第026話 回避盾はイベント告知とともに
サッシャの店に入ると、ピティとサッシャが待っていた。
「おっはよ、早起きだね」
「早起きってか、3時に目が覚めてそれからずっとここにいる」
「朝からゲームってそれしか予定ないの?」
「朝の3時に予定がある奴なんていねぇよ」
「あんたって本当に廃人ね」
「誉め言葉として受け取っておこう」
「後は≪天恵の蜘蛛糸≫だけど……」
「おっ、それは取れたぞ」
サッシャは驚いた声を上げたが、ピティはやっぱりという顔をした。
「朝から攻略掲示板が騒がしかったんだよね」
「騒がしい?」
「真夜中にやってたグランドバトルで全試合ノーダメで勝ったっていう回避プレイヤーがいたそうで」
「あぁ、それ、俺だ」
「やっぱり」
「ピティ、それリプレイあるの?」
「あるよ。見る?」
サッシャが首を激しく縦に振った。
ピティはデータをサッシャに渡したので、サッシャはそれを映し始めた。
「で、攻略掲示板に≪天恵の蜘蛛糸≫っていう初出のアイテムが出たのよね。
ミヤコ、何やったの」
「いや、格闘都市ザンで≪天恵の蜘蛛糸≫を探してたら、急にNPCが話しかけてきて――」
「そのNPCという言葉はあまり好きじゃないのう。
ワシにははぎという名前がある」
突如、指輪が光ると目の前にはぎが現れた。
「この子が、あのはぎ?」
「うむ、ワシがはぎじゃ」
「みんなが知っているってことはリタとハクロも≪天恵の蜘蛛糸≫を手に入れたのか」
「まぁ、ワシと戦って勝った報酬じゃからな」
「で、ミヤコ、あなた一夜で超有名になってるのよね」
「超有名ってどういうことだよ」
「そりゃ、ソロ戦トップランカー組を瞬殺したんだから。
パンツの再来って噂されているけど……」
「まぁ、本人だからな」
コトハちゃんの前でなければ隠す必要はない。
「ベータ時代の伝説のプレイヤーが普通にプレイしているなんて」
「まぁ、俺も最初は乗り気じゃなかったが、こういう寄り道が多いプレイも悪くない
なって思ったよ」
「私はあなたとプレイできて楽しいわ。
見たこともないことばかり巻き込まれるしね」
「ははは、それは俺もだ」
そのあとしばらく彼女たちと話していると、コトハが起きてきたのか、ログインした。
ピティがいうには、彼女にはすでにメッセージを送っているということだった。
その内容を見たのか、コトハはログインしたと同時にサッシャの店にやってきた。
「おはようございます、皆さん」
開口一番、可愛い声で入ってくるコトハ。
半分徹夜のようなテンションのおっさんとしてはまぶしすぎる声だ。
「あ、あの、ついに揃ったって聞いて」
「あぁ、全部そろったぞ」
「後は私がコトハちゃんに服を縫ってあげるわ」
サッシャはリプレイを見終わったのか、満足そうにそういった。
パンパカパ~ン!!!!
突然、聞いたことのない音が鳴り響き、目の前に小さな妖精が現れた。
「皆さん、おはようございます。
戦闘中のプレイヤーさんがいたら一旦、戦闘は一時停止しますね。
私は≪フェアリーディスタンス≫のメインナビゲータの≪リアリ≫です」
どうやら、運営側のイベントのようだ。
3つ揃ったタイミングで現れたから専用イベントかと思った。
「フェアリーディスタンスのメジャーアップデートが来週の日曜日に決まりました。
アップデート内容はお知らせをご確認ください。
つきましては、Ver.1.00を遊んでいただいている皆さんに全プレイヤー参加型イベントの紹介をしたいと思います!」
リアリがいうには、イベントは大きく2つ。
1つは、水流都市パルルでの魚釣りイベント
これは全プレイヤーいつでも参加可能のイベントで釣った魚の大きさと量でポイントを競う。
そして、もう一つは、格闘都市ザンで行われる参加プレイヤーバトルロワイヤル。
こちらは事前申請がいるらしいが、それくらいでほぼ全員参加可能だ。
「バトルロワイヤルか。面白そうだな」
「ミヤコが出るなら、私も出る!」
「サッシャ、意外だな」
「何よ、文句あるの?」
「ないない。ってか、お前は裁縫専門じゃなかったのか」
「そりゃ、専門はそうだけど、ミヤコのリプレイ見て私もやりたくなったのよ」
「じゃあ、私も出るかー」
ピティがはいっと手を上げた。
「じゃあ、私も……出ていいよね?」
「コトハちゃんまで出るのか」
「ダメかな……おじさん?」
「いや、それくらいなら止めはしないさ。
せっかくのイベントだし楽しまないと」
「じゃあ、イベントのためにもコトハちゃんの聖女の服、作っちゃおうか!」
服の話になると女性陣の話題は一気にそちらのほうに移っていった。
「あの、ワンピース風ならスカートに小さなリボンがほしいです」
「リボンね、分かったわ。
生地はどうしようかしら。白一色じゃダメね。白と薄い白をイカットで模様付けして……いえ、≪天恵の蜘蛛糸≫はオーガンジーな素材。それを生かすには……」
すでに俺の理解の範疇を超えている用語が飛び出している。
たぶん、ファッション用語なんだろうが疎いおじさんには理解不能な異国の言葉だ。
「いいわ! オートクチュールのプロデザイナーの私が、本気で作ってあげる!
針子の真似事までやるんだから、完璧なものを作ってあげるからね!」
サッシャが見たこともないやる気に燃えていたので、俺は静かに店の外に出た。




