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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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協議

「カム、責任の所在はリーゼロッテ王女を助け出してからでもいいか」

「はぁ、これ以上話していても平行線ですし、解決するまで待ちましょう」


 ただし、どちらにせよ帝国にはケジメをつけて貰うとカムは皇帝を小さく睨んだ。

 

「ルーファス、地図を出せ」

「かしこまりました」


 ルーファスは持ってきていた帝城の地図を円卓の上に広げた。

 

「城の地図を見せてもよいのですか」

「構わん。それに見られたところで何も痛くないからな」

「地図と言っても帝城の“表の構造”は分かっても“裏の構造”は記されていないので」


 ルーファスが広げた地図は裏の構造、隠し通路などが記されていない表向きの地図だ。いくら友好関係を築いているからと言って皇族が住む帝城の隅々まで見せるわけにはいかない。

 アレス達は地図の周りに集まる。

 地図を見るだけで帝城の広さが分かる。小さく書かれているはずなのに円卓を埋め尽くさなければ全体を確認できない。

 

「ラーヴェン、現在の詳しい状況を」

「は」


 ラーヴェンが頷くと、地図上に小さな水の駒が生成された。

 

「この駒って」

「戦場でよく使う魔法だね。敵や味方の位置を記す魔法、今回はその簡易版みたいだけど」


 アリアの疑問にアレスが答えた。

 ラーヴェンが使用した魔法は水で地図上に駒を生成するだけの魔法、戦場で使われるのはある特定範囲の魔力を感知することで敵や味方の位置を特定し地図上に示すという魔法なのだが、その使用難易度はとてつもなく高く、使用できる者は大分限られる。

 

「現在、私が指示を出した騎士の配置です」

「散らばっているな」


 アッシュがその配置を見て言う。

 地図上には複数の駒が様々なところに散らばり配置されている。手薄な所も手厚な所もない。

 

「暗部の連中は散発的に攻撃を仕掛けてきているので、一カ所に守りを集中するのは危険だと判断しました」

「主立った被害は」

「毒に侵され数名の騎士が倒れてしまったくらいです。ただ、使われている毒が即死にいたるものではないのか、皆生きています」

「暗部にしては温いですね」


 あの死戦場で嫌というほど帝国の闇と戦ってきたカムはそう評する。

 暗部ならば、卑劣な作戦などざらにしてくる。あの死戦場に比べれば、現在の被害状況はあまりにも温すぎる。口には出さないがアレスも同意見だった。

 

「考えられる目的はメルト殿下暗殺のための陽動、もしくは騎士団の動き自体を封じることだと思われます」


 それならば即死級の毒を使ってこない理由が成り立つ。

 

「ふむ、可能性が高いとするなら前者だろうな」


 アッシュの意見にラーヴェンとルーファスは頷いた。

 

「失礼、陛下どうしてそのようなお考えに」


 あっさりと前者の理由を選ぶ理由がカムには分からなかった。どちらも可能性としては五分五分だ。

 

「彼奴らの天敵といえるのは騎士団だが、根本的な問題に打てる手がない騎士団を封じる必要はない」

「根本的な問題とは」

「ここからはアレスの願いにも関わってくる話だが、すでに我らの知る暗部の拠点はもぬけの殻だった。だから、我らがアレスの願いを叶えてやることはまだできぬ」

「そういうことでしたか」


 やけに対応が遅れているなとカムは感じていたがその理由を聞いて納得した。

 帝国騎士団も無能ではない。暗部の襲撃にあった数分後に暗部の拠点へと襲撃へ向かったのだが、すでに何もかもが無くなっており空き部屋となっていた。

 暗部がこの事態を予測して拠点の移動を行っていたのだろう。

 

「新たな拠点の目星はついているのですか」

「いくつかはつけているが、そこの調査に人を回せるほどの戦力が今は整っていない」


 カムからの忠告通り戦力を整えていたが、夜と言うこともあり外に人員を回せるほどの数はいない。

 

「それに候補が多いのだ」

「しらみつぶしに候補地を見ていくことは出来ないと言うことですか」

「ああ、まずは襲撃に来た暗部の者達を片付けねばならない」


 元は自分の部下とはいえ、刃を向けてきたのならば容赦はしない。

 

「謀反は重罪だ。徹底的に叩き潰すまでよ」

「ただ、問題点があるとするならば相手は暗部、追い詰めればどのようなことをしてくるか分からない」

「我らに報告をせず新たな兵器を作っていたらしいからな」


 まったくシェイめと、元部下に対して悪態を吐くアッシュ

 新たな兵器とは魔粉の改良版と思わしき液体、皇帝は暗部に対して新たな兵器開発の禁止と、条約で禁止となった兵器の封印を命じた。しかし、それは守られておらず、子らは十分皇帝に対する反抗とみて良かった。

 

「目的は暗部の殲滅、そう考えても」

「構わん。もう彼奴らには消えてもらう」


 暗部は必要ではあるが、組織自体が反旗を翻せばこの帝国にとって害でしかない。ならば滅ぼすほか無い。

 

「正確な敵の数を把握できれば苦労しないのだが、生憎、こちらの探査魔法の使い手は休暇を取って帝都から出払っているのでな。まぁ、無い物ねだりしても意味は無い。早急に片付けるとしよう。ラーヴェン、お主は変わらず騎士団の指揮を」

「は」

「カムにアレス、そしてランディスの娘よ。お前達のも働いてもらいたい。もちろん礼はしよう」

「こうなった以上元からそのつもりです。皇帝陛下」

「うむ、厄介だった参謀が味方になってくれると心強い、頼んだ」


 最後にアッシュはセイナへと視線を向ける。

 

「聞きそびれたが、どうしてここにおるのだ」


 アッシュには子供達の中で最も気まぐれなセイナがここにいる理由が気がかりだった。セイナならばこのような騒ぎを聞きつけても自ら行動はしない。

 

「・・・・・・アレスと一緒にいたから」

「アレスと?何故だ」

「さっきまで殺し合ってたから?」


 その返しにセイナとアレスを除く面々が面白いくらいに目を見開いた。アリアなんて呆れてため息を吐いている。皇女と何かあったと聞いていたカムだが、さすがに殺し合っていたなど予想できるわけもなくこれまた驚いている。

 

「殺し合いと言っても別に二人とも怪我してないので気にしないでください」


 アレスとしては珍しく記憶の中から空気を読んだ発言をしたつもりなのだが、皇帝とカムは頭を抱え、残る二人は難色を示している。

 

「空気読めてないわよ」

「あれ?」


 アリアからの突っ込みにもしかしてまた間違えたかと首を小さくかしげた。

 

「今は緊急事態だ。深くは聞かん。アレス達はラーヴェンの指揮下で動いてくれ。それからセイナ、お前はここに残れ」


 セイナという貴重な戦力を遊ばせておくほど余裕があるわけではないが、アレスを殺そうとしたともなれば一連のアレス討伐に関わっていた可能性が限りなく高くなった。そんなセイナを見過ごすわけにはいかない。

 

「・・・・・・はい」


 それはセイナも分かっているのか文句一つ言わず唯々受け入れた。


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