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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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強い芯

 ラーヴェンはメルトの部屋の状況を見て瞠目する。

 中にいるのはセイナにアレス、そしてアリアという異色の組み合わせ、セイナからアレスと協力するとは聞いていたがランディスまでいるとは聞いていない。

 それに近くで転がる騎士の死体に、帝国暗部の刺客と思われる暗殺者の死体が部屋の中で転がっている。

 

「・・・・・・ラーヴェン、お兄様は狙われているから守備を固めて」

「まさかシェイが国家転覆でも狙っているというのですか」


 自国の皇太子の命を狙うとは度し難い裏切り行為、国家転覆を企てていると思われても仕方がない。

 

「さぁ?」


 そこは分からないセイナ、首をかしげてしまう。兄が狙われたのは証拠隠滅のため、そこに国家転覆の意思があるかは定かではない。

 ラーヴェンは残る二人に目を向けるも、アレスはそんなどうでもいいことに興味がなく、アリアはそもそもそんな事情知らない。

 

「姫様、さぁでは困るのです。今行われている協議でそのあたりを明確にしないとこちらの対応が変わってきます」


 協議というのは今行われているカムと皇帝の協議のことだろう。リーゼロッテを攫った者が帝国暗部に所属しているとなればカムは王国の者として黙っているわけにはいかない。それに国内の内乱に巻き込まれたともなれば責任は帝国にあると言わざるを得ない。

 ただでさえ、身に覚えのないアレスを巡ったいざこざで帝国が不利になっているのにこれ以上意図せず王国が優勢になるのは外交上まずい。

 

「帝国暗部の狙いは僕だけですよ。それで、今どういう状況ですか」


 あっさり重要なことを言い流したアレスは現状を訊いた。

 

「現状、暗部の者達が見境なく騎士団に対して襲撃を仕掛けてきている。私は嫌な予感がしてここに来たんだが、心配はいらなかったみたいだ」


 ここには帝国と王国、両国の最高戦力である本物の使徒がいる。ここほど安全な場所はないだろう。

 

「それでなんだが、状況説明のために一緒に来てはくれないか」

「それは協議に僕らも行けるという認識でいいんですよね」

「ああ」

「なら構いません。僕らも情報が欲しいですから」

「ありがとう。少し待っててくれ」


 ラーヴェンは腕輪型の通信用魔道具を起動し、他の騎士達へと連絡を取る。

 そんな風にラーヴェンが通信している間に、アリアがそっとアレスへと近づき静かに尋ねる。

 

「時間ないのにいいの」

「どっちにしろ僕らには情報が何もないんだ。なら知ってそうな皇帝に訊くのが一番でしょ」


 その発言は完全に皇帝を情報源としてしか見ていないような発言であるのだが、アリアはあえて突っ込まずに、なるほどと頷いた。

 それから、援軍の騎士が数人メルトの警護のためにやってくるとこの場を彼らに任せラーヴェンに連れられカムと皇帝であるアッシュのいる会議室へと向かった。

 ラーヴェンは会議室の扉をノックする。

 

「ラーヴェンです」

「・・・・・・ラーヴェンか、入れ」


 中から聞こえるのは疲れたアッシュの声

 

「失礼します」


 中に入ると円卓にてアッシュが肘を突きながらもイライラしているのか指で小刻みに円卓を叩いている。その隣で控えるのは疲れているせいかいつも以上に老けて見える宰相であるルーファス、その対面に座るのはカムだった。

 アッシュはその疲れた面持ちを上げ、ラーヴェンの後ろから入ってくる人物達に目を瞬いた。

 

「セイナ、それにお主らは」


 漆黒よりもなお黒い闇色の髪を持つ少年がアレスだとすぐに気づけた。彼があの『絶望の使途』なのだとその瞳に畏怖の念が生まれる。

 一方、アレスはというと初対面の皇帝と宰相をなんとなく偉い人なんだろうなと、彼らが情報源になり得るかもしれないと考えていた。

 

「アレス、どうしてここに」


 カムもまたアレスの登場に驚く。てっきりリーゼロッテ救出に向かっている者だと思っていた。

 

「リーゼを助けに行こうにも敵の拠点がどこにあるのか知らないので、ラーヴェンさんに連れてきてもらいました」


 緊急事態だというのにいつもと調子の変わらないアレスに安堵していいのか、単に何も感じていないのを悲しむべきなのか、分からないままカムは一度目を伏せる。

 

「そういうことでしたか、陛下、アレス達の同席を許可しても」

「構わん。我とて、彼奴と一度対話してみたかったのだ」


 アッシュからすればアレスは帝国を敗北へと追いやった悪魔のような存在、だが敵対心は沸かなかった。

 もし、アレスが好戦的ならば話が変わってくるが、彼の瞳はどこまでも冷え切っていた。その瞳を見てしまうとラーヴェンやレインが抱いた印象と同様の印象を自然とアレスに抱いてしまう。

 

「ラーヴェンは持ち場に戻っておれ」

「陛下、その前に一つ報告が」

「なんだ」

「メルト殿下が狙われました」

「なんだと!?」


 アッシュは衝撃的すぎて思わず机を叩いて立ち上がってしまった。

 

「幸い、アレス君達のおかげで暗殺者は仕留められましたが、念のため騎士を複数名護衛につかせています」

「そうか」


 アッシュはほっと胸をなで下ろし、アレスへと向き合った。

 

「息子の命を救ってくれたこと、感謝する」

「いえ、気にしないでください」

「そうはいかん。この反乱が終わった後、しっかり礼をさせてほしい」


 皇太子の命を救ったともなればどのような人物であろうとも恩賞を与えるべきだというアッシュの意見にルーファスは口を出さない。

 

「なら、今その礼を貰っても」

「む、今は暗部の反乱の鎮圧で忙しいのだが」


 常識外れとは聞いていたが、このような一大事で平然と礼を要求するアレスに顔をしかめてしまう。

 

「なんだ」

「暗部の拠点を教えてほしいのです」


 その要求にアッシュとルーファスまでもが瞠目し、カムは呆れる。

 

「・・・・・・・おい、ルーファス」

「なんでしょうか」

「皇太子を救った礼に現在のみ必要な情報を求めてくる者が今までにおったか」

「いえ、そのような者今まで一人としておりません」


 先代から皇帝に仕えるルーファスの解にアッシュは口を震わせた。

 

「くくく、はははははは、王国の英雄は随分と面白いな」


 アッシュはあまりに常識外れな要求をしたアレスが愉快で笑いだしてしまう。

 これが冷酷非道な蹂躙者である『絶望の使途』と誰が想像できる。こんな者、愚直な馬鹿でしかない。目的以外興味がない。だが、その目的は友の救出、それは人の感情を持つ優しき人間の行い

 真実の姿と噂の違いに笑いが止まらない。

 

「強い芯、なるほど、あやつが負けてしまったのも道理だ」


 思い出すのは“誰か”の命で王国へと使途討伐に向かい返り討ちに遭い殺された英雄、彼が負けたのも納得できる。アレスは虚無の中に強い芯を感じさせた。その芯こそが彼の行動理念であり、誇りを捨て戦場ではなく暗殺によって彼を殺そうとしたヴェイグが負けるのも仕方がない。

 

「いいだろう。お主の願いを叶えよう。だがその前にこちらの問題を片付けねばならない。手伝え」


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