第029話 回避盾と強くなった武器
ドランサーペントは前足を乗り出すと大きく地面をたたいた。
激しい地鳴りとともに、地面が崩れ落ちた。
「おい、やばいぞ!」
「きゃあ、地面が!」
殴りかかろうとしたピティの肩を引き寄せ、思わず抱きしめた。
その瞬間、身体が水中に落ちた。
「くっ、水中戦かよ!」
「ミヤコ、危ない!」
ピティが俺を突き飛ばした。
ドランサーペントが2人の間を通り過ぎた。
「っぶねぇ!」
間一髪。ピティの行動がなければ俺は即死していた。
「ピティ、大丈夫か!」
「私は大丈夫! 水の中って結構やばいかも」
「あぁ」
地上ほど機敏に躱せない。
この中で≪剣の舞≫の効果を持続するのも困難だ。
が、困難なだけでやれないこともない。
「いつも通りだ。
俺が相手の注意を引く。だから、ピティは相手の体力を削ってくれ!」
「オッケー、任せたよ!」
俺が≪挑発≫を使うとドランサーペントが俺だけをにらみつけた。
「こい!」
俺のスキル構成はどうしても初動が遅くなる。
ドランサーペントが長い首を伸ばして長い牙を向けるが、俺がすんででそれを避ける。
二度三度、攻撃を避けると、ドランサーペントは首を引っ込めて魔法の詠唱を始めた。
まずいな。
ドランサーペントの詠唱エフェクトを見ながら俺は思った。
あのエフェクトは水流系の範囲魔法だ。
このスタイルでは範囲魔法だけはどうしても苦手意識がある。
本来なら範囲外に逃げるところだが、水の中で移動速度が落ちているし、ここは狭い。
「ピティ、範囲魔法だ。逃げるぞ!」
「逃げるってどこに!?」
「洞窟寺院までだ、急いで浮上しろ!」
「分かった!」
「急げ!」
地上では一足飛びで行ける距離が水中だと遠い。
必死で浮上し、地上に飛び出す。
「ピティ!」
ピティが遅れて上がってくるので、手をつかんで、無理やり引き上げる。
その瞬間、水面が激しく揺れ巨大な水柱が洞窟の天井を貫いた。
「おいおい、ほぼ全域が範囲かよ」
「どうしよう、ミヤコ……」
洞窟寺院は袋小路にある。
出口は目の前の水路だけだ。その水路も、ドランサーペントが待ち受けている。
進むにはドランサーペントを倒すしかないが、そのためには、広範囲魔法を何とかしないといけない。
が、現状打つ手なしだ。
「ねぇねぇ、こんな時にあれあんだけど……
洞窟寺院の宝箱って何が入っていたのかな」
「そういや、警告音聞いて飛び出したから中身見てないな」
「どうせ、倒されるなら中身くらい見てみたいかなって……だめかな?」
クエスト失敗したらクエスト中に獲得したアイテムは全損する。
ドランサーペントに負けたら釣りのポイントも宝箱の中身もぱぁだ。
とはいえ。
「そうだな。知らんまま死ぬのも癪だしな」
「ふふふ、やった」
俺とピティは洞窟寺院に戻ると宝箱まで歩いて行った。
「強制クエストの上、閉じ込められたんだ。
いいアイテムじゃないとやる気が出ないぞ」
「さて、どんなのが出るかな」
ピティが宝箱を開けた。
アイテム:水神の麗しき羽根
レア度:SSS
説明:装備強化アイテム。
「強化アイテムか。一発で打開できる武器とか期待したんだが……」
「いやいやいや、私にとってはお宝だよ!
