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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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治癒の奇跡

 途中襲撃を受けたが難なく退けることに成功したアレス達はメルトの部屋へと向かう。

 しばらくして辿り着いたメルトの部屋の前には二人の騎士が血を流して倒れていた。

 

「新しいですね」


 騎士から流れる血はまだ乾いていない。この騎士達には悪いがまだ間に合う。アレスは騎士の死体を無視してメルトの部屋の扉を開けた。

 中にはベッドで眠るメルトの姿しか見えない。

 アリアとセイナも部屋に入ろうとした時、アレスはおもむろに小さく跳び呪刀宵闇を引き抜き、天井めがけて横に薙いだ。

 直後降るは血の滝、続いて黒装束の暗殺者が床に落ちた。真っ赤なカーペットを醜い血で汚す。

 

「一人だけだったね」


 アレスは呪刀宵闇を鞘へと納めた。

 

「今のよく気づけたわね」

「この部屋に誰かいることは予想してたからね。それよりも」


 アレスは暗殺者が床に落ち大きな音をたてたというのに目覚める気配のないメルトを診た。

 脈はある。しかし、まるで死んだようにピクリとも動かない。

 

「セイナ、直近で彼が起きたのはいつ」

「・・・・・・一週間くらい前」

「そうか」

「予想通りでしたね」

「まぁね」


 メルトの腕から手を放し、予想通りの結果に肩をすくめる。

 

「どういうことよ」

「この手のことは専門じゃないけど昔同じような症状の奴を見たことがある。彼はどうやら昏睡状態にあるね」

「昏睡?眠ってるだけじゃないの」

「ただ寝てるだけならそれなりの衝撃を与えれば起きるはずでしょ。だけど起きない。彼は起きた時はずっと発狂してたんじゃないかな」


 その予想にセイナが目を瞬かせる。

 

「・・・・・・当たってる」

「やっぱり、それなら間違いなく毒だね。戦時中帝国暗部が使ってきた毒、一時的に幻覚を見せて混乱させる。福次作用で落ち着くと数時間昏睡状態に陥ってしまうんだ。多分今回彼に使われたのはその毒の改良版と言ったところかな」


 毒にも様々なモノがあるヒュドラのような命を直接奪う猛毒や、今回メルトに使われた幻覚を見せる猛毒、どちらも厄介極まりない毒だ。

 メルトが一向に起きないのは後者の猛毒の福次作用が長引いているからなのだろう。

 

「ルーミュ」

「呼んだ」


 光が集まり瞬時にルーミュは姿を見せた。

 

「彼に盛られた毒を消すことは出来ないかな」

「私が司ってるのは光だから、呪いなら解綬できるけど純粋な毒は無理かな」


 アレスが頼った光神ですら治療できないのかとセイナは落ち込み目を伏せた。しかし

 

「治癒の奇跡くらい使えるでしょ」


 アレスは食い下がらない。

 

「こっちでの奇跡の行使は禁止されてることくらいアレスも知ってるでしょ」

「知ってるよ。だけど奇跡を使えば起こすことは出来なくても毒の成分くらいは抜けるでしょ」

「いくらアレスのお願いだからってそれは根本から無理だよ。私が他の兄弟達から排除されちゃうよ」


 神々が定めたルールに則ってそれだけは使えないとかぶりを振るルーミュにアレスはなおも言葉を続ける。

 

「なら、治癒の奇跡の使い方を教えて」

「な!?人間が奇跡を行使出来るわけないじゃない!」


 ウンディーネが慌てた様子で否定した。その様子はどこかアレスを危険視しているように見えた。

 宵闇はそれを見逃さないが、特に何も言わず納得する。

 奇跡とは神力を用いた神のみが使える人間で言う魔法のような力、その力は魔法なんて比にならないほどの絶大な力を持っている。そんな力を人間が使えるようになるなど神からしたらたまったことじゃない。

 

「僕には神力があるんでしょ。それに僕はルーミュの使徒だ。治癒の奇跡を使えない道理はない」


 ルーミュは光の神であり、その光の力で傷や呪いなどを浄化することが出来る。故に奇跡によって毒を浄化できないわけがないのだ。

 

