第044話 回避盾は漆黒鳥ブリオンの退治とともに
ゲートキーパーが守っていた扉を過ぎるとしばらく同じような洞窟が続いた。
それもすぐで、道の先に光が見えた。
「出口か」
「ついに、新しい都市ね」
「楽しみだね」
洞窟を抜けるとそこは短い草が生え続ける草原だった。
後ろを振り返ると岩山があり、そこに先ほどまで通ってきた洞窟の口がぽっかり空いていた。
地平線まで見えるほど広がった草原。
まばらに短い木や大きな岩があるくらいで何もなかった。
遮るものがないお陰で風が気持ちよく通り過ぎる。
「これで新しい都市を探せってのがまたどうしたらいいんだ?」
「何にもないわね」
俺の愚痴にサッシャがのっかった。
正直都市がある方向さえ分からない。
「とりあえず、歩いてみようよ」
ピティがそう提案する。
反対するにも情報も何もないのでとりあえず、このまままっすぐに歩くことにした。
そうして歩いてしばらく。
風景は一切変わらず、ただずっと草原が続いていた。
「モンスターはいるけど、町の影すらねぇ!
どこに行けっていうんだよ!」
「これは想像以上に難解な状況だね」
ピティが前もって調べていた情報では、ここにたどり着いたプレイヤーは未だ新しい都市へ行く術を手に入れていない。
「木陰で一旦作戦タイムだ」
「そうね。このままじゃ埒が明かないわ」
コトハちゃんがいるから簡単に見つかると思ったが、甘かった。
町はおろかイベントの影すら出ない。
仰ぐように空を見ると鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。
ここに住んでいるようだ。
目で追うと、近くの木に飛び降り、美しい声で鳴いていた。
「鳥は自由だってのに、俺たちは行く宛てなしでさまよってんのか」
「鳥? どこにいるの?」
サッシャが疲れて座り込んでそう返した。
「そこの木にいるぞ。たぶん、巣でもあるんじゃないか?」
その言葉に、コトハちゃんがピクリと反応した。
「本当ですか? 見てみたいです!」
「脅かすなよ?」
俺が鳥が止まった木を指さすと、コトハちゃんとサッシャはその木に向かって走り出した。
サッシャがついていったのは意外だった。
「ピティ、これは軽くお手上げだ。
何かめぼしい情報はないか?」
「ううん、どのプレイヤー私たちと同じ感じ。
手がかりさえ見つからずに困っているって」
俺たちが新しい都市を目指したのは遅くはない。
とはいえ、一番手でないのである程度のプレイヤーがここで立ち往生しているらしい。
「ゲートキーパーを調べなおすか?」
「それしかめぼしい情報ないもんね」
「正直、このパーティーだと勝つのがやっとなんだよな」
「でも、現状、他に手もないよね」
「だな」
しばらくして、コトハとサッシャが慌てた様子で戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「おじさん、小鳥が巣で怪我しているみたいで」
「怪我?」
「うん、翼を痛めているようなんです」
「ミヤコ、どうにかできるかな?」
サッシャとコトハちゃんが心配そうに俺の顔を見た。
「うーん、ポーション系を飲ませればと思うが、まずはヒールで回復してみるか?」
「うん! 分かった!」
俺の言葉にコトハちゃんとサッシャがまた木のほうに走っていった。
取り残された俺とピティはまた話に戻った。
「ってことで、ゲートキーパーを安定して倒すなら魔法系のスキルを覚える必要があるな」
「ははは、私たち相変わらずの脳筋パーティーだしね」
正直、1から魔法スキルを鍛え上げるのは気が乗らない。
自分の戦闘スタイルと違うというのもあるし、メンバーに慣れないことを覚えさせるのももったいない気がする。
「おじさーん」
コトハちゃんとサッシャがまたこちらに戻ってきた。
「どうした?」
「怪我が治ったよ」
「それはよかった」
「どうも、ここら辺の小鳥をいじめている悪い鳥がいるらしいの」
