第002話 回避盾はキャラメイクとともに
土曜日。
しがない独身サラリーマンの俺が唯一心休まる休日。
そして、今日はFDのリリース日。
本日10時から開始ということで、すでに準備は万端だ。
姉の指令ともいえる電話から数日。
10時のリリースに姪とFDの中で待ち合わせることになった。
「せっかく俺の煌めくプレイヤーネームを変える羽目になるとは……」
VRMMOダイブ用のヘッドギアを見つめながら1人ごちた。
プレイヤーネーム『踊るパンツ紳士』。
ベータテストから愛着があるこの名前だが、姉から教育上よろしくないと却下された。
姉からは「あなたは京って名前だから『ミヤコ』にしなさいと言われた。
なんだ、そのひねりも美学もない名前はと思ったが、姉の言うことは絶対なので、ここは逆らわず従うことになった。
少しして10時になったので、俺はヘッドギアをつけてベッドに横になった。
キュィーンという駆動音を聞いているといつの間にか、意識が暗闇に落ちていった。
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気が付くと真っ白い世界が広がった。
「今回はフェアリーディスタンスをお遊びいただいてありがとうございます」
頭の中に直接響くような声が聞こえた。
「ここではキャラメイクをしていただきます」
そういうと、目の前にいくつもウィンドウが現れた。
ここはベータテストと変わらない。
「まずは基本となる職業スキルを選んでください。
説明を聞きますか?」
「いや、ベータと同じならいらないな」
「承知しました。初期に選べる職業スキルはベータと同じとなります」
「となると……」
並んでいる職業スキルは5つ。
攻撃特化の戦士。防御特化の大楯使い。回復特化の僧侶。魔法特化の魔術師。そして、最後に回避特化の盗賊。
ベータ時代と同じものを使いたいので、さっそく俺は盗賊を選んだ。
「盗賊ですね。
盗賊はDEXとAGIに恩恵があるスキルが多い職です。
これでよろしいですか」
「あぁ、決定だ」
「承知しました。
容姿については、リアルフィードバックが仕様となります」
「はいはい、分かっているよ」
今のVRMMOの中で比較的選択されているリアルフィードバックという仕様。
装着した本人と似たような雰囲気の容姿が選択されてしまう。
当初のVRMMOはキャラメイクと言えば、容姿もそうだったが、今はそうではない。
VRMMOという世界で発生する無責任な誹謗中傷。
それに対策するために、ゲーム会社はこのリアルフィードバックというシステムを採用した。
その採用により、プレイヤーは第二の人格としてキャラクターを扱うようになり、無責任な誹謗中傷はあからさまに少なくなった。
とはいえ、完全に排除はできなかったが、それでも効果はあったので、今のVRMMOのほとんどはこのリアルフィードバックが採用されている。
「改めて、フェアリーディスタンスの世界にようこそ。
ミヤコ様。あなたを始まりの町『ティレス』に転送します。
あなたの冒険に幸多からんことを」
そういうとあたりが光に包まれ、俺は始まりの町『ティレス』に移動した。