「なんで助けようとするの」

「え?」


 ルーミュの表情が神のモノへと変わる。

 

「これは、戦争中に暗部に指示を出してアレス達を皆殺しにしようとしたかもしれないんだよ」


 そうだ。メルトのトラウマはアレスによって刻まれてもの、逆を言えばメルトがあの戦場にいたからこそ刻まれたトラウマ、皇太子ともなれば指揮官としてあの場にいたに違いない。ならば、メルトは間接的にアレスの仲間達の仇だ。決して許すことの出来ない絶望を刻みつけさせた張本人、そんな人物を救う価値はあるのかと、あの死戦場から続く怨嗟の鎖を引き合いに出してくる。

 アレスはその記憶を思い出す。

 だが

 

「いいよ別に」

「本当に」

「ああ、終わったんだよ。仇は討ち終わった。ならそれでいいよ」


 もうあの死戦場での敵討ちは終わったのだ。全て殲滅した。何一つ残さず、滅ぼし尽くした。ならもう、仇討ちをするのはもういいだろう。それにあれは戦場での出来事だ。割り切らなければやってはいけない。

 

「それに、彼の存在すら今まで知らなかったんだし、別にいいよ。早く治癒の奇跡教えて」


 引き下がるつもりはないと、アレスのその空虚の中に宿る真摯な瞳にルーミュはため息を吐いた。

 

「もう、分かったよ。奇跡の使い方はさすがに教えられないから私がアレスの体を使って擬似的に奇跡を行使するよ」

「ありがとう」


 アレスが微笑むとルーミュは頬をほんのりと赤くしてそっぽを向いた。

 

「・・・・・・本当にいいの」


 控えめにそう尋ねたのはセイナだった。

 ルーミュの言葉通りなら、アレスがメルトを救う理由はない。それどころかこの場で殺しても何の違和感がないほどに因縁深かった。

 

「別にいいよ」

「暗部が気にくわないだけです。勘違いしないでください」


 唇をとがらせ宵闇はアレスの意に反して、心の内を代弁した。

 

「宵闇」 

「代弁しただけじゃないですか」


 アレスは毒に侵され倒れるメルトの姿に過去の情景がいくつも蘇り重なる。メルトのように毒に侵され死んでいった者達を何度も見た。

 思い出されるのは度し難い怒りと何もすることの出来ない無力感、そして帝国暗部への強烈な敵対心と殺意

 それらが虚無の心にメッキとして張り付いていく。

 だが、結局は記憶の中の感情、それらがアレスの表情に表れることはない。

 

「もしかして拗ねてる」

「拗ねてません」

「そう。ルーミュ」

「は~い」


 話を切り上げて、アレス達はメルトの治療に入った。

 セイナはその様子を唯々不思議に眺めることしか出来ない。

 ルーミュがアレスに寄り添い、アレスの中にある神力を操る。



―――治癒の奇跡



 メルトに光が舞い降りる。

 ただそれだけ

 

「これでいいと思うよ。毒は抜いたからあと一日したら目覚めるんじゃないかな」


 メルトの表面上の様子に特に変わるところはない。ただ心なしか呼吸が先ほどより落ち着いていた。

 

「じゃ、後は医者にでも見て貰って」


 それだけ言い残すとルーミュは自らその姿を消した。

 すると、カチャカチャと金属のすれる音が廊下から聞こえてきた。

 

「ち、先に言いなさい」


 ウンディーネは先に帰った姉に悪態を吐き姿を消す。突如姿を消した女神達をよそにアリアは警戒、魔剣フラムに手をかける。宵闇は闇を利用し自らの姿を幻に包んだ。

 徐々にその音は大きくなり、アリアがフラムを抜こうとするのをアレスが制止する。

 

「味方だ」


 それにアリアは警戒を解き、一歩下がった。

 

「これはどうなって、姫様、それにあなたたちは」


 そうして姿を見せたのは鎧に身を包んだ帝国騎士団騎士団長ラーヴェンだった。


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