第031話 回避盾は仲の悪い二人とともに
「猫さーん」
サッシャが猫を探しながら塀を歩く。
もうだいぶんと追いかけた。
いつの間にか塀は家と家の隙間に続き、前に進むしかない道になっていた。
猫が飛び降りた気配はない。
となると、この先を歩いていくしかない。
「サッシャ、行き過ぎじゃないか?」
「猫だしこれくらい行くわよ」
「どちらかというと、俺たちのことなんだが」
諦めろと言いたいところだったが、この先がどこに続くのか気になるところではある。
大方、行き止まりになっているというのは予想できるが。
人が1人やっと通れるくらいの細い塀の上。
左右には家の壁があり、光が届くのは上の隙間からだった。
昼間なのに薄暗い道をしばらく歩いていくと、予想通り壁がふさいでいた。
「行き止まりか……」
「うん……」
「猫、途中で降りたんだろうな」
「……そっか」
想像以上にサッシャが落ち込んでしまった。
今度、猫喫茶でも連れて行ってやるか。
って、≪フェアリーディスタンス≫に猫喫茶なんかないよな。
テイムスキル使って作ってみるか?
「これ……扉なんじゃないかな」
「扉?」
「うん、汚れかなって思ったのは、模様っぽいし。
何より、これ」
「確かに、取っ手っぽく見えるな」
サッシャがそれに手をかけると壁が動いた。
いや、確かにサッシャのいう通り扉だった。
扉を開け、中に入るとそこは広い空間だった。
天井はなく空地のような野ざらしの場所。
ただ、中央には見上げるほどの高さに玉座があり階段が一つその玉座につながっていた。
「猫以外の来客とは珍しい」
驚いて振り向くとそこには黒猫が長い尻尾をくるりと動かしていた。
「猫じゃないの!」
サッシャが喜んで声を上げた。
サッシャは黒猫の前に座り込むと首を撫でる。
「われの名前は、≪ダークル≫。
今宵の集会の発起人である」
えらそうに話すが、喉をごろごろと鳴らしながらサッシャの手に身体をゆだねている。
完全にサッシャの指先に屈している。
「ちょうどよいタイミングだ。
今宵の≪猫の集会≫に≪猫王様≫が来る。
≪猫王様≫のために、何か素晴らしいものを用意してくれないか?」
ダークルの言葉に目の前にクエスト画面を開いた。
依頼クエスト:ダークルの依頼。何か素晴らしいものを。
クエスト内容:今宵開かれる猫の集会に何か素晴らしいものを用意してくれ
「期限は今宵月が昇るまで」
「素晴らしいものというのは何でもいいのか?」
「何でもよいぞ」
何でもか……。
こういう返答が一番難しい。
目的がしっかりとしてれば対策が立てやすいんだが。
「例えば……魚とかは?」
「ほう。では、良いものがあれば今宵の晩餐とさせてもらおうかな」
「分かった。
サッシャ、クエストを受けるぞ」
「……」
「サッシャ?」
「っは! ごめん、猫に夢中で……」
「どこまで猫好きなんだよ。
ダークルのために魚でも釣ってくるか」
「分かったわ」
「そうそう。御二人に少しアドバイスだ。
もし、パルル湖で今宵の素晴らしいものを調達するならば、北のはずれにある赤い湖に行くといい。普段釣り禁止だが、泉に向かって『≪猫王様≫の献上品に使わせてもらう』と言えば、使用できるはずだ」
「いい情報をありがとう」
俺は立ち上がった。
が、一向に立ち上がらずダークルを撫で続けているサッシャの首元をつかむと、この不思議な空間から出た。
「いい毛並みだったのに……」
「切り替えてさっさとパルル湖に行くぞ」
「もうちょっと撫でたかった」
「今日は≪猫の集会≫があるんだぞ。
もふもふ天国だぞ?」
「確かに」
「素晴らしいものの質が良ければ、噂の≪猫王様≫も撫でられるかもしれないぞ」
「いいこと言うじゃない。
ミヤコ、なにダラダラしているの早くパルル湖に行くわよ!」
ようやくやる気になった。
俺は、サッシャとともにパルル湖に向かった。
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パルル湖の北のはずれに確かに赤い湖があった。
そのまま釣り糸投げようとしたが、禁止区域のようで釣りができなかった。
ということで、他のイベント参加者はいない。
「ほれ、釣竿だ」
「ありがとう。
今日の猫のために頑張るわよ!」
「じゃあ、いくぞ。
≪猫王様≫の献上品に使わせてもらうからこの湖を使わせてくれ!」
俺がそういった瞬間、赤かった湖の水が一瞬で美しい青色に変わった。
「おっ、釣りができるぞ」
「早速やりましょう!」
俺とサッシャが釣り糸を垂らして釣りを始めた。
釣れる魚はどれも大振りで低ポイントのアルヤでさえ、巨大なサイズが連れた。
「確かに大きいのが釣れるけど、目新しいものは釣れないな」
「ねぇ、釣り糸を増やせないかしら?」
「増やす? すまん、釣竿は俺とサッシャの分しかないんだ」
「ほら、いるじゃない、糸を出すやつ」
「糸……あぁ、はぎか。
すっかり忘れていたな」
俺は絆の指輪を使用してはぎを呼び出した。
彼女の召還と同時に強い視線を感じたが、あたりを見回しても誰もいなかった。
目の前に現れた小さな少女。
が、存外彼女は不機嫌だった。
「なんで、出てきた瞬間、不機嫌なんだよ」
「主、いま、忘れてたとか言わなんだか?」
「えっ」
「主はあれか、釣った魚に餌をやらんタイプか?
我が惚れたと見るや手のひらを返したのか?
だいたい、この前の魚との戦いのとき、なぜ、我を呼ばなんだ?!」
出た瞬間、説教が始まった。
ずっとソロでやってきたからはぎとのことをすっかり忘れていた。
「悪かったって」
「それで、許しを請おうとは。まったく、その言葉で篭絡できるほど、ワシは安くないぞ?」
「なに、この生意気な小娘は」
偉そうなはぎにサッシャは少しムッとした。
いや、サッシャもたいがい偉そうなのだが、それは言わないでおいた。
「何じゃ、この偉そうな小娘は」
はぎとサッシャは相性が悪かったかもしれない。
「おい、ミヤコ。
ワシは主の膝を希望する」
「膝」
「そうじゃ、そこに胡坐をかけ」
「はいはい」
「うむ。それでよい」
はぎは俺の胡坐の上に座った。
「この小娘。なんでこんなに偉そうなの?」
「はぎじゃ、猫娘」
「サッシャよ」
「主よ、友は選ぶべきだぞ?」
「ミヤコ、テイマー相手は選ぶべきよ」
なんで、俺に話題を振るんだよ。
「まぁ、よい。
主が、そこの猫娘のために魚を釣りたいんじゃろ?
優しいワシが手伝ってやろう」
「いいわ、手伝わせてあげる」
「お前ら、仲良くやれよ」
はぎが指先からいくつも糸を出し湖に垂らした。
何が気に障ったのか、サッシャは俺の横にぴったりくっつくくらい近づいて湖に釣り糸を投げた。
俺は疲れたとため息をついて、湖に糸を投げた。




