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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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スイーツ

 午後の授業が終わり、全員が訓練場から教室に戻ってきていた。

 そんな中、教室に戻った直後、机に突っ伏した貴族令嬢が一人

 

「あ~、午後の授業が丸々剣術だなんて、聞いてない……」


 案の定、サラダだけで持つわけがなく常におなかをすかせた状態で授業を受けていた影響でもう体力が限界を迎えていた。アリアは、溶けたスライムのように脱力していた。

 

「自業自得かもしれませんがこれは不憫ですね」

「家に帰ってから何か食べられないの」

「何もない……」


 ぐ~と可愛らしい音を鳴らしながら答える姿はもはや哀れとしか言いようがない。そんな令嬢を眺める二人はどうにかできないかと模索していると

 

「あ、お金持ってる?」

「食堂ならもう開いていませんよ」

「違う、違う」


 リーゼロッテは食堂に行って何か料理を注文すると考えたのだが、どうやらアレスの考えは違うらしい。

 アレスは正面の壁に掛けられている時計を見て時間を確認する。

 

「ちょうどいいね。この後時間ある?」

「ほぇ」


 アリアは愉快そうに微笑むアレスを見た。

 その後、三人は学院を出て大通りを平民街の方へと下っていった。

 

「どこに連れていく気~、もう歩くのも辛いんだけど」

「もう少しだから」


 アリアは空腹すぎて、もうすでに足取りがおぼつかずリーゼロッテに支えてもらっていた。

 

「こっちって大通りですよね」

「そういえばリーゼはこっちに来るのは初めてだよね」

「ええ、お父様が、人が多くて危険だからって行かせてくれなくて。過保護にもほどがあります」


 初めて来る平民街の大通りに興味を示すリーゼロッテは愚痴をこぼしながら周囲を物珍しげに眺め始める。

 人通りが多く、買い物に来た主婦や駅から平民街を下ろうとする人が多い中、授業終わりということもありちらほらと学院の生徒も見受けられた。

 

「ねぇ、ま~だ~」

「もう少しだから」


 我がまま娘のように文句を垂れるアリアを宥めアレスは目当てのお店へと二人を案内する。

 

「着いたよ」


 アリアたちは案内されたお店を見て目の色を変えた。

 お店は露店のようになっておりショーケースが丸見えになっている。そしてそのショーケースの中に並んでいる物こそ二人が目の色を変えた原因だった。

 

「これって」

「スイーツ!」

「そうだよ」


 アレスたちがやってきたのは平民街にあるスイーツ店だった。

 少女たちにはショーケースの中にある様々な種類のスイーツが煌めく宝石のようにキラキラして見えた。アリアは空腹ということもあり余計美味しそうに見えてしまう。

 

「ここなら空腹も満たせるし、食べるなら美味しい物の方がいいでしょ」

「確かにそうですけど……」


 リーゼロッテは支えている少女を見た。すでにその目はスイーツに魅了されており何のために昼食を少なくしたか忘れているようだった。

 

「これはダメそうですね」


 アリアを解放するとスイーツの下へふらふらと歩みを進める。

 

「それとあれ、それからこのタルトも!」


 ケーキを指さし早速注文し始めた。しかも空腹を完璧に満たすだけの量を

 

「はぁ、致し方ありませんね。わたくしたちも何か頼みましょうか」

「ああ、ごめん。僕お金持ってないんだ」


 アレスは王都に戻ってから自分のお金を持っていない。カレンに頼めばお小遣いを貰えるのだろうが悪いと思い貰っていないのだ。そのため一文無しのままだった。

 

「それならわたくしが払いますのでご安心を」

「いや、それは悪いよ」

「大丈夫です。後で倍にして返していただきますから、それに女性からの頂き物を拒むのは男としてどうなのです?」


 冗談めいた事を言うリーゼロッテにアレスは手を上げて降参の意を示した。

 

「分かったよ。後で倍にして返せばいいんでしょ」

「ええ、では選びましょう」


 アレスはショーケースに並ぶスイーツを見て森での暮らしを思い出していた。あの頃はスイーツどころか普通の食材すらままならなかった。普通ならそういった状態に陥ると飢えにより食欲が増すはずなのだが、不思議なことにアレスはその真逆だった。飢える度に食欲が減っていく。食に対する執着が無くなっていた。

 不思議なこともあったなと思いながら、とりあえずアレスはこの店で一番安いシュークリームを注文する。

 

「うーん♪」


 二人が頼んだスイーツを受け取るとすでにアリアはお店の前に用意されているテラス席でダイエット中とは思えない量のスイーツを上機嫌に食べていた。

 

「分かってはいましたけど、まさかここまでとは」


 後でアリアは確実に後悔するだろう。こうなってしまったら今は何も言わず、夢を見させてあげよう。そう生温かい視線を親友へと向けていた。

 

「多いね。流石貴族」

「突っ込みどころが違いますよ」


 着眼点の違うアレスの突っ込みに呆れてしまう。

 二人も席に着き自分たちが頼んだスイーツを堪能する。

 

「……」

「どうしたました?」

 

 アレスの手が不自然に止まっていた。視線もシュークリームではなくどこか別な方を向いている。

 

「……ううん、何でもないよ」


 笑みを浮かべ何でもない風を装っているが視線は常に動き、様々な方向を見ていた。リーゼロッテにはまるでアレスが何かに警戒しているように見えた。だが、警戒するにしてもここまで露骨に態度に出すのはおかしいと思い気にしないようにした。

 しばらくして三人ともスイーツを食べ終えるとアリアはスイーツの余韻に浸り満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「幸せだわ。こんなにいっぱいスイーツ食べたのなんて久しぶり」

「そのせいでお昼を少なくした意味は無くなりましたけど」

「美味しいからいいのよ……」


 調子に乗って食べ過ぎたことを気にしているのか目を背けてボソッと呟く。

 

「ちょっとこの後用事があるから先に帰らせてもらうよ」


 唐突にアレスはそれだけ言うと足早に帰ってしまった。

 取り残された少女たちはあまりの唐突さに何もできず、アレスの背中を眺めることしかできなかった。

 

「え?早くない⁉」

「……まぁ、アレスも忙しいのでしょう」

「別にこんな急に帰らなくていいのに」


 アリアはムスッとしながらスイーツと一緒に注文していた少し冷めた紅茶を飲む。

 

「それにしてもアレスって不思議な奴よね。なんかちょっとずれてたり、魔力が無いのに剣術は滅茶苦茶強かったり、まだ出会って二日しか経ってないけど関われば関わるだけよく分かんなくなる。あいつって昔からあんな感じだったの?」

「剣は強かったですよ。性格は……少々変わりましたね」

「ふぅん」


 若干ぼかしながら答えるリーゼロッテを横目に見ながらアリアはつまらなそうに頬杖をつく。

 

「行儀が悪いですよ」

「いいのよ。ここは社交場でもお城の中でもないんだから」

「王女が目の前にいるのに?」


 ふふっと不敵な笑みを浮かべる王女に公爵令嬢は肩を竦める。

 

「関係ないでしょ」

「それもそうですね」


 王女と公爵令嬢という立場の違いはあれど友人であるうえで対等だ。

 

「飲み終わりましたか」

「ええ」

「それでは、わたくしたちも帰りましょう」


 二人はスイーツ店を後にし、貴族街へと帰っていった。



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