを持った四足歩行の獣、姿は狼と似ているがその本質は別物、大きさも優に二メートルは超えるだろう。まるで自分の方が上であると言うように猛禽類のような獰猛な金色の瞳でアレスたちを見下していた。

 

「中型の魔物ウルフ、間近で見ると本なんてあてにならないわね」


 本で得た知識と実物の違いにアリアは苦笑を漏らした。

 本ではウルフは中型の魔物の中で最弱であると書かれていた。だが、実際はどうだ。ウルフは完全にアリアたちを格下と見下し、剣を向けられているのにもかかわらず殺気を放たずその大きな体から出る圧のみでアリアたちにプレッシャーを与えていた。


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