第018話 回避盾はパンツとともに
ロッククラブの壁が俺たちを囲み詰め寄ってくる。
物量。
範囲攻撃がない俺たちにとってこれが一番の脅威だった。
俺がどれだけよけようとも隙間がないほど埋められたら避けようがない。
コトハちゃんの攻撃がどれだけ強力であってもあくまでも単体相手だ。
「どうしよう、ミヤコ、どうしよう! 押し切られちゃう!」
「ちょ、ミヤコ、早くしなさい! まずいわよ!」
スローシンプトムで進行速度は通常よりもかなり遅い。
が、こちらの殲滅速度よりもロッククラブの増殖速度のほうが早い。
「お前ら、下がれ!」
≪泥の短剣≫。形状は不定にして無限。
素早く振って≪泥の短剣≫の長さを伸ばす。
「二刀乱舞――星屑龍星!!!」
本来なら単体相手の決戦火力となる奥の手だ。
斬撃を追うように泥の線が相手を切り裂いていく。
だが。
まだ、足りない。
もっとだ。
もっとだ。
もっとヘイトを集めないと。もっと火力を上げないと。
やるしかないのか――やるしか。
「ピティ! サッシャ!」
2人の名前を叫ぶ。
コトハちゃんが楽しみにしていた服制作。
成功させるためには生き残るしかない。
「コトハちゃんの目をふさげ!」
「えっ?」
「なんでよ!」
「いいから、早くしろおおぉぉぉ!」
俺の咆哮に、2人は「ごめん」と謝りながらコトハの目をふさいだ。
俺はそれを横目で確認した。
コトハの目はふさいだ。
これで、本来の戦い方に戻れる。
そして、俺は服を脱いだ。
パンツ一枚。
これこそ、俺の本来のスタイル。
「って、何やってんのよぉぉぉ!」
サッシャが俺の姿を見て叫ぶ。
モンスターがヘイトを向ける条件はいくつかある。
1.対象の攻撃力が高いこと
2.対象がバフやヒールを使用すること
3.対象の体力または防御力が低いこと
≪剣の舞≫の攻撃力上昇効果により1と2を実現させる。
そして、あえて装備を外すことで3を実現させる。
それに合わせ、≪挑発≫と≪不敵な舞≫を併用することで一帯のヘイトをすべて自分に向ける。
決して、趣味でパンツ姿になっているわけではない。
もっとも合理的に判断した結果。
脱いだほうが強いことが分かった。
あとは――
「≪影分身≫!!」
パンイチの俺が増殖する。
このすべてが≪剣の舞≫を舞う。
「増えてる! 増えてる!」
少し外野がうるさいが気にしない。
「行くぞ! 二刀乱舞――星屑龍星!!!」
増殖したパンツな俺が≪泥の短剣≫を伸ばしまるで踊るようにロッククラブを切り裂いていく。
≪剣の舞≫を≪影分身≫を併用することで、上昇率をあげている。
どれだけ物理耐久が高かろうとここまで高めた攻撃力の前には紙くず同然に殲滅していく。
高く積まれたロッククラブが消しゴムで消していくように消えていく。
そして、ついにすべてのロッククラブを消し去った。
「残りはお前だけだな」
巨大なロッククラブに飛び込むと両の短剣を思いっきり突き刺した。
俺の一撃に半分ほど残っていたロッククラブの体力は一気になくなり崩れ落ちた。
「ふぅ……」
これがベータ時代回避盾のトップを走り続けたスタイル。
踊るパンツ紳士と名乗った俺のスタイルだ。
「終わった……のかな?」
ピティが不安そうにそう尋ねる。
俺は装備をつけなおすと、ピティに「終わったよ」と返した。
「しっかし、さすが巨大ロッククラブはきつかったな」
ピティとサッシャが倒れたロッククラブを見て気が抜けた瞬間、地底湖が大きく波打った。
「おいおい、まさか、まじかよ」
地底湖から這い上がってきたのはもう一匹の巨大なロッククラブだった。
「まだ出るの!」
「ミヤコさっきのあれやってよ!」
「ダメだ。≪剣の舞≫の効果がリセットされたんだ。
今の俺の攻撃じゃダメージさえも与えられないぞ!」
「おじさん、私が――やります!」
出てきた巨大ロッククラブにコトハがステップで詰め寄った。
「ハイストデット、ハイストデット、ハイストデット!」
最近覚えた攻撃力アップのバフを何重にもかける。
が、それは防御力ダウンのデメリットもある。
コトハちゃんは一撃で決めるつもりだ。
「ジャッジメント――」
その瞬間、ロッククラブがハサミを構えた。
カウンターの動作だ。
後の先を取られたら、ジャッジメントパニッシャーが発動する前に、ダメージを食らう。
ただでさえ、ハイストデットで防御力が下がっている。
当たれば一撃死は免れない。
「まずい! 止まれ!」
ガンッ!と重い音が響く。
間に合わなかった。
ピティとサッシャが思わず目をそらす。
コトハちゃんの杖よりも早くロッククラブの巨大なハサミがコトハの胸を貫いた。
が、次の瞬間――パリンッ!と何かが割れる音が響いた。
「パニッシャーーー!!!!!」
同時に地鳴りのような重い打撃音が響いた。
確かに、ハサミのほうが先にあたったのは見えた。
が、それを防ぐような弾けるエフェクト。
「オートリフレクトか」
「はい。初めて発動したので、本当にできるかドキドキでした」
危機一髪といった風なコトハに俺は驚いた。
この子の度胸は凄い。
「オートリフレクトで相打ち上等って、ヒーラーの戦い方じゃないな」
「へへっ!」
コトハちゃんが照れくさそうに笑う。
別にほめたわけじゃないが、それにしても。
「それにしても、凄い火力だな」
あれだけ苦労した巨大ロッククラブが一撃で葬り去られた。
どれだけ溜めたかわからないが、その威力は絶大だ。
しばらく、様子を見たが二体目が現れる気配はなかった。
モンスター襲来の気配がなかったので、それぞれ思い思いの素材の採集を行った。
「ほんと、こんな所を見つけるなんてラッキーだよね」
「えぇ、普通は見つけられないわね」
サッシャとピティが話している。
この隠し通路は本当に幸運でしか見つからなかったのだろうか?
たぶん、それは間違いなのだ。
この洞窟で出会うセキダンゴはいつも通路をふさぐように集まっていた。
隠された入口付近にはロッククラブの大群とその中にセキダンゴ集まっていた。
注意深く観察していたらここに道があるかもと気づく人は気づくのではないだろうか。
そんなことを思って俺は少し悔しい思いをした。




