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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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図書館

 全ての授業が滞りなく終わり放課後を迎えた。


「終わったわね。それじゃあ行きましょう」


 クラスメイト達がゆっくりと帰りの支度を済ませる中、アリアは素早くカバンに荷物を詰める。早く行きたいというのが言葉だけでなく行動でも露になっていた。

 だが、当然ながら授業終わりの開放感にあふれ、愉悦に浸れるこの時間ではアリアのテンションについていけず、まだ三人は支度をしている途中だった。


「せかさないでください」

「せかしてなんかないわよ。ほら、早くしないと図書館が混んじゃうわ」


 リーゼロッテの言葉も虚しく、好奇心を隠せないのか笑みを浮かべながら淡々とせかしてくるアリアに両サイドの二人は少しペースを速める。ちなみに少し離れたところに座っていたダバンのところにもアリアの声は聞こえており、こちらもまた急いでいた。

 三人が準備を終えたのを確認すると公爵令嬢様は満足そうに頷き、さっさと教室を後にした。その後に続き三人も出ていく。

 どうやら自然とアリアがこのパーティーのリーダーになりつつあった。

 アリアは早く行きたい気持ちを抑えられないのかだいぶ足早に進んでいた。


「もう少しゆっくり進みませんか」

「そうだね。それにそんなに急がなくても図書館ならそれなりに空いてると思うよ」

「だな。俺も流石に授業終わりでそこまで元気は出せない」

「むぅ、分かったわよ」


 三人から説得されアリアは少し不満そうに頬を膨らませながらも渋々納得して歩くスピードを少し緩めた。

 

「ねぇ、予想以上にアリアがやる気なんだけど、どうして?」


 疑問に思っていたことをアレスは隣を歩くリーゼロッテへとこっそり尋ねた。

 隠すことでもないためリーゼロッテはアレスの耳元へ口を近づけ小さく話した。

 

「アリアはランディス公爵家の娘ですからね。こういった成績は人一倍気にしているのでしょう。それに何より彼女自身が家のため、武勲を欲していますから」


 戦場に駆り出される軍家にとって戦場とは功績をたてるための絶好のチャンスだ。そしてその戦場で武勲をたてる事こそ軍家の誉れだった。

 

「それは将来的に騎士になりたいとか、そんな感じ?」

「さぁ、それはどうなのでしょう。公爵家には直属の軍が編成されています。そこを指揮したいと考えているのかもしれません。詳しいことは自分で聞いてください」

「……分かったよ。ありがとう」


 アレスはアリアがやる気を出している理由には納得できたが、その軍家特有の考えには理解に苦しんだ。

 それから雑談を少し交えながら図書館へと向かう。


 図書館は学院から出て王城方面へと歩き徒歩約五分でつくところに存在する。その規模は王都の貴族街にあるということで王国最大と言っても過言ではないほど。その蔵書数は建国以来様々な分野の本を収集しているため軽く一千万は超えるだろう。


 しばらくすると図書館が見えてくる。

 図書館は三階建ての建物になっており他の建物に比べ少しだけ古風な作りとなっていた。

 そんな図書館の中に入ると入り口から早々たくさんの本がぎっしりと詰められた多数の本棚が並んでいるのが見えた。

 

「何度来ても倉庫と勘違いしちゃうわ」

「まぁ、この入り口は後からつけられたものですし仕方ありませんよ。それより案内所に向かいましょう」


 この図書館にはあまりの蔵書数の多さから、どこにどの本が置いてあるか大まかな場所を教えてもらえる案内所が用意されていた。

 案内所は入り口から少し離れたところに用意されている。案内所には複数人の受付があり、そこで図書館についての色々なことが聞ける仕組みになっていた。

 

「すいません」


 アリアは早速受付で仕事をしている女性に尋ねた。

 

「本のお探しですか?」

「はい、魔物に関する本を」

「魔物ですね。少々お待ちください」


 女性は後ろにある棚からお目当てのファイルを見つけ出す。ファイルを取り出すと受付に戻りそこからさらに魔物の本に関する資料を見つける。

 

「ありました。魔物に関する本は全て二階ですね。しまってある棚はバラバラですが、全て教えましょうか」

「お願いします」

「かしこまりました。まずですね。二階に上がった突き当りにある—————」


 それから女性による説明は約五分もかかった。魔物に関する本だけで、だ。それだけでこの図書館に保存されている本の多さが改めて窺える。

 

「以上になりますが、他にお聞きしたいことはありますか」

「大丈夫です。ありがとうございました」


 そう言って受付を後にした。

 四人は二階に上がり本を探すと思いきや、とりあえず二階奥にある読書スペースへと移動した。

 

