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伝説の回避盾は姪っ子とともに渡り歩く  作者: 物戸 音
第一章 Ver.1.00 正式リリース
35/44

第035話 回避盾は呪詛とともに

「はぎ、倒すぞ」

「本来ならあの勘違い男にはワシが一発喰らわせたいところだが、動けぬから頼む」

「任せろ。俺のはぎに手を出したんだ。

 一発と言わず乱舞だな」

「ふふふ、『俺のはぎ』か……言ってくれるのぅ」

「違ああぁーーーーーうっ!

 僕のはぎちゃんだ! はぎちゃん、待っていてね」


 見た感じ強い装備にも見えない。

 が、何か違和感がある。


「従魔召喚! ドラグパペット!」


 男のその言葉とともに、地面に魔法陣がいくつ浮かび上がりそこから木人のような人形が現れた。


「このスキル……呪詛系のジョブスキル持ちか」

「そうだよ。

 僕は≪絶死カウンター≫があるからね。

 お前は絶対に勝てないよ」


 呪詛系ジョブスキルは呪いに代表させるように相手のステータスにデバフをかける職業だ。

 魔法系のデバフと違い、呪詛系は必中なのだが、なにより発動が遅い。

 しかし、この必中ってところが俺と相性が悪い。


 それに、≪絶死カウンター≫だ。

 ≪絶死カウンター≫は倒された場合、相手プレイヤーに特定のデバフかダメージを与える。

 発動が遅い呪詛系のジョブスキルの中である意味最速の効果を出すのが、この≪絶死カウンター≫だ。


 違和感の正体はこれか。

 勝つつもりがない逃げの一手の装備だと思ったが、最悪死んでも問題ないと思っている。

 むしろ、道連れを狙っている可能性がある。


 いくつものドラグパペットが俺に向かって向かってくる。

 ≪泥の短剣≫でそれらをなぎ倒していく。

 ミラとハクロのお陰でドラグパペット程度なら一撃のものと葬り去れる。

 だが、倒しても倒しても、ドラグパペットが湧いてくる。


「はぎちゃん、ずっと見てたよ」

「はっ、ワシは主殿にそれほど呼び出されなかったと思ったのじゃが」

「うん、酷い奴だよね。

 僕ならずっと呼び出してあげる。ずっとそばにいてあげるから」

「傍にいるだけではワシの主には足りんの。

 強さがほしいの」

「分かったよ。はぎちゃん、この男を倒せば、認めてくれるってことだよね」

「ワシの主はそう簡単に負けぬよ」

「そういう強情なところも好きだよ。

 まずは、一緒に喫茶店に行こう。

 そして、釣りもしないと。

 あの男とやったことはすべて僕とやろう。

 それに結婚式も上げよう。

 NPCと結婚できるんだよ。僕とはぎちゃんの家を買おうよ」

「ちょっと待て、なんではぎが釣りしたことを知ってんだよ」

「なんで? 当たり前だろ?

