第030話 回避盾はサッシャとともに
「できたー!!!」
サッシャのその言葉とともに、店の中で歓声が上がった。
それと同時にクエスト完了のメッセージが流れ出た。
聖女の装いがようやく完成した。
「サッシャさんありがとうございます!」
「久しぶりに達成感があった仕事だったわ」
「ねぇねぇ、コトハちゃん、早速、装備してみて」
「はい」
コトハちゃんの服が白を基調をした服に変わった。
「可愛いね」
ピティの言葉にサッシャが満足そうに微笑んだ。
ピティのいう通り凄く作りこまれている。
白をベースとしたワンピース風の服で、ゆったりと長いに、スカートはレースのような薄い布が幾重にも重ねられていた。
一目では単調な白だが、近づくと白い糸で作られた詠唱文字や魔法陣が刺繍されており、光の加減で不思議な模様を見せていた。
コトハちゃんがリクエストしていた小さなリボンも施されている。
「リアルの服だけじゃなくて、細かいところでこの世界に寄せてみたの」
「本当に凄いな」
「いいのよ、もっと褒めて」
サッシャは腕を組んで、俺のそばにやってきた。
自慢げなサッシャは少し癪だが、本当に美しい服だ。
そばに寄ってきたサッシャの頭を撫でる。
彼女の細かい髪の毛が指の間を抜け、猫耳が俺の手の中でくしゃりと折れる。
「そういや、この猫耳も自作か?」
「えぇ、もちろん。
ちなみに、動くのよ」
そういうと、サッシャの耳がぴくぴくと動いた。
コトハというと、ピティに服を見せるため、その場でターンしたりとだいぶんとご機嫌だ。
「ちなみに、≪聖女の守護服≫って名前の装備らしいわよ」
「性能は?」
「私の折り紙付きよ。装備時限定のエクストラスキル≪始祖召喚≫があるの」
「なにそれ?」
「さぁ? この装備、コトハちゃんの限定装備なのよね」
正真正銘のオリジナルユニーク装備。
俺の≪泥の短剣≫はゲーム上一つしかないが、装備は誰でもできる。
「これは、バトルロワイヤルが楽しみだな」
「まったく、これだから廃人ゲーマーは。
もっと、私の服を堪能してなさいよ」
俺はバージョンアップ前イベントのバトルロワイヤルが楽しみにでならなかった。
詳細は告知の後すぐに知らされた。
参加希望者は広大な専用フィールドに飛ばされてそこで制限時間内で自由に戦う。
戦いはすべてライブ配信される。
アイテムの持ち込みは可能だが、回復アイテムだけは不可となる。
討伐数やダメージ量などの様々なランキングがあり、それはリアルタイムで更新されていく。
釣りイベントのほうはこの間の洞窟寺院のお陰で俺とピティは3位以下を大きく引き離して現在トップにいる。
ちなみに、明らかに桁から違うので、これは追いつかれないかもしれない。
「ミヤコ」
「なんだ?」
「あなた、ピティと2人でクエストしたらしいわね」
「そうそう、釣りイベントの延長でな」
「私ともそれをしなさい」
「へっ?」
「私はずっとコトハちゃんのイベントで服を作り続けたの。
気分晴らしに散歩したいわ」
「散歩って」
「疲れたの」
「はいはい、分かった分かった。
じゃあ、今から行くか?」
「いい心掛けじゃない」
ピティとコトハの方も何か話しているようだった。
「おじさん!」
「どうした?」
「新しい装備を貰えたのでちょっとピティさんと試してきていいですか?」
「いいぞ」
「はい、じゃあ、ちょっと行ってきます!」
ピティとコトハがまるで姉妹のように名かよさそうに店を出ていった。
「さて、サッシャ。俺たちも出かけるか」
「えぇ」
俺たちも店を出た。
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産業街シオネスは生産職なら家賃を出して店を出すことができる。
サッシャ以外にも多くのプレイヤーが店を出している。
プレイヤーがアイテムを売る方法は2つある。
1つは露店。
露店広場でスペースを取り、アイテムを並べて物を売る。
場所代は少ないが、時間制限があり、場所はランダムだ。
ダンジョンで取得したアイテムを売るには便利だが、生産職としては固定客を取りにくい。
2つ目はサッシャのように店を借りて売る方法だ。
場所代は高いが、時間制限もなく、売り場は常に固定の場所だ。
さらに、値段設定しておけば、ログアウトしても店として機能する。
おかげで、生産職をメインにやるプレイヤーにとっては固定客も取りやすく、生産職としては店を構えるのが一つの大きな目標になる。
俺はサッシャと2人でこのシオネスの街を見て回ることにした。
服飾、宝飾、武器や防具。
それに絵画なんてのものある。
とにかく何でも売っている。
「料理やお菓子の職もあるのに味覚がないのは味気ないわね。
せっかくの料理も味がないんじゃね」
「次のメジャーアップデートで嗅覚と味覚が追加されるらしいぞ」
「本当!? じゃあ、デザート食べ放題ってこと?」
「お金があればな」
「それなら、俄然稼ぐわよ!
