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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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漠然とした不安

 朝日が昇ると同時にアレスは目を覚ました。

 

「う~ん」


 上体を起こし、腕を伸ばす。よく眠れたおかげで疲れは一切無く、体が軽い。

 壁に掛けられている時計を見て時刻を確認する。まだ五時を少し過ぎたくらいで登校までは時間があった。

 まだ眠気が残る体で立ち上がり、顔を洗うために一階にある洗面台へとゆっくりと歩を進めた。

 

「あ、アレス君、おはよう」

「おはようございます」


 一階に下りるといつも通りカレンが朝食を作っていた。

 

「あと一時間もあればできると思うから好きにしてて」

「分かりました。ふぁ~」


 口を抑え小さくあくびを漏らしながら返事をするとそのまま洗面台へ向かった。

 軽く蛇口をひねりゆっくりと流れだした水を両手で皿の形を作りたまった水を顔にかけた。

 程よく冷えた水が眠気に支配されかけていたアレスの意識を一気に覚醒させた。

鏡で身だしなみを少し確認し、小さく跳ねた寝癖を直した。

 

「さて、何しよう」


 カレンに好きにしててと言われたが特にやることはない。何かなかったかと考えながら自分の部屋へと戻った。

 まだ登校まではだいぶ早いが制服に着替え持ち物の確認を始めようとするも

 

「持ち物は……ないな」


 必要な物は何もなかった。

 今日はその身一つあれば事足りる。本当にやることが無くなってしまいアレスはカレンに呼ばれるまで呆然と外を眺めることにした。

 窓を開けると心地よい風が頬を撫でる。

 

「……」


 何も思わず自然の一部にでもなったようにアレスは風に乗り流れていく雲を見つめる。

 それから約一時間後

 

「アレス君!朝ご飯できたよ!」

「……あ、はい。今行きます」


 限りなく無に近い状態だった意識を現実に引き戻し、アレスは窓を閉めカレンのいる食卓へと向かった。

 一階に下りるとすでにテーブルには朝食が並べられておりカレンは席に着いていた。アレスもそそくさと自分の席に着いた。

 

「この恵みに感謝を」

「感謝を」


 挨拶を済ませるとアレスは早速スープをすすった。

 

「そういえば、今日ってダンジョン探索の日でしょ。準備は大丈夫?」


 そう、今日は成績を左右する試験、ダンジョンでの魔物討伐の日だった。

 

「はい。道具は全部学院が用意してくれるそうなので持っていく物が無いんです」

「それって生徒全員分ってこと⁉うわぁ、やっぱり最高学府って言われるだけあってお金の使い方がすごいね」


 カレンはその事実に驚きながら感心した。

 魔物討伐にあたって学院が装備一式を用意してくれることになっていた。しかし、一年生全員、約五百人の装備を用意するとなると金額は馬鹿にならない。それだけで王国が大量のお金を学院に費やしているのが窺えた。流石、王国最高峰の学院。

 

「それにしても学院の試験がダンジョンでの魔物討伐だなんて珍しいこともあるんだね」

「そうですね」


 アレスは今回の試験の変更原因が自分にあると知りながらも素知らぬ顔で返事をした。

 

「アレス君なら心配いらないかもしれないけど、危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ」

「分かってますよ」

「本当に?」


 じっとアメジスト色の瞳がアレスの瞳を探るように覗き込んだ。

 

「はい」


 アレスの即答にカレンは満足そうに頬を緩ませた。

 心配はいらない。三年前と今とでは全然違う。これならば安心して送り出せる。そうカレンは確信した。

 

「じゃあ、たくさん食べて備えないとね」

「食べ過ぎたら逆に動けなくなりますよ」

「それもそっか」


 カレンは少し恥ずかしそうに頬を掻く。

 それから雑談を交えながら二人は朝食の時間を過ごした。

 

「それじゃあ、いってきます」

「うん、気を付けてね」


 登校時刻となりカレンは笑顔でアレスを送り出した。


 段々と遠ざかっていくアレスの背中。その光景を見ていると、カレンは三年前の出来事を思い出してしまう。

 それはアレスが英雄と讃えられる前日の事、あの日も今日のような不吉さを一切感じさせない澄み渡った空だった。もう心配はいらないと思いながらも、どうしてもあの日の後悔を思い出し、止めどない不安が押し寄せてきた。


 今からでも間に合う。


 そう思い手を伸ばそうとしたが、もう少年は目の前からいなくなっていた。

 カレンは漠然とした不安を抱えながら、ただ少年に悲劇が訪れぬよう神に祈ることしかできなかった。


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