 ずっと僕ははぎちゃんを見てきたんだから。

 未来の旦那様だから当然だよね」


 サッシャと釣りをした時に感じたあの視線はこれか。


「そろそろ時間かな。

 起動、鈍足呪詛!」


 俺の足元に紫色の結界が浮かび上がった。


「呪詛発動? 早すぎるだろ!」

「バトルロワイヤル開始前から対象にしてたからね」


 時間差発動の呪詛をバトルロワイヤル開始前に仕掛け、開始後に発動。

 回避不可の必中の呪いで俺の動きが一気に遅くなった。


「鈍足呪詛を発生させてもその速度か」


 鈍足呪詛を発動しても普通よりも早い。

 だが、当然ハクロのトップギアよりも遅いし、ミラの月下太刀雨(げっかのたちあめ)も避けられそうにない。二刀ならなおさらだ。

 ハクロとミラの前にあっていたら危なかった。


 鈍足状態で俺の唯一の利点が下げられた。

 挙句相手は≪絶死カウンター≫持ちだ。


「じゃあ、僕は逃げるよ!」


 男は急に後ろ向いて逃げ出した。


「ドラグパペット! 僕の逃げる時間を稼げ!」


 男を追うと下が、ドラグパペットが行く道をふさぐ。

 はぎは倒れこみ、男を追う道にはドラグパペットがふさいでいる。


「はぎ!」


 俺は倒れているはぎを抱き起こした。


「主殿、すまぬ。

 我が足手まといに」

「気にするな。

 そんなことより大丈夫か?」

「指輪の中に戻りたかったが、どうも身体がいうことを聞かぬ」

従魔拘束(テイマーバインド)は、従魔に対して帰還を禁じる技だ。

 あと、同時にいくつかの状態異常がかけれれているな」

「主殿は大丈夫なのか」

「まぁ、俺に状態異常はきかないからな」


 もっとも、常に猛毒状態ではあるが。


「あいつを倒さないと、従魔拘束(テイマーバインド)は剥がせないな。

 それに早く捕まえないと」


 呪詛系ジョブなら逃げの一手は最善策だ。

 必中の代わりに発生の時間差がある。本来ならタンク役で守ってもらう必要があるが、バトルロワイヤル形式なら逃げるしか手がない。


「さて、どう探すかだな」

「主殿、あの男には蜘蛛の糸をつけておいた。

 相当なことがない限りこれをたどれば行けるはずじゃ」


 はぎは人差し指を上げて、細い糸を見せた。


「助かる。追うか」


 はぎは歩き出した俺についていこうと震える膝を抑え立ち上がろうとしていた。

 さすがに、はぎを連れまわすのはつらいか。


 俺ははぎの目の前でしゃがむと背中を見せた。


「すまぬ。

 ワシが足手まといなせいで……」

「気にするなと言っただろう」


 はぎが俺の肩に手をやると、背中にもたれかかってきたので、手を後ろに回して「よいしょ」と立ち上がった。


「主殿……おじさんくさいぞ?」

「よいしょくらいでそういうなよ」

「最もスマートにだな。あるじゃろ?

 お姫様抱っことかの?」

「あれは両手が使えないから戦闘時はつらいんだよ」


 いや、はぎを背負っているが、その両手はずり落ちないようにはぎのおしりを抑えている。


「なので、緊急時は手を放すからしがみつけよ」

「すまぬ」


 はぎがずり落ちないように身体を揺らして落ちないように調整する。

 はぎの小さな呼吸が首筋をくすぐる。


「じゃあ、いくぞ」

「うむ」


 はぎを背負って平原を走り出した。

 はぎがいうには結構距離があるので高速移動のアイテムかスキルを使用しているらしい。


「走って追いかけるしかないか」

「どのみち、このフィールドではそれしかないじゃろ」


 なるべく揺らさないようにはぎを背負い彼女の指示に従う。

 マップを確認すると、男は戦闘がない方向へ移動しているようだ。


「逃げ回っているわけじゃな?」

「そりゃ、巻き込まれたら、従魔拘束(テイマーバインド)の効果がなくなるし、

 切り札の≪絶死カウンター≫も他に向くからな。

 あいつ的には俺が死ぬまで逃げ続けるのが理想だろう」

「卑怯じゃな」

「まぁ、呪詛系のジョブ選ぶとソロ戦はそうなるさ。

 ある意味まっとうな戦い方だ」

「そういうものなのか?」

「そういうもんだ。

 むしろ、あいつは意欲は偏っているが戦闘スタイル的にはほめられたところがあると思う。

 特に、グランドバトルの始まり前から呪詛をかけ、開始時に発動するようにするなんて凄いな」


 これは完全に運営の穴をついたやり方だ。

 卑怯というよりも褒められる点だ。


「通常街の中なら呪詛の効果発動は即時無効になるが、呪詛対象にするまでは戦闘行動対象にならないという点を上手く使った抜け道だな」


 力のない呪詛系のジョブ職がモンスター相手に物陰に隠れて呪い。

 発生時に戦闘に移りというのはごくありふれた戦闘風景である。


「悪用方法が色々思いつくから恐らく規制の対象になりそうだけどな」

「やはり、卑怯じゃないか」

「こういうなのは発案者は褒められるものなんだよ」

「主の考えは分からん」


 その時、空からぱらぱらと小粒の雨が降ってきた。


「雨じゃな」

「このまま追いたいがいいか?」

「もちろんじゃ」


 冷たい雨と風が吹き始める。

 はぎを抱えている背中だけは温かかった。


 突然、何の脈絡もなく走る速度が落ちた。


「どうした?」

「いや、急に……もしかして……」


 確認のためにステータス画面を開く。

 敏捷や攻撃力関係のステータスが軒並みデバフを示す赤色の文字になっている。


「やばいな。呪いのスキル系が発動している。

 あいつ、会った時に俺に色々かけたな」

「主殿、相手はそう遠くないぞ。

 おそらくこの雨で動きが鈍ったみたいじゃ」

「ナイスだ、はぎ。

 一気に追いつくぞ」


 前傾姿勢で泥の上を走り抜ける。

 ≪水泥の交わり≫がある俺には泥の上でも移動速度はいつもと変わらない。

 対して、相手は泥のせいで移動速度が落ちている。


 しばらく走ると、人影が見えた。


「あの男じゃ!」

「よくやった、はぎ!」


 俺は足に力を入れて一気にその男の前に躍り出た。


「お前は! なんで、僕のところまでこれるんだ!」

「ふふん、これじゃな」


 俺の背中から降りるとはぎは指先の白い糸を見せた。


「これは、糸?」

「そうじゃ、ワシの蜘蛛の糸じゃ。

 これは丈夫でなそう簡単に切れはせぬ」

「はぎちゃん、こんなに僕と離れたくなかったんだね!」

「たわけ! 違うに決まっておろう!」

「はぎちゃん、分かる。

 僕も寂しかった。でもね、今はダメなんだよ。

 寂しいけど僕の言うことを聞かないと」


 男がにやりと笑ったのを見て、はぎは思わず一歩後ろに下がった。


「ふぅ……俺のいないところで勝手に話を進めるな。

 はぎは俺のパートナーだ」

「はぁ! 何を言っている!

