僕だけのはずだった空間
僕は今でも夢見る、あの日のことを。
あれは今日みたいな雪の積もったある冬の日。
僕は受験勉強のために図書館に来ていた。
図書館はいつもみたいに静かで、それでいて僕みたいに勉強をしに来た学生で溢れていた。
やはりと言うべきか、一角に構えられた学習スペースは人でごった返していて、その日も僕はとっておきの場所に向かった。
図書館の二階、階段を登った先に設けられている会議スペース。
実はここも空いていれば勉強スペースとして使っていいのだと先日司書さんに聞いた。
会議スペースといっても、円卓だけがポツンとあるわけではなく個人がパソコンなどを持ち込み仕事ができるカウンター席が存在する。
僕が図書館に来るのは昼間のことだから、夜間に多く使われるこの会議スペースはいつも無人なのだ。
そこは僕だけが知る至極の空間だった。
多くの学生は一階の勉強スペースを利用してからこそ出来る完全な一人空間。
さらには図書館であるからして完成する無音の空間。
この静けさは家では作り出せない。
外で元気に走り回る近所の子供の声も。
車の走行音も。
風の音なんかも聞こえない。
僕だけの空間。僕だけの世界。
そんな僕だけの世界に初めての来訪者が現れたのだ。
亜麻色の肩くらいまで伸びた髪が印象的な女の子。
彼女は低いところまでずり落ちたメガネをくいっと直すと「隣、いいですか」と尋ねてきた。
席は他にもあるというのに。何故か僕の隣に。
もちろん断る理由もなく、僕は首を縦に振った。
彼女はそれを見ると斜めがけカバンを外して、少し高く設定されたオシャレなカフェにありそうな椅子に腰かけた。
釘付けになる。彼女の一つ一つの動きに。
これだけははっきりと言える。
あれは、一目惚れだった。