「思ってた以上に多かったわね」

「あれでは一緒に探すより手分けして探した方がいいでしょう」

「なら、手分けして探してここに持ってくるか」

「それがいいわね」


 ダバンの提案に三人は賛成した。

 

「それじゃあ、リーゼはこの階の右端にある本を、アレスはあの奥を、ダバンはこの周囲にある本をお願い。私は残りの本を探してくるわ」


 アリアの指示に従いそれぞれが本を探しに向かった。

 アレスは入り組んだ本棚の迷路を進んでいく。周囲にはほとんど人がおらず、ここまで本を探しに来ているのはアレスだけだった。

 

「まずは」

「アレスさん、アレスさん」


 本棚に手を伸ばそうとした時、本棚を挟んだ先からこっそりと呼びかける声が聞こえてきた。

 どこか聞き覚えのあるような声にアレスはひょっこり本棚の脇から奥を覗き込む。

 

「お久しぶりです」


 本棚の奥にいたのは見覚えのある青年だった。

 

「えっと確か……ライルさん?」

「そうっす。そうっす。いやぁ、英雄様に覚えて頂けるなんて光栄っす」


 あははと、陽気な笑みを浮かべながら下っ端のような喋り方をするこの青年はドランと共に森にいるアレスを呼びに来たライルだった。

 ライルは普段着を着ており図書館に来た一般人のように見える。

 

「どうしてこんなところに」

「実はですね。団長から手紙を預かってきました」


 さっきまでの陽気な雰囲気は一切なく真剣な顔つきで白い封筒に入った手紙を渡してきた。

 どうやら何かあったらしい。

 アレスは封筒から手紙を取り出し軽く中身に目を通した。

 

「これって、極秘事項じゃないですか」

「はい、ですからアレスさんが読み終えたら即処分をと、団長から厳命されています」


 手紙に書かれていた内容は今後の騎士団の動きと学院の試験についてだった。

 

「学院の試験が例年と違うのはやはり僕のせいだったんですね」


 学院の試験は例年、模擬戦が行われるのだが今年はダンジョンでの魔物討伐となっていた。その理由はいたって簡潔、アレスを狙った刺客をおびき出すためだった。

 だが、その目的を果たすためには懸念点があった。

 

「確かにダンジョンなら向こうも狙い目だと感じて僕を狙ってくると思いますよ。だけど騎士団が同行しているのにそう簡単に向こうは尻尾を出すでしょうか」


 刺客の数は十人を少し超える程度しかいない。それに対し精鋭である王国騎士団に所属する数十を超える騎士を相手にするのは現実的ではない。

 

「そこは心配しなくてもいいと言っていました」

「何か秘策でもあるんですか」

「ないですよ。ただ騎士の勘だとしか」

「それなら信用できますね」

「はい、あの人外の勘は恐ろしいっす」


 ライルはその場で自分の肩を抑え、何を思い出したのか、怯えるように体を震わした。歴戦の猛者であるドランの勘は馬鹿にできないほど精度が高い。例えば戦場で東側から敵が来ると言えばほぼ百パーセントの確率で東から敵が来る。そういうレベルだ。

 

「それで僕はどうしろと」


 今回の件はアレスが王都に来たことによって起きた問題だ。当然、自分にも役目があると思っていたのだが、ライルは首を横に振った。

 

「アレスさんは何もしなくていいそうです。我々騎士団が刺客の対処に当たります」

「……そうですか」


 アレスは自分を駆りださないことに私情が絡んでいると察した。

 ドランは今回の件をアレスの出した戦場には立たせないという条件の延長線と考えたのだろう。そのため本来ならアレス自身が対処しなければならない件を騎士団が全て引き受けたというわけだ。

 僅かな罪悪感を感じつつもアレスは手紙を封筒の中へとしまった。

 

「では、どうして僕にこれを」

「事前報告だそうです。何かあればアレスさん自身が一人で解決しようと行動するかもしれないからと」

「見透かされてるか」


 ドランは伊達に子供のころからアレスを見ているわけではない。三年という長い期間会っていなかったが多少ならドランでもアレスの行動くらい予想がつくということだ。

 

「だから、絶対に一人でどうにかしようとしないでください」

「それもドランさんからの伝言ですか」

「そうっす」


 少しおせっかいな所も変わらない。アレスはほんの少し笑みを見せる。

 

「分かりました。全てあなた方、騎士団に任せましょう」


 観念して今回はドランの厚意に甘えることにした。

 

「了承してもらえてよかったっす。その手紙は処分しておいてください。それでは俺はこれで、早く戻らないと団長にどやされるんで」


 そう言ってライルはそそくさと図書館を後にした。

 一人残されたアレスは極秘事項が書かれた手紙をカバンにしまうと何事もなかったように本探しに戻った。


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