なんたってどれだけ食べてもゼロカロリー!!」
そうなのだ。
このせいで、VRMMOで味覚嗅覚の導入は結構厳しい審査が入る。
実際、VRMMOで食べてリアルで栄養失調を起こした例もある。
FDも国の審査に通ったようで、次のメジャーアップデートの大きな目玉の一つとなっている。
「カフェ巡りはメジャーアップデート後ね」
「じゃあ、サッシャの武器でも見るか?」
「ちょっと、女の子とデートに武器を見るなんて色気がないんじゃないの?」
「ほら、バトルロワイヤルに参加するんだろ?」
「まぁ、仕方ないわね。
許可するわ」
「はいはい」
サッシャを連れていくつかの武器屋を回る。
数軒回った後、いったん休憩ということで広場の噴水のそばに座った。
「意外といいのがないわね」
「ピティがいい腕してるからな。
頼んで作ってもらうほうがいいのが作れるかもな」
「確かに。このポイズンナイフもいい性能してたのね」
毒状態のスリップダメージ向上とステータスの向上効果もある。
間に合わせで渡した割にはかなりいい性能だ。
「ってことは、後は防具くらいか」
「それは、自分で作るからいいわ」
「そうか、お前も腕利きだったな」
「何よ、≪聖女の守護服≫作ったのを忘れたの?」
「いや、あれはいい仕事だった」
「でしょ」
サッシャは途中で買ったアイスコーヒーをごくりと飲んだ。
「メジャーアップデート後じゃなかったのか?」
「バカね。こういうなのは、雰囲気が大事なのよ」
さっきと言っていることが違うが。
「いい天気ね」
サッシャがぐっと伸びをした。
「あら、猫がいる」
サッシャが、遠くの塀の上に黒い猫がいることに気が付いた。
「本当だ。よく見つけたな」
「仕事柄近くをよく見るからね。なるべく、普段は遠くを見るようにしてるのよ。
それより、見に行きましょうよ」
サッシャは立ち上がると立つのを促すように手を出した。
俺はサッシャの手を借り立ち上がった。
彼女は俺が立つと、猫のいる塀まで俺の手を引いた。
「へへ、猫さーん」
猫の傍まで来ると、サッシャは今まで聞いたこともない甘えた声で猫に話しかける。
猫耳が猫と遊んでいる。
サッシャがその猫に触ろうとした瞬間、猫はさっと身をひるがえすと、塀をゆっくりと歩いていった。
「残念だな」
「ミヤコ、追いかけるわよ!」
「おい、マジか」
「マジ!」
サッシャは急に塀に上りだすと、歩いて行った猫を追いかけた。
「おいおい」
俺はサッシャに習って塀によじ登ると、落ちないようにバランスを取りながらサッシャと猫の後を追っていった。




