想いと記憶の狭間
結論からすれば、彼女の言葉は告白でもなんでもなく――
「このフォルムとかほんといいよね! 何百年もここにいるのに幹が割れてないのっ! いつも誰かを見守ってて、いつも誰かに見守られて――」
その弁舌は終わることを知らない。
僕に見せた目は本当はこの大木に向けられた目で。
僕はずっと、楽しそうに喋る彼女を見つめていた。
その亜麻色の髪を揺らし、身振り手振りで語る彼女に僕は――。
「君が好きだ」
まだ出会って三日しか経っていない彼女に、告白をした。
たったの一言だけ、ほんの一言だけ。
それだけで僕は想いを伝えた気になっていて。
ただ一つの動揺もなく、僕は彼女の目を見た。
「ねえ、五年前のこと、覚えてる?」
彼女は優しく笑ってそう聞いてくる。
思わぬ言葉にそこで初めて動揺する。
「なんで今そんなこと――」
「答えて」
彼女の言葉はどこか冷たく、でもその優しい笑顔は崩れない。
「……ごめん、これといって記憶に残ることは」
僕がそう言うと、彼女は少し目を細めて、俯く。
「そっか。そうだよね」
そう言う彼女の横顔は、とても寂しそうだった。
数秒、静寂が続いた。
そしてハッとする。
僕の告白は? と。
でも、僕の勇気は足りなすぎて。
それに、ただ聞こえてなかっただけなのかも。
そうだ、聞こえてなかったに違いない。
僕は僕の告白をなかったことにした。
なかったことに、してしまったんだ。