表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
19/179

班決め

 それから生徒たちは各々好きなように班を組み始めたり、試験の不満を漏らしたりして時間を過ごしていた。


「ダンジョンかぁ」


 アリアが頬杖をつき、呆けるように呟いた。

 アリアもまた今回の試験について考えを巡らせていた。


「アリアは魔物を見たことはありますか」

「ないわ。そういうリーゼは?」

「家の親を多少なりとも知っているあなたなら聞くまでもないでしょう」

「ああ」


 アリアは呆れるように声を漏らした。国王の過保護具合は王族と親交の深い貴族の中では有名な話だ。そのため当然アリアも知っている。


「ま、そこら辺の知識は図書館で調べれば姿と強さくらいは分かるでしょ」

「それよりもまずは班を決めなければなりません。三人は決まったとして、あと一人はどうしますか」

「そうね。アレスの他にも男手は欲しいわね」


 どうやらいつの間にかアレスは少女たちの班に入れられていたらしい。特に断る理由もないためアレスは事の成り行きを見守ることに

 こういう事は人に任せた方がいいというのがアレスの経験則だった。

 しかし、そう簡単にいかないのが世の理である。リーゼロッテがどこか期待のこもった眼差しを向けていた。


「アレスから見て、この人よさそうとかないんですか」

「……そういうことを僕に聞くのはお門違いだと思うよ。こういうのはなんだけど学院でまともに会話したことあるのは二人くらいだよ」

「それ、自分で言ってて虚しくないの」


 アリアから憐みの眼差しを向けられるがアレスは気にしない。しかし、何となく視線が気になるので言い訳はしておくことに


「別に友達ができないわけじゃない。友達を作らないだけ」


 そんな友達ができない典型的な言い訳にアリアの視線が今度は生暖かくなる。そんな少女の横から覗かせる王女の視線までもが生暖かくアレスは居心地が悪くなり思わずそっと視線を逸らした。


「わたくしはアレスの友達の中にいい人はいないかと聞いたわけじゃないですよ。クラスの中に戦力になりそうな人はいないですかという質問です」


 つまり、アレスは勝手に質問の意味を間違え勝手に自爆したという訳だ。


「なんだ。それを先に言ってよ」

「あんた、どういうメンタルの構造してるのよ」


 普通なら羞恥に悶える場面なのだが、アレスはケロッと調子を取り戻していた。アリアの中でアレスの変人度合がランクアップした。


「そういうことなら、一人?」


 アレスの中で元から目星をつけていた人物が一人だけいた。その人物を紹介しようとしたのだが、茶髪の真面目そうな少年が近づいてきていた。


「何か御用ですか」

「僕をあなた方の班に入れて頂けませんか」

「まぁ」


 まさか自分から名乗り出てくる人物が来ようとは思っても見なかったリーゼロッテは両手を合わせ驚いた。


「誰?」

「自己紹介をしていませんでしたね。僕の名前はダバン・ゲオルグ、ゲオルグ男爵家の長男です」


 アリアの失礼な質問にも嫌な顔一つせず対応するダバン、その態度は一線を引いた感じで自分とアリアたちとの身分差をわきまえているようだった。


「ダバンですね。よく来てくれました。これはもう決定でいいでしょう」

「即決⁉」


 まだたいした会話もしてないのにも関わらず即決したリーゼロッテにアリアは驚愕し思わず大きな声を出してしまった。


「はい、王女と公爵令嬢という身分の高いわたくしたちに加え、様々な噂のせいで、すっかり裏世界の王と呼ばれているアレスがいるせいで誰も近づこうとしませんから。こんなチャンス逃すわけにはいかないでしょう」

「確かにって思えてしまう自分が怖いわ」


 アリアは親友の言葉に納得してしまう自分の慣れが怖かった。

 リーゼロッテの言っていることは正しい。近づきがたい身分の高い王女と公爵令嬢に加え、対策をたてたのにもかかわらず一週間でさらに噂が悪い方に昇華され、今ではすっかり裏世界の王が定着してしまったアレスにわざわざ近づこうとは思わないだろう。

