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伝説の回避盾は姪っ子とともに渡り歩く  作者: 物戸 音
第一章 Ver.1.00 正式リリース
3/44

第003話 回避盾は初戦闘とともに

「ようやく、戻ってきたか!」


 町の中はNPCとPCであふれかえっている。

 この町はベータテスト時代から変わっていないが、運営のことだ、色々仕込んでいるに違いない。

 早く動き始めたくてそわそわするが、まずは約束の場所だ。


 ティレスには噴水広場と呼ばれる場所がある。

 ランドマークとして目立つ場所なので、よく待ち合わせに使われる。

 俺はそこで待つとステータス画面を見ながら姪を待つことにした。


「うーん、やっぱりステータスポイントは前回と同じ極振りにするか。

 そのためには、レベル上げの場所の確保と生産職の知り合いを作る必要があるな」


 俺はステータス画面を見ながら育成方針を決める。


「……おじさん?」

「ん?」


 振り向くとそこに、白い服を着た少女がいた。

 真っ黒な黒髪はサイドに髪を結び、あどけない表情で俺を見上げていた。

 なにこの可愛い子。そんなやつ俺の知り合いにいたっけ。と思わず自分に問いかけるほどだ。


「もしかして?」

「はい……母から紹介されました」


 俺は目の前の少女のプレイヤーネームを確認した。

 コトハ。それが彼女の名前だ。

 まぁ、知らない名前だが、プレイヤーネームだ。リアルと違うのは当然か。


「立ち話もなんだ。

 歩きながら話すか」

「分かりました」

「改めて、俺はミヤコ。

 コトハちゃんのお母さんの弟だ」

「はい、聞きました。

 ゲーム凄くうまいんですよね」

「ま、まぁ……」


 改めてそういわれると少し照れる。

 実際にVRMMO廃人なので、下手ではない部類に入るのは確かだ。


「コトハちゃんはVRMMO経験は?」

「これが初めてです」


 初々しい言葉に少し感動した。

 俺も初めてはこんなんだった。

 町の外に歩くだけなのに、あまりのリアルさに周りをきょろきょろしてしまう。


「基本的な動かし方はリアルで身体を動かすこととあまり変わらないかな。

 最初は、自分の動きが早すぎて目が回りそうになるけど、すぐに慣れるよ」


 車やバイクみたいなもので、自分のスピードは動いているとあっという間に慣れてしまう。


「わ、分かりました」

「リアルタイムの2時間がここでの1日だ。

 予定があるならリアルタイムアラートがあるから設定しておいて」

「今日は母には一日遊ぶと言っているので大丈夫です」

「お、おう……」



 初日からどっぷり行く気か。

 なかなか根性ある子だな。


「コトハちゃんの職業スキルは何を選んだの?」

「僧侶を選びました」

「おっ、ヒーラーか。

 俺は回避盾だから、バフとヒールは助かるんだよな」

「そうなんですか?」

「そうそう、案外、いいコンビになりそうだな」


 コトハちゃんはその言葉を聞くと小さく「やった」とつぶやいた。

 くそ、可愛いな。

 小さい子ってなんでこんな無条件に可愛いんだろう。


「そうそう、スキルってのがあるんだけど、このゲーム凄くてね。

 なんと1万個以上あるんだ」

「1万個ですか?」

「フリースキルシステムっていって、自分の行動によってスキルを習得するんだよ。

 だから、同じ職でもひとそれぞれ能力が違うんだ」

「あっ、それなら、私一つ覚えましたよ」

「えっ?」


 俺の驚きの言葉に、コトハはステータス画面を開いて俺に見せた。


 スキル:アイドルなスター

 取得条件:ゲーム開始30分で50人から話しかけられる

 効果:パーティー内でのスキル効果が上がる


「何これ?」

「ここにたどり着いたとき、色々な人に話しかけられていたら、急に覚えました」

「能力はパーティー内でのスキル効果が上がるか……

 ヒーラー向きのスキルだな。

 ってか、こんなの知られてないぞ」


 習得難易度が高すぎる。

 それも開始30分限定なら、ほとんどのプレイヤーはもう取れない。


「しかし……」


 30分で50人か。

 1分で1人以上話されているじゃないか。

 この容姿だ。

