第034話 回避盾は殲滅戦とともに
視界が晴れるとそこは見たこともない林のフィールドだった。
地形的に隠れるところが多い。
あたりを見回し大きな藪に身を隠す。
遠距離系のプレイヤーの不意打ちが一番厄介だ。
「さて……どう動こうか」
敵の数が減っていくまで身を隠すのが定石だ。
が、それじゃあ、面白みがない。
せっかく、各種ランキングが出るんだ。
どうせなら、最多キルでも目指すか。
「と、その前に」
詳細で記載されていな各種スキルの検証もしたい。
俺は昇れそうな高い木を見つけると、その根元に≪身代わり≫で作った自分そっくりな人形を座らせた。
そして、木に登るとその上で≪挑発≫を使った。
「おぉ、確かにマップに出るな」
マップを開けると自分のいる個所にひし形のマークが、戦闘発生個所が丸く光っていた。
「というわけで、しばらく踊ってるか」
木の上で≪剣の舞≫を舞い攻撃力を上げていく。
踊りながら、マップを眺める。
所々で戦闘発生のマークが浮かび上がる。
まだ小競り合い程度か。
「おっ、来たな」
下を見ると座っている≪身代わり≫を俺と勘違いしたプレイヤーが武器をもって斬りかかろうとしている。
「残念!」
≪身代わり≫を斬りかかろうとしたプレイヤーの背後に飛び降りた。
「なっ」
驚いた相手プレイヤーが振り返りながら剣を振るうがそんな単純な攻撃を俺が当たるはずもない。
丁寧に躱し≪刹那の見切り≫の効果を発動させて、≪泥の短剣≫でとどめを刺す。
「まずは1人」
ステータスを確認すると≪刹那の見切り≫による敏捷アップのバフはかかっている。
ということは、バトルロワイヤルが終わるまで戦闘中扱いか。
≪刹那の見切り≫の上昇がずっと乗り続けるなら、後半の俺の敏捷はどのくらい上がるのだろうか。
とはいえ、これで知りたいことが分かった。
バフが1プレイヤーの戦闘のみだった場合は、ちょっと苦しいと考えていたからだ。
代わりに1戦闘1回がバトルロワイヤルでは1度しか使えないというデメリットもある。
「≪影分身≫!」
遠距離まで気に掛けると3体くらいが限度だ。
それぞれ別方向に走らせると各所で≪挑発≫を繰り返す。
「ははは、やっぱりこうなるな」
マップでは俺を中心としてまるで大規模戦闘が起こっているように戦闘発生のマーカーが湧き上がる。
巻き込まれないように逃げるプレイヤーもいるだろう。
が、こうなるとかすめ取ろうとするプレイヤーは必ずいる。
ましてや、グランドバトルに参加してやろうという奴らだ。
多少腕に自信があるのは間違いない。
「さて、狩るか」
影分身が≪挑発≫をやめ、プレイヤーを探しに林を駆け巡る。
本体も同じく他プレイヤーを探して走る。
この≪影分身≫、自分で動かすため正直かなり頭のリソースが取られる。
本来的な動きをするなら、対モンスター用の動く盾のようなものだ。
≪影分身≫の1人の視界にプレイヤーが入った。
相手は都合がいいことに剣士だ。
一気に距離を詰めて相手の懐に入り込む。
相手は嫌がり剣を振るうのでそれを避け続ける。
「よし、いいカモだな」
こいつを相手しているお陰で敏捷が上がり続けている。
敏捷も攻撃力も十分に上昇しているな。
俺と分身体は林を駆け抜けながらとりあえず目についてプレイヤーを片っ端から斬りつけていく。
それぞれ30人まで倒したところは数えたが、それ以上は面倒になって止めた。
「あらかた狩ったかな?」
しばらく探して見つからなくなったので、ばらばらになった分身体を呼び寄せた。
大規模戦闘に見せかけた状態でおこぼれにあずかろうと来た低レベルプレイヤーは周りにはほとんどいなくなった。
あとは生き残りを目指して本気で隠れているプレイヤーと俺と同じように自身が争いの中心になっている奴だ。
マップを見ると分かる。
平原のほうで断続的に戦いが続いている。
ここに乱入しよう。
俺は周囲に気を付けながら平原マップへ走っていった。