「へぇ」
俺の思考はこれからどうゲートキーパーを倒すかに移っていた。
「で、退治してほしいんだって」
「そうなんだ」
イベントすら発生していないこの状況で唯一の手がかりはゲートキーパーだ。
イベントすら……
「えっ? 退治?」
「はい、漆黒鳥ブリオンの退治です」
俺はピティの方に視線を向ける、が、彼女もその名前は聞いたことが内容で首を横に振った。
「ちょっと、待ってくれ。それ誰から聞いたんだ?」
「誰からって? ねぇ?」
コトハちゃんが不思議そうにサッシャを見た。
「クエストよ。
鳥を助けたら急に現れたの」
「マジか!」
イベントなんて何もないと思っていた。
「その漆黒鳥ブリオンってのはいつ現れるんだ?」
「黄昏時、夕方の時に夜の戸張とともに羽ばたくそうです」
「どうも巣にある卵を狙っているみたいなの」
「なら、待ちだな」
それが空中都市につながるかは分からないが、何もないよりもましだ。
俺たちは鳥がいる木の下に座ると夜が来るのを待った。
太陽が傾きはじめ、頬にあたる風が少し冷たくなってきた。
空が蒼から橙色に染まり、その奥が紺色とあいまいな境界を持ちながら織物のような様相を見せた。
ふと、目をやると地平線に沈みかけた赤い太陽に二つの黒点が見えた。
それはだんだんとこちらに近づいてくるに従い、その姿がはっきりと見え始めた。
黒い羽根と黒い脚、ひときわ大きい嘴は黄色く染まり、その中には鳥にあるはずもない鋭い牙があった。
一目でそれが、漆黒鳥ブリオンと分かった。
俺たちは立ち上がると武器を構えた。
「ブリオンは鳥の卵を狙っている。
コトハちゃんは最後尾に構えて、前線は俺とサッシャでやる」
「はい!」
「任せなさい!」
おそらく、ピティのハンマーはブリオンには当たらないだろう。
「挑発でうまくひきつけられたら、ピティは一撃で沈めてくれ!」
「分かったわ!」
ブリオンが空を打つ音が耳に入ってくる。
「≪挑発≫!!!」
俺が≪挑発≫を使うと同時にブリオンは一瞬こちらを見た。
が、すぐに視線を外し、巣がある木を見た。
「くそっ、目標一直線かよ!
サッシャ、撃ち落とせるか!?」
「やってみる!」
「ピティ、木に登って巣を守ってくれ!」
「了解!」
ブリオンが巣に近づこうとしたその瞬間、俺は≪泥の短剣≫を鞭のように伸ばし振るう。
が、ブリオンは羽ばたき一つして舞い散る木の葉のようにそれを避けた。
「ミヤコ! 急いで!」
ピティは木に登り、巣を守っているが、すでにブリオンの一羽は巣の近くに辿りついていており、その鋭いくちばしでピティを攻撃している。
足場の悪い細い枝の上で、ピティは攻撃できず、ただ身を挺して巣を守るしかなかった。
「くそっ」
歯がゆさから思わず言葉が漏れた。
サッシャの投げナイフも俺の≪泥の短剣≫も宙を飛んでいるブリオンにはまるで当たりもしない。
「サッシャ、もう一羽を近づけさせるな!」
俺はピティを狙っているもう一羽のほうに走り出した。
すでにピティの体力は半分ほどに減っている。
このままジリ貧でいたら間違いなく先にピティが倒れる。
「ワイドヒール!」
減っている体力をコトハちゃんが回復する。
「ピティさん、防御を上げます!」
「ありがとう!」
俺は巣のある幹を蹴ると、大きく飛び上がり≪泥の短剣≫でブリオンを斬りつけた。
「シャアアアアアアアアア!!!!!!」
短剣で斬りつけられ、ブリオンが大きく声を上げる。
と、同時、ブリオンは大きく空に羽ばたき、俺たちに向かい鳴き声を上げた。
「キイイイイイイイイイイ!!!!!」
耳に痛い高音に思わず耳をふさぐ。
その瞬間、俺の体が急に重くなった。
状態異常:衰弱。
ブリオンの呪いの鳴き声を受け、俺とサッシャとピティは衰弱状態になった。
この状態になると一定時間体力が減り続ける。
コトハちゃんは持ち前のMENの高さで状態異常は免れたみたいだ。
「ワイドヒール!!!
