第022話 回避盾は決勝戦とともに
「罠で戦うとは珍しい戦い方じゃな」
「……」
リーニャは唇をかんだ。
こちらがかけているトラップをことごとくつぶされていく。
「いいぞ。もっとその手妻をみらりぇ?」
「くそっ」
罠を中心として戦うプレイヤーをトラッパーと呼ばれる。
プレイヤー人口は少ないほうだ。
確かに、モンスター相手ならトラップも有効かもしれないが、プレイヤーVSプレイヤーの立場になると弱いと思われがちだ。
特にグランドバトルのような、あらかじめ設置できないような決められた場所に投入されたらトラッパーとしての効果は半減する。
が、それでもリーニャはトラップの可能性を信じていた。
油断を誘う装備で前衛を誘い出したり、投げナイフにトラップを仕掛けたり。
視線を外し、油断を誘い。
相手の虚をつく場所に罠を仕掛ける。
現に、はぎという相手プレイヤーは私のトラップに気づかず引っかかっている。
が、トラップの発動よりも先に彼女の白い髪が伸び、トラップを排除する。
幾度となく、地面に設置したトラップボムが宙に放り投げられている。
「これならどうだ」
リーニャははぎに向かって何かを投げた。
「ふふふ、わしにその程度の爆弾が喰らうと思っ――なにっ!」
「かかったな!」
「ワシの髪が!」
リーニャの爆弾が爆発をはぎは髪で受け止めた。
通常の火力系なら彼女の髪で受け止められる想定だったが、爆発したそれはスライム状の液体が飛び出すものだった。
「本来なら、捕縛系のトラップだけど、あなたにはきくようね」
「くっ、ワシの髪が絡まって、上手く操れん!」
「これで終わりだ!」
リーニャが短剣を構えると、はぎの懐に飛び込んだ。
「くそっ!」
「――油断しすぎだ」
リーニャとはぎの間に俺が飛び込むと、≪泥の短剣≫でリーニャを斬りつけた。
「なんで、お前が……ミラさんは――」
「悪い、もう倒した」
「……そんな」
「勝者! ≪くものうえ≫!!!」
俺は大きく息を吐いて力を抜いた。
「くっ、主が手を出さんくても勝てたわい」
「結構やばかっただろうが」
「まだ、我が≪やつで≫があったからの」
口ぶりからすると接近戦の技もあるのか。
「はいはい、じゃあ、次は頼むぞ」
「ふん! 次は見ておれ」
すると案内役の人が近づいてきた。
「これから決勝戦を始めても問題ないですか?」
「連戦か……」
「やるぞ! おい、我の力を見せておらんのだ!
早く次のものを連れてこい!」
俺はやる気がなかったが、当の相方が不完全燃焼でやる気満々だ。
「お連れ様はそういっておられますが」
「仕方ない……連戦だが、頑張るとするよ」
「では、続いて、決勝戦です!」
決勝戦の相手が闘技場に入ってきた。
「決勝戦は、炎剣のミラとやると思ったけど、意外だわ。
あんた攻略組では見ないわね」
「なんや、ミラちゃん、負けたん?」
入ってきた2人組。
一人は蒼色の長い髪に白銀の鎧をまとった女性だ。
彼女は深い緑色の目で、俺をにらみつけた
もう1人は桃色のショートで装備は軽装だが、その両手は肘辺りまで覆われた白銀の籠手がつけられていた。
「剣士と格闘家か」
「おっ、ご名答。やるやん。
うちの名前はハクロっていうねん。よろしくな」
「あぁ、俺の名前はミヤコ。
で、こっちが――」
「はぎじゃ」
「そっちのほうはやる気満々やねぇ」
「どうも、不完全燃焼だったらしいしな」
「いや、見てたよ。
ミヤコ君? 結構早いやん」
「ハクロ、戯れはそこまでにしておきなさい。
私はリタ・ウィロウ。覚悟しなさい」
先ほどの俺との戦いを見て、結構早いと言ったハクロ。
格闘家ってことは同じくAGI重視のキャラか。
「では、決勝戦! 開始します!!」
歓声とともに、合図が鳴り響いた。
「ハクロ!」
「任せてって!」
ハクロが一気に俺の懐に飛び込んできた。
「あんたの相手はうちや」
ハクロが拳を振るう。
それを寸ででかわす。
「やっぱり、うちと同じ回避アタッカータイプやね」
ハクロが拳を振るうがそれはすべて空を切る。
ハクロは俺の攻撃力を見て回避アタッカーだと予想したようだ。
ハクロの攻撃が早くなり、躱しきれずに、短剣で受けた。
「っと、だいぶ、早いな」
「ふふん、ギア上げるよ? 避けられるかな?」
先ほどまで余裕で躱していたが、今は攻撃を受け止めざる得ない速さに上がった。
「ほらほら! これ以上、うちの攻撃が受け流せるかな?」
「確かに、早いな」
「余裕を見せてられへんよ?」
「が、ようやく追いついたみたいだ」
俺は相手の拳を避けた。
相手の素早さを上げるスキルは何か分からないが、条件に達すると素早さが一気に上がるようだ。
変わって俺は、避け続けるたびに上がっていく。
ダメージを喰らわなければいつかは逆転する。
「なっ、うちよりも早いのおんのか!?」
「俺もここまでついてくるやつがいるのはびっくりだ」
「せやかて、負けへんもん!」
ハクロの素早さがまた一段あがった。
「ギアマックス! ここまで攻撃できたんはミヤコが初めてや」
「っぶね、まだ上がるのかよ!」
「これ以上は無理や。
でも、これで終わらしたる! 最高速や!