これで強化したら、武器の攻撃力絶対あがるよ!」
「持って帰れたらな。強化できるんだけどな」
「えっ? 強化ならここでもできるよ?」
「マジで?」
「マジで。
だけど、強化中のダメージ判定は失敗のうえ、素材消失だからかなりリスキーだけどね」
「いや、なら、やってくれ。
幸運なことに、ここになら攻撃は届かない」
「いいんだね。
私に武器を預けて鍛練が始まったらミヤコは武器なしになるよ」
「任せろ」
「分かった。じゃあ、預かるね」
俺はピティに≪泥の短剣≫を渡した。
ピティは野外用の鍛冶セットを取り出すとそれを受け取り強化を始めた。
あとは、待つしかない。
横で静かに、ピティの作業を見守る。
しばらくすると、洞窟寺院の外からズズズッと何かが這い寄る音が聞こえてきた。
「ミヤコ、もしかして」
「あぁ、あいつが来たかも。
ちょっと見てくる!」
「見てくるって、ミヤコ! 武器まだだよ!」
「任せろ。これでも俺は回避盾なんだ。
ピティが強化終わるまで生き残ってやるよ」
俺はピティが止めるのも聞かず洞窟寺院の外に飛び出した。
外に出ると予想通り、そこにはドランサーペントがいた。
≪挑発≫で相手の注意をこちらに向けると、予想通りドランサーペントはこちらに攻撃を仕掛けてくる。
相手は地上では水中ほどの素早さがない。
「これなら、ピティが打ち終わるまで避け続けるのは余裕だな――」
俺がそういった瞬間、ドランサーペントがもう一体、水の中から這い出てきた。
「――マジかよ!」
ドランサーペントは俺の姿を見た瞬間、大きな口を開けて勢いよく水を吐き出した。
完全に不意を突かれた一撃。
≪剣の舞≫のステップを捨ててドランサーペントの水撃を何とか避ける。
「くそっ、今まで上げたバフがパァかよ」
俺みたいな積み上げ型のバフを持つタイプはセオリーから外れると途端に瓦解する。
が、そこを持ちこたえることこそプレイヤースキルの本領だ。
「≪挑発≫!」
どのみち、ピティの強化が終わるまでは、ここにくぎ付けしておかなきゃいけない。
「かかってこいやぁ!」
頭の中で時計の針が動いたような音がした。
その瞬間、周りの雑音が消え、ドランサーペントの息遣いが聞こえた。
モンスターの這いずる音、爪が空気を割く音。
あぁ、懐かしいこの感覚。
回避盾なんていう道楽は決して優しい道ではなかった。
何せ、回避がすべてプレイヤースキルのみ。
一度ミスれば即死亡。
集中力だけがものをいう世界なのだ。
ベータテスト時代は1人だからこそ、この集中モードに入れた。
今は、仲間とわいわいやっている。
それはそれで悪くない。
だが、過集中の先にあるこの思考の泉に浸かるのはまた違う。
一瞬が永遠にも長く感じるし、その逆、永遠がほんの刹那の時にも感じる。
敵の思考が身体の中に流れ込むように身体がまるで自分のものでないかのようにも感じる。
だが、その僅か横には触れたら死ぬ一撃が舞い踊っている。
「ミヤコ!」
ピティの叫び声で俺の意識は現実の感覚に引き戻された。
ようやく来たかという思いとこれで終わりかという寂しい気持ちが胸を覆った。
「新しい≪泥の短剣≫よ!」
「助かる!」
ピティは俺の泥の短剣を投げた。
ドランサーペントの攻撃を躱しながら、それを受け取った。
「楽しい時間だったな」
俺の両手に≪泥の短剣≫が握られた。
その瞬間、ドランサーペントが水の中に逃げ込んだ。
「逃がすかよ!」
俺は2体のドランサーペントを追い、水の中に飛び込む。
が、すでに2体のドランサーペントは水の中で詠唱を開始していた。
亜龍種2体による複合詠唱。
複合詠唱のおかげか即座に詠唱が完了した。
詠唱が完了した刹那、水の流れが蛇のようにうねり俺の行動を制限する。
「これを打ったら勝ったと思ったか?
残念だったな!」
新しい≪泥の短剣≫には武器にスキルが着いた。
その名も≪水泥の交わり≫。
その効力は、行動に対する地形制限を受けない。
つまり、こんな渦巻く水の中でも俺は地上同様動けることになる。
俺はまるで地面をけるように水をけるとドランサーペントの懐に飛び込んだ。
「二体まとめて倒してやるよ。
二刀乱舞! 星屑龍星!」
俺の乱舞がドランサーペントの体力ゲージを瞬く間に削っていく。
ボスと言えどもあれだけの時間よけ続けたのだ。
あっという間に1体を倒し、2体目のドランサーペントもその瞬間、切り伏せた。