 特にアレスの素性は少女たちに比べ謎に包まれており近寄りがたい雰囲気をより一層増させてしまった。


 そんな中、班に入ることを志願してきたダバンは欲しかった男手でありアレスが目星をつけていた人物であったためちょうどよかった。

 リーゼロッテは二人の顔色を窺って問題ないか目で聞くと二人は頷いた。


「それでは歓迎いたします。これからよろしくお願いしますね。ダバン」

「アリアよ。よろしく」

「僕はアレス、よろしく」

「よろしくお願いします。リーゼロッテ様、アリアさん、アレスさん」


 そんな堅苦しい挨拶にう~んと、納得しがたいように唸りながらアレスは首を傾げた。


「それ、喋りづらくない。僕の事は呼び捨てでいいよ。それにため口で構わない」


 アレス自身が堅苦しいのが苦手というのもあるが、それ以上にこれから一緒に試験を取り組むというのにこんな他人行儀な呼び方では色々と不便だ。


「なら私も呼び捨てでいいわ」

「それでしたら、わたくしの事はリーゼロッテと呼び捨てで呼んでください」


 少女たちもアレスの意見に賛同する。

 まさか公爵令嬢や王女からもそう言われると思っていなかったダバンは僅かに目を見張り、少し考える素振りを見せた。


「……そうです、いや、そうか。こんな感じでいいか?」

「うん、そっちの方が話しやすいよ」


 ダバンの素の口調にアレスは満足そうに頷いた。


「そういうアレスは噂とはずいぶん違うみたいだな」

「そうかい?」

「なんであんたが疑問に思ってるのよ。全然違うでしょ」


 自分の事なのに何故か疑問形で聞く少年にアリアは思わず突っ込みを入れた。

 

「なんて言えばいいのか……思っていたより不思議な感じがするな」

「あ、分かる」


 ダバンと同じようにアリアもアレスのことを不思議な存在だと思っていた。性格を掴めないところやたまにおかしな反応をするところなど、接すれば接するほど不思議さが増していき最終的にアレスはこういう人物なんだと自然と納得してしまう。

 そんな珍獣のような扱いを受けているアレスはというと二人の会話についていけてなかった。

 

「お二人ともアレスの話題で盛り上がっているところ悪いのですが、班が決まったのですから名簿に書かなくては」

「それもそうね」


 リーゼロッテの言う通り班が決まったのでカムが置いていった名簿に生を記入することに

 

「わたくしが書いてきます」

「いや、ここは俺が行く」


 リーゼロッテが代表して名簿に書きに行こうとするとダバンが気を遣って代わりに行こうとした。しかし

 

「ここは公式の場ではないのですから王女だと言って気遣う必要はありませんよ」

「だが、こういうのは……いえ、それならお言葉に甘えさせていただきます」


 紳士として女性を気遣うのは当たり前だと教わったためこれくらい当然の事としてやろうとしたのだが、何故か王女の表情が冷めていた。先ほどまでニコニコしていたこともありあまりの変貌ぶりに背筋が凍り思わず敬語で譲ってしまった。

 

「はい、喜んで」


 リーゼロッテは笑顔で手を合わせ軽い足取りで記入しに向かった。

 

「……首が飛ぶかと思った」


 ダバンが大げさに安堵の息を漏らす。

 

「賢明な判断だったわ」

「うん、ああいう時のリーゼには素直に従うしかないんだよ」


 関りの薄い者が絶対に見ることはないリーゼロッテの一面を見てしまったダバンを経験者二人が励ます。

 王女の冷たい一面には絶対的優位性を見せつけられたような不思議な圧があった。

 

「恐ろしいな」


 ダバンは血の気が引く感覚を思い出し身震いする。

 

「本当にね」

「何の話をされているのですか」


 三人はギョッとしたように一斉に戻ってきた王女へと視線を向けた。いくらなんでも戻ってくるのが早すぎる。

 突発的すぎていったいどう対処すればいいか分からず、焦りながらも何とかこの場を切り抜けようと貴族二人は脳をフル回転させる。しかし、名案が思い付かない。このまま時を重ねるばかりかと思いきや救世主が現れる。

 

「ちょっと世間話をしてたんだ」


 アレスが嘘をでっちあげる。

 

「世間話ですか?」


 そう簡単に騙されるわけがなく王女の訝しげな視線が容赦なく三人へと向けられた。だが、こんなことで終わるようならばアレスは嘘をでっちあげはしない。

 

「うん、ほら、距離を縮めるには身近な話題を話した方がいいでしょ」

「確かにそうですが……」


 まだ信じ切れないリーゼロッテは他の二人に視線を向けた。必死に首を縦に振る二人を見てゆっくりと目を細めたが渋々納得したように小さく頷いた。

 

「ね。だから言ったでしょ」

「そうですね。では、わたくしもその世間話に入れてください。特に、アレスのする世間話が気になりますね」


 意趣返しのような鋭い反撃にアレスは頬をひきつらせた。

 これは言い訳のチョイスが悪かった。三年も世間から離れ森に住み続けたせいでほとんど世間に関する知識がない。そんな状態でまともな世間話ができるはずがない。そんな初歩的なミスに気づいたころには遅かった。

 

「そうね。私もアレスの話聞きたいわ」

「俺も聞くぞ」


 貴族二人は自分たちを救った救世主を自分たちの手で追いつめていることに気づいていない。

 