皆さん、減る分は私が回復させます!」
MEN特化の広範囲ワイドヒール。
本来なら範囲外のサッシャにまでその効力が及ぶ。
加えて、MPの高さによりワイドヒールの連発。
衰弱の効果をほぼ相殺している。
それを見たブリオンは、くるりと宙を回るとコトハちゃんに向けてまた甲高い鳴き声を上げた。
「大丈夫です。ダメージはありません!
ワイドヒ――って、あれ?」
唱えたはずのワイドヒールが発動しない。
「魔封か!」
「そんな、私には状態異常は効かないはずです!」
「コトハちゃん、鈍足結界と同じだ。
ブリオンの周囲で魔法は使えない」
精神特化のコトハちゃんには確かに状態異常は効きにくい。
相手がコトハちゃんよりも高い精神を持った場合はその限りではない。
が、今のコトハちゃんのステータスを鑑みても、ブリオンが彼女の精神を超えるとは到底思えない。
ということは、≪スローシンプトム≫と同じタイプだ。
≪スローシンプトム≫は術者を中心に鈍足になる結界、通称鈍足結界というものを張る。
この結界内にいる限り、対象者はすべて鈍足状態となる。
これは状態異常というよりも、結界内における仕様そのもの。
なので、いくらコトハちゃんでもそれを防ぐことはできない。
そして、ブリオンが行った魔封は、いうなれば魔封結界。
一定範囲に入っていれば魔法の使用が禁じられてしまう。
「おじさん、どうしよう?」
「いったん、戦線から離脱してくれ。
コトハちゃんの範囲はブリオンよりもかなり広いはずだ!」
「分かった!」
コトハちゃんの後姿を視線の端で確認して、ピティを助けに再度、幹をけってブリオンの高さまで跳ね上がる。
「二刀乱舞――星屑龍星!」
≪泥の短剣≫がブリオンを斬りつける。
が、すぐさま、跳躍は重力に負け、二撃目が空を切った。
「くそっ、高さが足りない」
ブリオンは巣の近くのピティばかり狙って、≪剣の舞≫の効果が発揮できない。
≪挑発≫でこちらに向けばいいが、それさえも一瞥をくれるだけでこちらに向かってこない。
「ごめん、ミヤコ、足止めできない!」
サッシャのその言葉と同時に、二匹目のブリオンがピティに向かう。
コトハちゃんは頑張って走っているが、まだブリオンの魔封結界の内側らしい。
ピティの体力は衰弱と合わせてすでに瀕死状態だ。
やるなら一撃で落とすくらいの威力がいる。
この状況を打破するには、乱舞系じゃだめだ。
威力重視のスキル。
短刀、それも二刀系のスキルはどれも一撃の威力よりも手数を重視する。
威力を重視するならそれこそ大剣、より小回りを重視するなら長剣になる。
が、都合よくそんなスキルを取得しているはずもない。
「ミヤコ! あとは頼んだよ!」
俺が悩んでいると同時にピティが叫んだ。
それと同時に、ピティは襲ってきた二匹のブリオンをつかむとそのまま木から飛び降りた。
「ピティ!」
つかまったブリオンが絶叫を上げる。
二匹のブリオンの身体から黒い靄が漏れだし、それが剣のように鋭く尖りピティの身体を貫いた。
その瞬間、ピティの体力が0になり彼女の身体が透明になっていった。
半透明の身体になったピティとともに地面に落ちてきたブリオン。
この位置で俺が逃がすはずがない。
「二刀乱舞――星屑龍星!!!」
ブリオンが再び空に飛び立つ前に、俺は2体のブリオンを斬り伏せた。




