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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
26/179

突入

 ダンジョン近くに着くとすでに他クラスの生徒たちは整列しておりそれに倣って十三組の生徒たちも並び始める。

 生徒達の前に一組の担当教師が現れた。


「それでは、これよりダンジョン探索においての注意点などの説明を王国騎士団団長ドラン様より行っていただく。静かに聞くように」


 教師は注意をすると数歩下がりその場をこれから現れる大物に譲った。

 教師の挨拶が終わり数秒すると銀の鎧に身を包んだ大柄の騎士、ドランが現れた。その立ち姿は威風堂々と言う言葉がぴったり合うほど威厳に満ち溢れており、生徒たちに強者の貫禄を見せつけた。


「知らない者もいると思うから一応自己紹介はしておこう。俺は王国騎士団団長ドラン・ゴライアだ。まぁ、騎士団のトップとでも覚えてくれればいい」


 軽い感じで話しているドランとは対照的に一部を除いた生徒たちは体を強ばらせ緊張していた。あの王国騎士団団長直々に言葉を貰える。それだけで生徒達には夢のような出来事だった。

 王国騎士団団長はほとんど公の場に姿を現さず、もし現れたとしてもそれは国王の警備として、会話はおろか声すら聞くことも難しい。そのため生徒たちにとって王国騎士団団長とは王族同様、雲の上の存在だった。

 そうなっているとは微塵も考えていないドランは軽い感じで説明を始める。


「まず、これから行うダンジョン探索での注意点を説明しておこう。一つ、深追いはするな。深追いすれば簡単に魔物に殺されるぞ。二つ、これ以上試験の続行が不可能だと感じたらダンジョンに配置されている騎士の誰かにリタイアと伝えろ。評価はその時点で持っている魔石の数、質によって決める。まぁ、リタイアするタイミングは自由だが、さっきも言ったが深追いすれば簡単に死ぬ。だからもう無理だと判断したら迷わずリタイアしろ。注意点はこの二つだな」


 その注意はただの注意ではない死なないための警告。ドランも話していると途中から徐々に真剣な顔つきとなっていき最終的には語気を強めて発言していた。


「さて、重い話はこのくらいにして、お前らに有益な情報を一つやろう。この試験は知っての通り討伐した魔物から落とされる魔石によって評価が付けられる。弱い魔物をたくさん狩って、数を増やすのもありだし、強い魔物を狙って質の高い魔石を手に入れるのも手だ。だが、どっちも効率的じゃないことくらいお前らには分かるよな」


 弱い魔物を大量に狩るとなると長時間ダンジョンを探索することになり、質の高い魔石を落とす強い魔物を狙うとなると言わずもがな、学生が倒せるレベルではないあげく個体数も少ないため遭遇率もかなり少ない。

 どちらも効率的な方法とは言えないだろう。


「そこでだ。評価基準を教えてやる」


 その言葉に生徒達がざわめきだした。成績の評価基準、それが分かれば手当たり次第に魔物討伐もすることはない。明確な目標を定めることで生徒たちの深追いを防ごうという学院側の狙いだろう。


「騒ぎたくなるのは分かるが一旦静かにしろ」


 ドランの声でざわめきは一瞬で静寂に変わった。


「まず、小型の魔物、魔石の質も大きさも最低のものだな。これに関しては二十個以上集めれば最高評価にする。次に中型の魔物、こいつの魔石は質、もしくは大きさが良ければ一個で最高評価だ」


 この基準は生徒達にとって朗報だった。上手くいけばすぐに試験を終わらせることができるだけでなく難易度も想定よりも低かった。そのおかげで生徒たちの心にゆとりが生まれた。

 

「試験時間は最大で午後五時までだ。それまでにダンジョンから出るか、中にいる騎士にリタイアを伝えろよ」


 今の時刻は午前八時、試験時間は約九時間だ。

 

「ま、こんなところだ。質問あるやつは……いないな。それじゃあ、これからお前らから事前に聞いていた武具や試験で使う必需品を配ってく。受け取ったら一組の奴らから教師たちの指示に従ってダンジョンに入れ」


 各クラスの列の前に鉄製の武器が入った木箱を持つ騎士が現れ順に武器を配っていく。

 アレスたちにも配られる。アレスとアリアは剣、魔法を使うダバンとリーゼロッテにも護身用として配られる。他にも一日探索するにあたって必要になる保存食の入った袋や魔石を入れる袋、地図を書くための紙とペン、それから水筒等々が配られた。

 これらは学院、つまり国が用意したもので全て良質なものだった。やはりお金のかけ方が違う。

 アレスは受け取った剣を鞘から出し太陽の光を反射して輝く鈍色の刃を眺めていた。

 

「へぇ、だからこんな風に用意したのか」


 独り言を呟き納得顔

 アレスはこの剣に酷似した剣を見たことがあった。それは騎士たちが装備している剣だ。

 事実、今生徒たちに配られている者は全て騎士団の使用している物と同じだった。

 いくら後進の育成のために大量のお金をかけていると言っても、たかが一回の試験のためだけに使う物を大量に用意するわけがない。それでは資源と労力の無駄遣いになってしまう。そうしないためにこの試験が終わった後、武具類は騎士団に渡されるのだろう。アレスはそう踏んだ。