 誰だって話しかけたくなる。

 身内の俺でさえ、思わず目を奪われそうになる。

 まぁ、俺の場合は、姉が一瞬ちらつくのでそれでも踏みとどまれるのだが。


「これいいんですか?」

「いいか、悪いかと言えば、かなりいいな。

 特にヒーラーのコトハちゃん向きのスキルだな」

「良かったです」


 そういって、コトハちゃんは嬉しそうに笑った。

 うん。いいな。笑顔。

 せっかくだ。

 この可愛い笑顔。


 ちょっと、困らせたい。


「というわけで、街の外です!」

「は、はい!」

「まずは弱い敵から戦ってみよう」

「た、戦いですか?」

「もちろん。このゲームじゃ戦闘は決して避けられないからね。

 弱いやつから徐々に戦い方を覚えていこう」

「分かりました」


 町の外は草原が広がっている。

 その草原を歩いている小さな白いうさぎがコトハを見つけたのか近寄ってきた。


「か、可愛い!」


 コトハがそれを見て思わず駆け寄っていく。


「ちなみに、それは敵なので、倒すことになります」

「えっ?」


 コトハはそれを目の前にして硬直した。


「敵です」

「こ、こんなかわいいのにですか?」

「本当に可愛いかな?」


 俺はコトハに持っている杖で軽くつつくように指示を出した。

 コトハは恐る恐る杖をそのウサギに近づけていく。

 その瞬間、ウサギの身体が透明なスライムに変化した。


「ひゃっー」


 コトハが変な声を上げる。

 まぁ、愛らしいウサギがスライムに代わると驚くのは仕方がない。


「ラビライム。ウサギに化けたスライムだ」

「て、敵ですね!」


 見た目がスライムに変わってようやく敵と認識したみたいだ。

 コトハは杖を振り上げてラビライムに叩きつける。


「お、おじさーん、これどうするんですかーー!?」

「ははは、頑張れ頑張れ」


 初期値なだけで減りが少ないがそれでもダメージは通っている。

 何度か杖でポコポコ叩いているとようやくラビライムは消えた。


「初戦闘おめでとう」

「た、大変でした」

「まぁ、このあたりはトレインされなければ、余裕だよ」

「トレイン……電車ですか?」

「よく知ってるな」

「授業でしました」

「最近の小学生は授業で英語やってるんだっけ。

 俺の時は中学校からだったしな……っと話がそれたな」


 トレイン。

 故意か過失か、レベルの高いモンスターか大量のモンスターををつかず離れずで引っ張り、別のプレイヤーにヘイトを擦り付ける行為になる。

 MMO時代からあるやり方で一般的にはマナー違反と言われている。


「という感じだ」

「なるほど。ここは周りに人も少ないし大丈夫じゃないんですか?」

「逆だな。

 周りに人が少ないだろ?

 なぜかって言うと、すぐそばに高レベル帯のモンスター域があるんだ。

 つまり、他の人はここが危険なところって認識なんで人がこない。

 おかげで狩場を独占出来るわけだ」

「何だか悪いことしているみたいですね」

「こういうのは先行者利益だしな。

 誰か友達が始めたら教えてやればいい」

「はい。分かりました。

 おじさんは、戦わなくていいんですか?」

「おっと、俺も上げないとな――ん?」


 地鳴りのような音と土煙が舞い上がっているのを見つけた。


「た、たすけてー!」


 その声とともに、誰かが隣を走り抜けた。

 それを追ってくるように、四足の巨大なトカゲが大量に走ってくる。


「あいつ、トレインしやがった!

 コトハちゃん、走って逃げて!」

「でも……」

「いいから、あの逃げたやつについてけ。

 死んだらデスペナだ!」

「は、はい」


 コトハを見送った俺は剣を構えた。

 ここでヘイトを俺に向けたらコトハは逃げられる。


「スキル ≪挑発≫!」


 そこで初めてその四つ足のトカゲと目が合った。

 泥にまみれた黄金のような鱗に深紅の瞳。すべてをかみ砕く巨大な牙。

 いや、これ、ただの巨大モンスターじゃねぇ。洞窟内にしかいないはずの地龍種じゃねぇか。

 

「あいつ、どっからトレインしてきやがった――」


 地龍の口が開き、俺を覆った瞬間、目の前が真っ暗になった。



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