第004話 回避盾は生産職とともに
「スキル『紙の命』を取得しました」
暗闇の中でスキル取得のメッセージが流れ、そして、徐々に目の前の風景が戻ってきた。
俺は始まりの町『ティレス』に戻ってきた。
「このスキルは初めて見たな」
ウィンドウを開き、スキルの解説を見る。
スキル:紙の命
取得条件:初回の戦闘で一撃で死ぬ
効果:被ダメージが2倍になる
おい、これ完全にデメリットしかないスキルじゃねぇか。
こんなの取得してしまったら、キャラメイクからやり直したいな。
「す、すみませんでしたぁ!」
俺がスキルウィンドウを眺めて呆然としていると見たこともない女性が目の前で土下座し始めた。
「えっ? なに?」
「ワタシがトレインしたせいでぇぇ!」
トレインという単語でさっきの光景を思い出した。
よくよく見てみると、確かに俺たちの横を通り過ぎたプレイヤーに似ている気もする。
金色の髪に桃色の瞳。
白銀に近い白い服に大きな胸。
俺と変わらない身長だから女性にしたら大柄だ。
背中には巨大なハンマーを背負っており、土下座している彼女の背中にひときわ存在感を放っている。
横には困ったような顔をしたコトハちゃんがいた。
「いや、まぁ、故意じゃないんなら仕方ないっていうか……」
さすがに公衆の面前で女性を土下座させるのは周りの目があるので若干ひけてしまう。
とりあえず、まずは顔を上げてもらわないと。
「本当にすみませんでした」
「いや、俺も初戦闘だったし、デスペナがなかったし、まぁ、ラッキーだったしさ」
「本当?」
「あぁ」
「うぅ……ありがとうございます。
私の名前はピティです。生産職目指しているんです」
「俺はミヤコ。
よろしく」
「はい、名前はさっきコトハちゃんから聞いたよ。
なんでもベータプレイヤーだったらしいと」
「まぁね。あの地龍種ってことは、もうダミア鉱山に潜っているのか?」
「あっ、よくご存じですね。
鉱石採取に夢中になっていたらいつの間にか囲まれてしまって」
「で、逃げていたら、あぁなったと」
「面目ない」
「あ、あの……おじさん……」
「ん? なんだ?」
「生産職ってなんですか?」
「その名の通りさ。武器を作ったり服を作ったり、色々なものを作る職人だよ。
彼女の装備から想像するに武器職人かな?」
ピティはご名答ですと笑った。
「でも、初めの職にはなかったですよね?」
「あぁ、なるほど。
このゲームには職業スキルとフリースキルってのがあるんだよ。
スキルを獲得するたびにステータスや行動に補正がかかって、キャラクターのパラメータに独自性が出てくるんだ」
「これですね?」
コトハが俺にスキルウィンドウを見せた。
「そうそう……って、またフリースキル増やしてるんだ」
「ははは……」
スキル:パラプリンセス
取得条件:ゲーム開始60分でのべ200人から話しかけられる
効果:パーティー内での被スキル時の効果が格段に上がる
200人ってこの娘は化け物か。
「で、職業スキルはイベントやギルドで取得できて彼女は武器生産のスキルを伸ばしているって感じかな。もちろん、レベルアップで得られるステータスポイントもそれ用に配分する必要あるけどね」
「へぇ」
コトハちゃんは分かったのか分かっていないのかあいまいな返事を返した。
「じゃあ、私も回復しながら武器を作ったりできるんですか?」
「できないこともないけど、生産職はDEXが上がるからヒーラーとは相性が良くないかもな」
「そうなんですか。ちょっと、可愛い服とか作ってみたかったです」
「まぁ、自由にやれるのがこのゲームの醍醐味なんだし、そのうち落ち着いたらチャレンジしてみたらいいんじゃないかな」
「はい、楽しみです!」
そこで、ふと、ミヤコは思いついた
「なぁ、ダミア鉱山にもぐっているってことは、レベルは20台か?」
「ですね。ついさっき23になったところです」
リリース直後と言え、かなり飛ばしているな。
コトハがレベル13で、俺が1か。
そういや、俺、ベータの続きやっている気分で戦闘してなかったな。
「なぁ、殺されたお詫びってわけじゃないが、武器を作ってもらえないか?」
「別にいいですけど……そんなに強くないよ?」
「いいんだよ。ピティに作ってもらうってのに価値があるんだよ」
「そうなの?」
俺の言葉に、ピティが少し照れたように顔を赤らめた。
「素材は俺たちがとってくる。
そうすると、ピティは生産に集中できるだろ?」
「いいの?」
「もちろん、俺たちにも武器を作ってもらえる利点があるからな。
どうせなら、そっちの作りたい武器の素材もいってくれればついでに集めてくるぞ?」
「本当? ありがとう!
じゃあ、『茨の金槌』作りたいのよね」
「素材はラムダソーンか。
OK。それなら少し時間かかるが集められそうだ」
「えっ? 本当? やったー」
「じゃあ、集めたらチャットで連絡するぜ」
「うん、待ってるよ」
そういうと俺たちはピティと別れた。