 カムに視線を向けると騎士として困った顔になり鼻先に人差し指を当てた。

 騎士団としてもメンツなり色々とあるのだろう。アレスは頷き、心の中で気づかなかったことにした。

 

「いい武器ね」

「アリアの言う通りですが、わたくしとしてはもう少し細身の剣がよかったのですけど、そのあたりは諸々の事情がありそうですし文句は言いません」

「もう言ってるじゃない。ていうか、事情って何よ」


 リーゼロッテの言葉に突っ込みを入れつつ訝しげな視線を向ける。

 

「さぁ」


 リーゼロッテもアレス同様、武器に関することに気づいていたが知らないふりを貫く。故にアリアの質問に知らん顔。アリアもアリアでそれ以上は言及せずにふぅんと一言不満が含まれた言葉を残すだけだ。

 秘密主義のリーゼロッテが隠し事をするのはいつもの事、そんな気心知れた二人を置き少し離れた所でダバンは真面目に持ち物の確認をしていた。

 

「武器の確認もいいが他の物、特に食料と水の確認はちゃんとしてくれ」

「そうだった」

「忘れてたのかよ」


 思い出したように食料や水の確認をしだしたアレスにダバンは呆れたように額に手を置いた。

 それからしばらくしてアレスたちのクラスの番となった。

 ダンジョンへと入るのに二分おきに一クラスずつ入っている。

 

「はぁ、待ちくたびれたわ」 

「仕方ありませんよ。わたくしたちは最後のクラスなのですから」

「そうは言ってもこれだと入り口近くの魔物は狩りつくされてるでしょうね」


 十三組の生徒たちが入るのは一組の生徒が入ってから約三十分後、すでに先に入った生徒たちによって入り口付近にいる魔物は狩りつくされているだろう。そのため、魔物を狩るためには必然的にダンジョンの奥へと向かわねばならない。

 先に入った生徒が魔物を簡単に見つけられ、後に入った生徒は奥に向かわねば魔物を見つける事すら叶わない。そんな不公平、試験として不備があると思われるがこの順番は公平に決められたものだった。

 

「うちの担任が会議をさぼるから」


 アリアは恨めし気に生徒たちがダンジョンに入るのを真剣に見守るカムを睨んだ。

 一組から順にダンジョンに入るようになったのは偏にカムが教員たちによる順番決めの会議をさぼったからだ。本人曰く、奔放教師を演じるにあたって必要なことだったらしいがそこまでする必要はないとその翌日にリーゼロッテに叱られ、今回の件に関してはだいぶ責任を感じていた。仕事熱心なのはいいが加減を知らないあたり玉に瑕だ。

 

「カム先生にも事情があったのでしょう」

「それでも生徒たちのこれからが決まるかもしれない会議をすっぽかすとかないでしょ」

「うっ……」


 遠くで聞き耳を立てていた担任の心が容赦なく抉られたことは言うまでもない。演技とはいえ、アリアの言うことは最もなことで、素が真面目なカムにはこの上ないダメージが入っていた。

 

「時間だ。ダンジョンに入って試験を開始しろ」


 懐中時計で時間を確認していた一組の担任に試験開始を告げられる。すると待ってましたとばかりにアレスたち以外の班が勢いよくダンジョンへと駆けだした。

 

「っ、出遅れた」

「まぁまぁ、慌ててもいいことはありませんよ」


 アリアが急いでクラスメイト達の後を追いかけようすると、リーゼロッテに優しく肩を掴まれた。

 

「そうだね。どうせ行ったところで入り口付近には何もいないだろうしね。急ぐだけ無駄だよ」

「俺もその意見には賛成だ。長時間動くことを想定しているのに初めからとばすのはよくない」


 リーゼロッテに続きアレスとダバンにも諭されアリアは渋々納得し動きを止めた。

 

「分かったわよ。だけど、私たち本当に最後よ。ここからどうやって巻き返すの」


 すでにクラメイトたちはダンジョンに入ってしまい、まだダンジョンに入っていないのはアレスたちだけだった。

 

「まぁ、何とかなるでしょう」

「え?……ノープランとか言わないわよね」


 リーゼロッテの曖昧な返しにアリアは嫌な予感がした。

 

「はい、ノープランです」

「嘘でしょ⁉」


 笑顔で告げられた言葉に衝撃を受ける。まさか、常に何か考えているリーゼロッテが無策で意見するとは思っていなかった。

 

「何とかなるでしょう」


 繰り返される言葉にアリアはリーゼロッテに意見を求めるのを諦めた。

 

「あ、だめだわ。二人は何かいい案ない」

「「ない」」


 三人の返答にアリアはリーダーとしてこの班で本当にこの試験を最高評価で突破できるのか不安になってきた。


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