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平原マップで戦っていたのは、見たことのある人物だった。
赤い鎧に銀色の刀剣を持つミラと桃色の髪を白銀の籠手をつけているハクロ。
「……」
遠巻きに見ていると2人は一撃当てると離脱を繰り返している。
これが断続的に戦いが続いているように見えた原因か。
「何やってんだ、お前ら」
「あっ、ミヤコやん」
「ははは、ついに来たな!」
「うちら挑発系のスキルを持ってないからなぁ」
「うむ、こうやって一時的に手を組んで、敵をおびき寄せることにしたんだ」
「面倒なことやってんな」
おそらく運営の思惑としては、最初は小規模な小競り合いを、その後、バトルエリアの縮小により避けられない大規模戦闘を想定していたのだろう。
俺がローラー作戦的に森にいたプレイヤーを倒していったから、運営の想定より早くプレイヤーが減少しているはずだ。
バトルエリアの縮小は予定よりも早く行われそうだな。
「まぁ、一時的にやしね」
「そうだな。私たちは一時的に手を組んだにすぎん」
「一時的っていつまでなんだ?」
俺の言葉を聞いて、2人はにやりと笑った。
「無論、お前を倒すまでだ!」「あんたを倒すまでやね!」
一時的というのを強調していたのはそういうことか。
「グランドバトルで、私はこの焔龍の鎧の自動カウンターを過信していた。
まさか、発動前に攻撃されるとは思わなかった。
だが、今回は違うぞ!
お前のために。お前のためだけに調整してきた!」
「うちも、まさかトップギアで追いつけるプレイヤーがいたなんて思わなかったんよね。
あの負けはうち的にかなり悔しい部類に入るから覚悟してや」
「ハクロとの戦いですでにこちらは準備万端だ!
行くぞ! 二刀連撃――」
ミラは大剣を右手に持って俺に向かって大きく振りかぶった。
「月下太刀雨 五月雨!」
ミラが大きく刀を振り下ろしたと同時、いつのまにか彼女の左手に持っていた二本目の大剣が、振り上げられた。
「大剣で二刀連撃なんてマジか!」
攻撃範囲が広く、攻撃力が強い。ただし、攻撃速度が遅く、盾などが装備できない。
それが大剣の特徴である。
にも、かかわらずリタはその常識を壊してきた。
常識破りの大剣二刀流。
ただでさえ攻撃密度が高い月下太刀雨が二刀になったことでさらに攻撃密度が高くなる。
さすがに躱すのが難しくなり、いくつかの攻撃は≪泥の短剣≫で受け流す。
これ以上手数が増えると、正直きついぞ。
「やっぱり、あんたは凄いプレイヤーやね。
ミラやんの月下太刀雨が避けられる可能性があるって分かってたけど、目の前で見せられても信じられんよ」
ハクロが拳を構えた。
「2対1になるけど恨まんといてな!」
ハクロもミラ同様、俺が来るまでに仕上がっているようで、その速度はグランドバトルで戦っていた時のトップギアと同じ速度だった。
一撃目は躱すことができた。
だが、二撃目は躱しきれず≪泥の短剣≫で受け流した。
ミラの連撃をさばきながらの三撃目は、受け流すことも間に合わない。
まずい。
直撃コースの拳が見えてはいるが、避ける手段がない。
「主には八手の剣技がついておるぞ」
回避できないと思われた三撃目が白い剣で受け止められた。
「はぎ!」
「いくつかルール違反を犯したが、主のために無理やり出てきてやったぞ」
「ルール違反って……いや、それより」
「細かいところは後回しじゃ。
主は本当はソロが良いんじゃろ?」
「あぁ」
確かに今回は助けられたが、本来の俺としてはソロのほうが集中状態に入りやすい。
仲間がいるとどうしてもそっちが気になり、あの状態に入りにくい。
「ドランサーペントの時もそうじゃったな。
だが、主は勘違いしておる」
「勘違い?」
「そうじゃ、我は主のために用意された武器じゃ。
お主が望めば、その一挙手一投足すべて主の思うように動く。
のう? プレイヤー殿。おっと、この言い方もルール違反か」
はぎがいたずらっぽく笑う。
「負けたくないんじゃろ?