 はぎちゃんは僕の嫁だ! 一目見た時からそう決まってるんだ!」

「おい、はぎ。一目ぼれらしいぞ」

「ワシに振るな!」


「お前にはぎちゃんの可愛さが理解できないのか!

 小さくて控えめな胸。光り輝く白銀の髪。

 一見気が強そうでも褒められたらすぐにデレるちょろさ――」

「おい、はぎ、褒められてるぞ」

「うるさい! どう考えてもけなされておるじゃろ!」

「僕、グランドバトルのリプレイを何度も見たよ。

 自信満々で戦いに出たのに、剣を燃やされて涙目になったよね」

「本当、役に立たなかったな」

「うるさい! お前、どっちの味方なんじゃ!」

「最後、はぎちゃんの真の姿を見て、僕のお嫁さんになることを確信したよ。

 背中から生える美しい蜘蛛の足。髪の毛と同じ色の美しい蜘蛛の糸。

 何より、すべてをしいたげてやるような冷たい視線――」

「そっちかぁ。

 よかったな、はぎ。

 あのすね毛の足が気に入ったやつもいるじゃないか」

「お前は、ワシの蜘蛛の足を見てそんな言い方をするなと言ったろう!

 あの毛は蜘蛛にとっても重要な物なんじゃ」

「まぁ、お前がはぎを好きなのはよくわかった」

「じゃあ、僕に――」


 俺は≪泥の短剣≫を向けた。


「だからと言って、はぎを渡せない。

 さっきも言ったが、こいつは俺の大事なパートナーだ」

「主殿……」

「もういい! お前は僕の呪いでもう虫の息だろ!

 僕がお前を倒して、はぎちゃんに僕の力を見せつけてやるんだ!

 従魔召喚! ドラグパペット、あいつを押さえつけろ!」

 男の言葉にドラグパペットが大量に湧き出してきた。

 俺は≪泥の短剣≫でドラグパペットをなぎ倒していく。


 俺はちらりと、はぎの方を見た。


 はぎは俺の視線に気づいてこくりとうなずいた。


「いけるか?」

「さっき、頷いたじゃろ?」

「じゃあ、任せたぞ」


 

 俺にははぎの考えていることが分かるし、はぎには俺の考えていることが分かる。

 不思議なことだが、それができる。

 俺は≪泥の短剣≫をしっかりと握った。


「二刀乱舞 星屑龍星!」


 にじり寄るドラグパペットを片っ端から倒していく。


「お前、僕の≪絶死カウンター≫が怖くないのか!」


 ドラグパペットを倒しきり、無防備な男の首を持ち、白い刀身を向けた。


「僕は知ってるんだぞ!

 お前は体力も防御力もない極振りなんだろ!」

「だからなんだ?」

「僕ははぎちゃんを助けるためにずっと見てきたんだ。

 お前は一撃与えれば死ぬってな」

「お前の≪絶死カウンター≫はダメージ系か」

「そうだ。倒した相手に極大ダメージだ」


 ≪蟲毒の呪装衣≫の影響で体力は常に瀕死だ。

 ダメージカウンターなら確実に俺は死ぬ。


「どちらにしろ、俺はお前に負ける気はないさ」


 俺は片手に持っている白い剣を投げると男の身体を突き刺した。

 一撃のもとに男の体力は0になった。


「はははは、僕を殺したね!

 ≪絶死カウンター≫でお前も巻き沿いだ!」

「残念、よく見ろ」


 俺は男に自分の持っている剣を見せた。

 白い刀身の白い剣。

「はぎちゃんの白糸(しらいと)(つるぎ)!」

「そうだ、倒したのは俺じゃなくてはぎだ!

 だから、≪絶死カウンター≫の対象ははぎになる」

「お前! 自分が死にたくないからってはぎちゃんに!」


 その瞬間に男は体力が0になったエフェクトともにその場から消えた。


「ふぅ……ギリギリ間に合ったな」


 俺は≪絆の指輪≫に向かってそういった。


 俺ははぎの白糸(しらいと)(つるぎ)を持ち男のとどめを刺した。

 直接斬ったのではなく、投げたのはそういう理由で、わずかだが最後の瞬間だけはぎに操作してもらった。

 そうすることで、とどめをはぎに任せた。


 男が死ぬと従魔拘束(テイマーバインド)の効力が切れる。

 男が死ねば≪絶死カウンター≫が発動する。


 そのわずかな隙間にはぎを≪絆の指輪≫の中に戻した。

 中なら≪絶死カウンター≫の効果は発動しない。

 だが、常に対象になっているので、指輪から出た瞬間、極大ダメージが発動する。


 残念だが、バトルロワイヤルが終わるまでは指輪の中にいないとならない。

 町の中に戻れば呪詛系のスキル効果は即時無効になる。


 疲れたと天を仰いだちょうどその時、空からアナウンスが流れてきた。


「バトルロワイヤル残り人数が10人を切りました。

 今からバトルエリアが縮小されます。

 また、マップに生き残ったプレイヤーの場所が常時表示されます」


 急いでマップを開くと確かにマップ上に白い丸のアイコンが現れそこに名前が浮かび上がった。


「皆様、最後まで頑張ってください!」



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