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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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ダンジョンへ

 一年生の登校は試験があることでいつもより少しばかり早かった。その結果、他学年はまだ登校しておらず学院へと続く道を通る生徒の数は少なかった。

 そんな中、アレスだけはいつも通りのほほんとしながら登校していた。特に何も考えることなく空を見たり、道に等間隔に植えられてある針葉樹を眺めたりして歩く。


「アレス」


 貴族街に入ってしばらくすると後ろから声をかけられた。

 アレスが振り返ると、そこには少し緊張した面持ちのダバンがいた。


「おはよう」

「おはよう……お前はやっぱりいつも通りだな」


 呆れ交じりの言葉にアレスは首を傾げる。

 本人の分かっていない様子に深いため息を吐いた。


「はぁ、お前は緊張って言葉を知らないのか」

「そのくらい知ってるよ。不安なんかを感じて心が引き締められることでしょ」 

「そういう意味じゃなくてな。周りを見てみろ。何か気づかないか」


 アレスは周りを見た。じっくり観察し生徒たちの挙動に不自然さを覚え始める。


「……いつもより動きが硬い?もしかして緊張ってそういう事?」

「そうだ。全員、今回の試験に緊張してるんだ。緊張していないのはお前くらいだぞ」


 生徒達は皆、未知の存在である魔物の討伐という試験に対し緊張していた。ダバンもまた緊張している生徒の一人である。


「そう言われても別に緊張する必要ないし」

「どういうメンタルをしたらそんな風になれるのか。いや、気にしても意味ないか」


 ダバンは不思議の塊ともいえるアレスのメンタルは常人には理解できないと割り切り深く考えないようにした。

 そんな軽い雑談を交えながら二人は学院へと辿り着いた。


「そういえば、どこに集まるんだっけ」

「グラウンドじゃなかったか」


 学院には敷地面積のおよそ四分の一を占める広いグラウンドがあるがアレスは一度も訪れたことが無かった。そのため足取りを半歩遅らせ道順はダバンに任せることにした。


「この学院に入学して三週間くらい経つけどまだまだ知らないところが多いな」

「学年が上がらないと使わないような施設もあるからな……ん?もしかしてグラウンドの場所把握してないのか」


 文脈が少しおかしいことに気づいたダバンは呆れ混じりの視線を向けた。


「あれ?言ってなかった」

「聞いてない。というより、あの広いグラウンドを知らないとは、いくら行ったことが無いからってそれはどうかと思うぞ」

「いやぁ」


 呆れられているのにもかかわらず照れ臭そうに頬を掻くアレスにダバンはジト目を向ける。


「誉めてないぞ」

「あれ?」


 またしても的外れな反応にダバンは肩を竦める。こういう反応にも慣れたものだ。

 アレスの感性は常人とはだいぶかけ離れていた。喜ぶところで急に冷静になったり、逆に冷静になるべきところで急にテンションを上げたり、時折見せるそんな姿がアレスの不思議さを余計に際立てていた。


「おお、もうかなり集まってる」


 二人がグラウンドに着く頃にはすでに一年生たちがクラスごとに列を作って並んでいた。教師たちもそれぞれのクラスの列の前におり点呼を取っている。もしや遅れたかとダバンは考えるが、横を歩いていたアレスはそんなこと気にするはずもなく堂々と自分たちのクラスの列へと向かった。この時ばかりはアレスのマイペースな性格が心強かった。


「おはようございます」


 アレスは点呼を取っていたカムに挨拶をした。カムは不機嫌そうに顔を顰め持っていたペンでつけていた腕時計を軽く叩いた。


「時間ギリギリだぞ」

「でも遅れていませんよ」


 アレスの生意気な態度に注意すべきかと悩むがカムは深い、とても深いため息を吐いた。


「はぁ……今度からはもう少し早く来いよ。分かったならさっさと列に入れ。えっとどこまで呼んだか」


 小言を言うだけでカムはすぐに視線を名簿に戻し点呼を再開した。その様子はカムが演じている奔放教師とは少し遠く、素の真面目で苦労人なカムが顔を覗かせていた。

 その原因はカムの目元にクマができていることに関係しているのだろう。

 今日のために寝る間も惜しんで教師としてだけではなく騎士としても働いていたのだ。それを察したアレスは労いの視線を向け周りに気づかれない程度に小さく頭を下げた。


「あ、アレス。こっちよ」


 列の中から特徴的な紅髪のポニーテールを揺らしながらアレスたちに向け手を振る少女、アリアだ。


「早いね」

「当然でしょ。遅刻したら試験を受けられないんだから」

「それもそうだね」


 若干の小言が含まれているがアレスは納得するだけでそれに気づかない。


「おはようございます」

「おはよう」


 アレスはアリアの隣にいたリーゼロッテといつもと変わらない様子で挨拶を交わした。


「リーゼは緊張してないみたいだね」

「あら、こう見えても緊張しているんですよ」

「嘘ね」

「嘘だな」


 口に手を当て演技染みた様子で答える姿に全員が嘘だと思った。


「ふふ、緊張はしていませんけど余裕があるわけでもありませんね」


 他の生徒たちのように緊張はしていないがアレスのように自然体と言うわけでもなかった。

 そんな風に雑談をしていると少しずつだが周りが静かになっていった。それに倣うようにアレスたちも口を閉ざした。

 一組の担当教師が前に出ていた。


「全員揃ったな。これから魔道列車に乗って王都郊外にあるダンジョンに向かう。向こうにはすでに騎士団が待機しており試験準備は万全だ。ダンジョンについての詳細な内容は向こうで騎士の方々が説明してくれるだろう。では移動開始」


 教師の合図とともに一組の生徒たちが学院から出て駅へと向かった。次に二組、三組と徐々に出ていく。


「ダンジョンって列車に乗って行くんだね。なら駅集合の方が早くない?」

「王都の駅に一気に五百人の生徒が押しかけたら混雑しちゃうでしょ」

「確かに」


 いくら王都の駅が広くても五百人もの生徒が集まれば列車が来るまでの間、一般客の邪魔にしかならない。学院はそこを配慮して学院集合にしたのだ。

 アリアの説明にアレスは納得し軽く頷いた。

 その後、駅に向かい列車に乗り込んだアレスたちは滞りなくダンジョンのある駅へと辿り着いた。

 辿り着いた駅は森のど真ん中にあり、こんなところに駅を建てる必要があったのかというほどに人がいなかった。駅には駅員すらおらず完全に無人駅となっている。

 また一組から順番に駅から少し離れた所にあるダンジョンへと向かった。


「なんだか、すでに魔物が出てきそうな森ね」


 アリアは周囲の鬱蒼とした森を見渡し物騒な言葉を漏らした。


「出てくるわけがないじゃないですか。それより着きましたよ」

「これがダンジョンか」


 アレスは目の前にあるダンジョンを見て感嘆の声を漏らした。

 鬱蒼と広がる森の中に開けた場所が突如現れた。

 そこには古めかしい神殿のような建物がポツリと建っていた。一階建ての建物でダンジョンと言われるには少し小さい。それもそのはず、このダンジョンは地下に広がっており、目に見えている建物はダンジョンの入口でしかなかった。


「呆けてないで行くわよ」

「あ、うん」


 アリアに促されアレスは歩みを再開した。


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