格闘乱舞 アトミックファントム!」
最高速に達した拳が髪一本の隙間で顔のそばを通る。
その避けた身体を狩るようなハイキック。
それをバックステップで躱す。
「まだまだ!」
ハクロが俺のバックステップに合わせて距離を詰めてくる。
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闘技場をミヤコとハクロが縦横無尽に駆け巡りながら戦っている。
それを横目にはぎとリタ・ウィロウがにらみ合っていた。
「なんじゃ、お主は相方に任せて戦わぬのか?」
「あなたこそ微動だにしてないけど、戦う気があるのかしら?」
「なぁに、あの速さで周りで戦われると、こちらが戦いにくいといったらありゃないわ。
それに、楽しそうだしな。手を出すのは無粋といったものじゃ」
「ふん、よく言うわわね」
「主こそな」
リタ・ウィロウとはぎはお互い見合ったまま動かない。
傍目ではそう見える。
リタ・ウィロウは魔法剣士だ。
はぎに見えないように隠れて魔法陣を生成していたが、それをあの厄介な髪で壊されていた。
はぎははぎで、闘技場に髪の糸で巣を張ろうとしているが、小型の魔法陣が邪魔をして上手く張れていない。
「そういえば、炎に弱いようね」
「そうかの?」
次の決勝戦で当たると予想していたので、彼らと炎剣のミラとの試合は見ていた。
まさか、彼らが炎剣に勝つとは思っていなかった。
ハクロは最高速度は自分を超えるといっていたし、ミラの乱舞を避けたスキルも気になると言っていた。
変わってはぎは展開型の戦いをするようだ。
偶然ではあるが、範囲攻撃をメインにするリタ・ウィロウと似たような戦い方をする。
先に自分の有利な展開をした方が勝つ。
魔法陣の展開は上手くいっていないが、それは相手も同じこと。
お互い最低限の展開は維持しながら相手を浸食しあっている。
「はぎ!」
「リタやん!」
ハクロとミヤコが同時に叫んだ。
「範囲攻撃だ! ぶっぱなせ!」
「うちごとぶっぱなして!」
ちょうど、ミヤコとハクロがお互いの短剣と拳を撃ち交わした瞬間だった。
「領域展開! 土蜘蛛の吐糸!」
「魔法陣展開! 神聖光の煌めき!」
白い糸が重なり合い巨大な柱のような太さになり辺りにうねる、と、同時にリタの魔法陣から光の剣が浮かび上がり輝きとともに、辺りに散らばる。
リタは瞬間、剣を構えはぎの方に踏み出した。
このまばゆい輝きの中、相手は自分の姿を確認できないだろうとふんだ。
魔法のみでない剣技もあるからこその魔法剣士。
はぎに向かって剣を振り下ろした。
「覚悟!」
そういって、ミラは剣を振り下ろした。
ガキン!
「えっ?」
その音にリタは驚いた。
受け止めた? いや、相手はまだ剣を持っていなかったはず。
「残念。はぎだと思っただろ」
そこにいたのは、先ほどまでハクロと戦っていたミヤコだった。
「どうしてここに!」
「ははは、びっくりしただろ」
はぎの領域展開と同時に、はぎの糸が俺に伸びてきた。
俺は俺で、泥の短剣を伸ばしてはぎの糸をつかんだ。
で、お互い引きあって、場所をスイッチした。
「ハクロは凄いな、あそこまで俺の速さについてこれたのは初めてだ」
「私の相方だもの」
リタが悔しそうに笑った。
「じゃあな」
最高速の剣撃乱舞。
ハクロさえ追いつけないと言われた連撃をリタが受けられるわけなく、その連撃に彼女は倒れ落ちた。
「リタやん!」
「おっと、他人の心配をしている暇があるのか?」
倒れたリタを見てハクロがそう叫ぶ。
が、ハクロはその場から一歩も動けないでいた。
「白糸の剣は一太刀振れば、相手を鈍らせ、二太刀振れば相手を止める。
もっとも、お前はミヤコの戦いでぼろぼろのようじゃがの」
はぎは白糸の剣をハクロに突き刺した。
「他人の喰い残しを食べるのは気に食わんが……まぁ、強者の一興というものよ」
そのひと振りでハクロは倒れた。
「ミヤコよ。よく戦ったの」
「まったくだ。これでお前の願いをかなえたわけだ」
はぎがとことこと寄ってきて、俺に抱きついた。
「なんだ? ねぎらってくれるのか?」
「ふむ、それもあるがの――」
そういえば、いつもの試合終了のアナウンスが出ていない。
「がはっ――」
不意に。衝撃とともにダメージが入った。
「ふふふ、主は旨いのぅ」
はぎが首筋に噛みついた。
体力が1を残してすべて削られた。
ステータスに目をやると、それに加えて猛毒状態だ。
「この毒では死なぬよ。
ただ、回復をしてもすぐにそれと同等のダメージを受けるがな」
突然、目の前にウィンドウが開いた。
緊急クエスト:修道院の秘密を知る
達成報酬:天恵の蜘蛛糸
「おぉい、マジか」
成功報酬がまさかの≪天恵の蜘蛛糸≫だった。
「さぁ、3人共、我と勝負じゃ!」
えっ? 3人?
後ろを見ると、瀕死のリタとハクロがふらふらと立ち上がった。
「おいおい、これで戦えってのかよ」
瀕死の3人は武器を構えた。




