第001話 回避盾は姪とともに
「姉さん、マジで?」
電話口て姉が「あぁ、当然だ」と断言した。
俺の名前は我原京。
今年で30半ばに到達するサラリーマンだ。
「いや、さすがに姉さんの子供と一緒っていうのは……」
「そりゃ、姉さんがそういうなら……」
「でも、姪っていくつだよ? 10歳? そんな小さな子がやるにはちょっと……」
今、突然姉から電話がかかってきて、彼女はこういった。
俺からすると姪に当たる彼女が、VRMMOをやってみたいということだ。
それならと、姉は俺をあてがうことにした。
「いや、俺もベータテスト参加して、今回のリリース楽しみにしてるんだ。
いくら姉さんの子供とはいえ、足手まといに――」
その言葉に電話の先の姉の機嫌が悪くなったのが分かった。
本来ならここでひいとくべきだが、今回リリースされた『フェアリーディスタンス』、通称FDは俺が今、最も楽しみにしていたゲームだ。
VRMMMO廃人としては開幕スタートダッシュはどうしてもしておきたい。
「そんな、決定とか言われても……」
が、姉と弟という立場は30を超えても変わらないみたいで、徐々に姉に従うこと前提で話が進んでいく。
「えっ? 姉さんの血をひいてるって当たり前じゃ?
そっちの? じゃあ、姉さんは」
その言葉に電話口で姉さんは明るく笑った。
その意味は家族の中でも俺だけが分からない笑いだった。
宝くじの高額当選者というのを見たことがあるだろうか?
俺は3人知っている。
1人は父親、もう1人は母親。
そして、姉の合計3人だ。
我が家はそろって運がいい。
もちろん、俺を除いてだ。
だが、父と母の運の良さは姉が生まれてからなくなったみたいだ。
代わりに、姉が豪運だった。
その姉も、姪が生まれてから運の良さはなくなったみたいだ。
「あっ、ちょっと、待ってよ!」
姉は「じゃあ、よろしく」とだけ言葉を残して電話を切った。
「まじかよ……」
ツーツーっと電話から聞こえる終了音を聞きながら、俺が楽しみにしていた楽しき廃人生活は音を立てて崩れ落ちた。