覚悟の灯火
アレスがドランと面会している頃
王都のはずれ、誰も来ないような暗い路地裏、そこに次々とアレスから逃げてきた刺客たちが集結していた。
仲間の犠牲で生き延びた刺客たちの空気は暗い路地をさらに暗くさせる。
「同志の犠牲を悔やんでいる暇はない」
そんな中、重い口を開いたのはリーダーの男だった。
「ですが」
「お前は、あいつの覚悟を無駄にする気か」
有無を言わせぬよう語気を強めに反論する部下を睨んだ。
「正直、私たちは英雄の実力を甘く見ていた。あれは紛れもない……正真正銘の化け物だ。我々が束でかかろうと勝てるビジョンが見えない」
男の持論は部下たちに現実を叩きつける。しかし、本能がそれを理解しても気持ちだけはそれを認めることができない。
「まさか、諦めるということですか」
「それはない。それだけは認められない。そうなれば祖国への裏切り、ひいては勇敢に散っていった仲間への冒涜行為だ」
「では、どうすればいいのですか」
襲撃は失敗した。仲間一人を犠牲にしたのにもかかわらずだ。
すでに刺客たちの士気は下がり敵を取りたい気持ちとアレスには敵わないという諦めが拮抗していた。
「準備を万全にするしかない」
「準備をって、さっきは万全の状態で挑んだんですよ」
「それは分かっている。だから今回以上の準備が必要なのだ」
「今回以上の準備とはいったい何を」
今回の暗殺計画に要した時間は約二年、実行までの調整に約一週間を要した。それを超える準備となるとかなりの時間と労力が強いられる。とてもアレスの強さを知ったこの状況下でできることではない。
「殿下に“あれ”の使用許可をいただくほかあるまい」
その言葉に刺客たちは耳を疑った。
「いくら祖国のためとはいえ使えば我々の素性がばれてしまう恐れが」
「では聞こう。“あれ”を使わずしてあの化け物に勝てる未来が見えるか」
そう言われてしまうと押し黙るしかない。誰も今のままでアレスに勝てるとは思っていない。
「ないだろう。ならば“あれ”を使うほかない。お前たちもこの任務に志願した時からうすうす気づいていたはずだ」
もはや誰も口を開こうとしない。切り札ともいえる力を行使しない限りアレスには勝てない。だが、その切り札を使う覚悟ができない。
「お前たちの忠誠はどこに行った!」
それを見かねたリーダーの男が声を張り上げた。刺客たちの体がビクリと震える。
「思い出せ。あの化け物にいったい何人の同胞の命が奪われた?どれだけの恐怖を与えられた?我らの求めていたものはなんだ。英雄となり凱旋を果たすことか。否!我らの目的はたとえ化け物に成り下がろうともあの本物の化け物を討つこと、ただ一つ!」
それは暗殺者の言葉とは思えないほど芯の通った言葉、まるで戦争に向かう前の騎士を鼓舞するような言葉だった。
刺客たちの瞳に覚悟の灯火が宿る。
「覚悟を決めろ!奮い立て!戦場で命を落とした同胞のために、ひいては我らにこのような機会をくださった神のためにも!」
小さな灯火がごうごうと燃え盛る大きな炎へと変わり心を奮い立てた。
男は刺客たちを見渡し覚悟が決まったことを確認する。
「……ではやろう。水神ウンディーネに誓って!」
「「「ウンディーネに誓って!」」」
暗い路地に刺客たちの芯の通った声が響き渡った。