我を武器と思え」
その瞬間、はぎの意識が自分の中に入ってきた。
はぎの指先から足先まで感覚が共有し、彼女が持つスキルが頭の中に入ってくる。
「要領は主が得意な≪影分身≫と同じじゃ」
「あぁ、それなら、大丈夫だ」
俺とはぎは剣を構えた。
「なんや、はぎちゃんも参加か。
グランドバトルの時みたいに負けへんよ!」
「それは私も同じだ」
ミラとハクロが同時に俺に斬りかかる。
「月下太刀雨 五月雨!」
「トップギア! 格闘乱舞 アトミックファントム!」
ミラとハクロの連撃。
さすがに、これをすべて避けるのは無理だ。
が、こちらも今回は避ける気はない。
「捌ききる!」
カチリと頭の中で時計の針が動いたような音がした。
その瞬間、ミラとハクロの攻撃がはっきりと見え始め、攻撃の出始めと終わりをつなぐような残像が見えた。
ドランサーペントの時と同じ。
過集中の先にある思考の泉につかる。
「なっ!」
「ホンマに!?」
ミラとハクロは同時に驚きの声を上げた。
目の前のミヤコというプレイヤーが超高速の連撃をすべて剣で受け止め斬っている。
キンキンキンと剣と剣が重なり合う音。
今までと違いミヤコは一歩も動いていない。
ハクロの拳も、ミラの大剣も、すべてミヤコの短剣で弾き返される。
「二刀乱舞――」
「ハクロ、あれが来るぞ!」
ミラの言葉にハクロが、攻撃をやめ、ミラの後ろに移動した。
「炎熱カウンター!」
焔龍の鎧は自動カウンターのみかと思ったが、任意でも可能なのか。炎に包まれたミラを見て、俺は≪泥の短剣≫の剣先を伸ばした。
鞭のようにしなる≪泥の短剣≫。
「悪いな」
炎熱カウンターの外側。
本来の短剣ではない距離から武器を振るう。
「星屑龍星!」
しなる短剣が舞い、炎で身を守っているミラとハクロを切り刻んでいく。
すでに、≪剣の舞≫と≪刹那の見切り≫で威力は尋常でないほど上がっている。
俺の連撃にハクロとミラが一瞬にして体力がなくなった。
「また負けたか」
「悔しい!」
ミラとハクロが悔しそうにそう言葉を残し、すがたを消した。
体力が0になれば、強制的にバトルエリアから退場させられる。
「ふぅ、終わったか。
助かったぞ、はぎ」
振り返るとはぎが苦しそうに地面にしゃがみこんでいた。
「おい、どうした!?」
「主じゃない……何者かが……」
「はぎちゃん、ついに会えたね」
聞いたこともない声が聞こえ、俺はその声の主をにらみつけた。
「従魔拘束。はぎちゃん、もう大丈夫だからね」
「誰だ!」
「はぎちゃん、バトルロワイヤルを見てから、分かったよ。
君は運命の人だ。
はぎちゃん、大好きだよ」
その男はまったくこちらを見ずにはぎだけを見ていた。
「くっ、何者かは知らぬが。
ワシを運命の人だと? 世迷言をぬかすのも大概にせぇ」
「大丈夫だよ。
はぎちゃんにそういわせている悪い虫は僕がつぶすから。
はぎちゃん、好きだよ」
「悪い虫って、俺かよ」
その言葉を聞いた瞬間、男は俺をにらみつけた。
「はぎちゃん、はぎちゃん、はぎちゃん、はぎちゃん、はぎちゃん――
僕が助けてあげるからね」




