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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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戦場の剣

 先に部屋から出て行ったアレス達は現在帝城の通路を駆け抜けていた。

 

「ちょっと、どこに向かってるのよ」

「敵の所だけど」


 何を当たり前な的なのりで走りながら応えるアレスにアリアは再び叫ぶ。

 

「敵の場所が分かるの」

「さぁ?」

「は!?」

 一切スピードを緩めるつもりのなく先行するアレスは首をかしげる。まさかの応えにアリアは思わず叫ぶ。

 

「主様は広範囲の索敵はあまり得意ではないのに分かるわけがないだろ」


 身内だけになったことで姿を見せた宵闇が、やれやれとアリアの疑問に呆れる。

 この主従はと、アリアは今にも怒りで叫びそうになるのをぐっと堪える。

 

「アリア嬢の気持ちは分かりますよ」


 その当然と言えば当然の状況に併走するカムが苦笑しながら同意する。だが、もはや見慣れた先行にカムは口を挟むつもりはなかった。


「私も最初に彼らの行動記録を見た時、無謀だと同じ反応をしましたから」

「なら何か言ってくださいよ。いくら何でも城内を駆け回って敵を見つけるなんて無謀ですよ」


 王国騎士団副団長としての顔を見せるカムにアリアは何の気兼ねなしに話す。


「常人なら無謀だと思いますけど、これがアレスなら可能なんですよね。だからラーヴェンもアレスを指揮下に置かず、遊撃として自由に行動させたのでしょう」


 ラーヴェンはこの場にいる三人に敵を殲滅するという命令のみで送り出していた。それはアレスという存在が、“遊撃”で最も活躍すると身をもって知っているからだ。

 アリアは首をかしげる。


「そういう反応をしますよね」


 事情を知らないアリアならばそうなるだろうと読んでいたカムは少しアレスから距離を取りアリアへと近づいた。


「アレスはあの戦場で仲間と共に遊撃部隊として他の部隊の追随を許さないほどの数々の戦功を収めてきました。短期間とはいえ、北方戦争に参加した君のお父様よりもね」


 それは衝撃的だった。

 アリアは自身の父が屈強な戦士であることを知っている。そして戦場で成し遂げた有り余る功績を、そんな父よりも戦功をあげるならまだしも追随を許さないほどの戦功など信じることが出来ない。


「教会騎士団、それがアレスの所属していた部隊です。彼らは遊撃部隊として戦場を駆け回り幾度となく圧倒的勝利を飾りました。それこそ、帝国がまともに戦いたくは無いと思うほどに」


 その騎士団の名をアリアは聴いたことがある。そして思い出した。

 それは数年前のこと、父が戦場から帰還して妙に機嫌が良かった日のことだ。父は楽しそうに、北方戦争の戦場においてやばい奴らがいると語っていた。そのやばい奴らこそアレスが所属していたという教会騎士団なのだろう。


「だから心配せずとも、大丈夫ですよ。ここはもう戦場ですから」


 その言葉はどこか悲しげだった。

 戦場、それがアレスにとってどのような意味を持つのかアリアにはまだほとんど分からない。ただ一つ分かることがあるとするならば、カムがアレスを戦場に立たせることを嫌っていることだろう。

 カムはもうこうなってしまっては融通が利かないと分かっているからアレスを止めなかったが、本当なら今すぐにでもアレスを止めたかった。

 悔しいではないか。こんな幼い少年をまた戦場に立たせねばならない状況が、自分たちが強ければこの少年に重荷を背負わせずに済んだはずだと何度悔やんだことか。

 だが、もう止められない。止まれない。

 今はリーゼロッテ救出のために全力を注ぐしかない。

 帝国もアレスを持て余すほど余裕はない。


「前方、二人来ます」

「ああ、分かっている」


 宵闇の報告でアレスの雰囲気が変わった。


「宵闇、“俺”に合わせろ」


 虚無に落ちる。

 直後、前方より暗殺者達が襲撃を仕掛けてくる。


「不敬だぞ、屑ども」


 闇が舞う。

 闇は前方から現れた二人の暗殺者を空中で縛り付けた。

 直後、アレスが軽く跳躍し暗殺者の側を通り過ぎる。引き抜いた漆黒の刃が的確に暗殺者二人の首をそれぞれ一振りで切り落とした。


 そのままアレスは死体を確認するまでもなく駆け抜ける。


「すごい・・・・・・」


 その鮮やかな刀捌きにアリアは目を見開いた。

 これがアレス達のいた教会騎士団が遊撃部隊として活躍した所以、各々が一級品の力を持ちその力を持ってして戦場を駆け回りながら敵を倒し続けた。


「やはりまだ健在でしたか」


 これはもはや自分たちの出番はないかもしれないと思いながらもこれ以上アレスに敵を切らせまいとカムは奮起する。

 だが、戦場から離れて三年、後方で指揮することが多くなり実戦が減ってしまったカムでは追いつくことは出来ない。

 アレスはその間にも次々と襲い来る暗殺者達を宵闇と協力して捌いていく。

 休むことなく駆け抜けること十数分、初めて敵と交戦する騎士を見かけるとアレスは身を低くさせ加速

 暗殺者と鍔迫り合いを起こしていた騎士の間に割って入り、暗殺者の胴を軽く切りつける。

 痛みを堪え暗殺者は後退しようとするが間を駆け抜けたアレスが急停止、振り向きざまに流れるように刃を振るい暗殺者の首を切り落とした。

 騎士と戦闘していた他の暗殺者へも同様に駆け、切り裂き殺す。

 後方から追ってきていたアリア達がまだ追いついていないことに気づくと、アレスは一度落ち着き刃に着いた血を振り払った。


「・・・・・・絶望の使途」


 その漆黒よりなお黒い闇色の髪を持ち、漆黒の呪刀を持つ虚無を浮かべる少年、それはかつてあの死戦場で帝国軍を壊滅させた化け物と同じ姿だった。

 救ってもらったことよりも、その圧倒的実力を持って暗殺者達を切り伏せた姿を見てアレスが『絶望の使途』と言うことを強く連想させる。

 交戦していた騎士の幾人かは、突然の化け物登場に腰を抜かし、ある者はアレスの姿に畏怖を覚え震える。


 アレスは敵でない有象無象に声をかけることはない。その虚無の眼差しでどこか遠くを見つめアリア達の到着を待った。

 しばらく待っているとアリア達がやっと追いつく。


「速すぎ」


 自分たちは走っているだけなのに、先行して敵を倒しながら走っているアレスに追いつかないとは、戦場で培われたその突破力と瞬発力は流石としかいえない。


「じゃあ、行こう」


 二人が追いついたことでアレスは再び走り出す。


「は、ちょっと待ちなさい」


 そんなアリアの制止は聞こえるわけもない。


「これはずっと走っていることになりそうですね」


 カムはなんとかしてアレスに追いつかねばと走り出す。

 こんな馬鹿げた移動を繰り返しながら戦闘する部隊がいたのかと思うと父が言っていたやばい奴らという表現はピッタリだ。

 アリアもまたアレスに追いつくために再びその背中を追いかけた。


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