「ほらほら、早速話してください」


 生き生きした態度で出来ない話をせかすリーゼロッテはこっそり悪戯が成功した子供のように口元が緩んでいた。リーゼロッテは最初からアレスが嘘をついていることに気づいていた。自分を騙そうとした故にこうして悪戯にアレスを困らせているのだ。

 それからアレスは困難な世間話をさせられるはめになった。結果、当然二人はポカンと呆けてしまいその裏でリーゼに忍び笑いをされた。

 

「ダメだ。何言っているのか全く分からん」

「世間話ってこんなのだったかしら」

「あ、アレスは少々、おかしいので、気にしない方が賢明だと思いますよ……ぷふ」


 最後小さく噴き出したのをアレスは聞き逃さない。さらにアレスをからかって楽しんでいる王女様、ご丁寧に口元にそっと手を置いているせいで他の生徒から見れば上品に笑っているように見えてしまうのがまたリーゼロッテらしい。

 

「「それもそうね(だな)」」


 どうにかして王女の悪戯から抜け出そうと考えていると聞こえてきた二人の納得した声にアレスはバッと視線を向けた。

 

「どうして」

「「なんとなく」」

「えぇ……」


 貴族二人の真顔に根拠のない納得だと察しアレスは何とも言えない表情になる。それがまた面白かったのか後ろにいる王女様は顔を伏せ必死に笑いを堪えていた。

 

「ま、こんな話置いといて」

「え、辛辣じゃない」

「今後の話をしましょう」


 突っ込みを軽く無視してアリアは話題を変えた。

 

「これで私たちはダンジョンに行くにあたってパーティーになったわけでしょ。だからまず、役割を決めましょう」

「前衛と後衛とかか?」

「そう、まあ詳しく決めるわけじゃないわ」


 魔物と戦うことになる以上、役割分担は必要だ。だが、まだ互いの実力を知らない中で細かな役割を決めるのは早計だ。

 アリアはカバンからメモを取り出した。

 

「まずダバン、あなたは何が得意」

「そうだな……先週やった攻撃魔法がそれなりに使えたから魔法か」

「魔法ね。次、リーゼ」


 聞いた内容をメモに書いていく。少し機嫌がいいのかビシッと真直ぐペン先をリーゼロッテへと向けた。

 

「私も魔法ですね」

「リーゼも魔法っと。次はアレスだけど……前衛ね」


 聞くまでもなくアリアはアレスを前衛に任命した。勝手に決められることは少々不満だったが、魔法が使えない今、アレスは甘んじて受け入れることに

 

「それから私も前衛。うん、バランスはいい感じじゃない」


 前衛二、後衛二とちょうど半々に分かれた。

 

「すごい偶然ですね」

「本当にね」


 そんなアレスの呟きにリーゼロッテは目を細めた。その視線には知っていたくせに、と意味ありげな言葉が孕んでいた。それに対しアレスは一瞬目を合わせるだけで、知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

「だが、個々の実力が分からなかったらバランスがいいか分からなくないか」


 ダバンが気にしているのは連携という観点での問題だ。例えばこの中の誰かが突出した力を持っていた場合、一気にバランスが悪くなる。そうなれば連携は必要なくなり仲間になる意味がなくなってしまうだろう。

 だが、この問題が発生するには誰か一人が突出した力を持っていることが前提条件だ。

 

「そこは大丈夫じゃないかしら。そんな実力者なんて北方戦争で活躍した英雄様くらいでしょ」


 名前を上げられた英雄は視線を少しだけ逸らした。

 ここで自分が英雄だと言うわけにはいかず少し罪悪感のようなモヤモヤを胸の内に抱えた。

 

「それもそうか」


 ダバンの納得にアリアは満足そうにメモをカバンにしまった。

 

「それじゃあこれで役割は決まりね。それでこれからどうするかなんだけど、皆今日の放課後って暇?」

「僕は暇かな」

「同じく」

「わたくしも何もないですね」


 全員の予定が空いていた。それを聞いたアリアは機嫌よさげに笑みを浮かべ、提案する。

 

「そしたら皆で放課後、図書館に行きましょう。図書館なら魔物に関する本があるはずよ」

「それはいいですね」


 知識は武器だ。

 魔物に対する知識があれば多少なりとも試験の際に余裕ができるだろう。そうなればダンジョンの危険度は少し下がる。

 三人とも大賛成だった。


「じゃあ決まりね」


 ちょうど決まった時、教室の扉が開きカムが戻ってきた。

 カムは戻って早々教卓に置いてある名簿を確認する。


「えっと……班決めは終わったらしいな。ま、班で話し合いたいことがあると思うが授業進めるから一旦後にしてくれ。ほら、分かったなら席戻れ」


 奔放教師を演じているカムには珍しく授業に積極的だった。生徒たちはカムの指示に従うしかなく話し合いが途中でも自分たちの席へと戻っていった。

 

「全員戻ったな。それじゃあ教科書十二ページを——————」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