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全魔導士のアインレーベン  作者: 美音 樹ノ宮
2/21

成長

~全魔導士のアインレーベン~






この世界にはそれはもう数多の王国や帝国、街に都に村などが存在している。

その中で【アスレン帝国】は産業、工業、武力、魔力、すべてにおいて近隣国は愚か、数多の帝国や王都なんかよりも優れたにぎやかな国だ。

そこを統べるは代々続く皇帝陛下と、その配下につく王族、帝族、貴族、皇族、華族たちである。

それらは一括りに偉族(いぞく)と呼ばれているが、それぞれの区別は特になく、代々受け継がれた家名に従って、その地位が決まっている。

しかし、王族、貴族、皇族、華族と、帝族ではまだ見えない隔たりが存在していた。

前者は【アスレン帝国】がまだ王国であったころからの古い家系で、後者は王国が帝国になった頃に、与えられた称号であるため、真新しいのが帝族ということになる。

王族、貴族、華族、皇族に勝るとも劣らない力や知恵、技術を持つものに授けられるものではあるが、それを良しとは思わない者も多かった。

生物はだれしも権力、そして力欲しさに身を亡ぼすようなものばかりだ。

だからこそ、新しい帝族は自分たちの権力が危うくなると考える王族や貴族、華族や皇族からは心底嫌われている。

その爵位は決まって上から

公爵

侯爵

伯爵

子爵

男爵

准男爵

となっていて、これまた王族、帝族、貴族、皇族、華族での爵位に違いはない。

つまり王族の伯爵も、帝族の伯爵も、貴族の伯爵も、他華族や皇族の伯爵も同じ位ということだ。

そんな中、此方(こなた)の家名、リードレイン家は帝族の伯爵に位している。

帝族は他の偉族(いぞく)に比べ、その数は少ないがゆえに子孫繁栄の意志が強いため、一夫多妻制を執るものが多く、このリードレイン家でも同じである。

ゴクライ・アル・リードレインはこの家系の柱で、7人の妻と、10人の子供の父親。

そして此方(こなた)アデレア・アル・リードレインは10番目、息子としては6男になる。

母親のリタウレ・アル・リードレインは絶世の美女として有名で、受け継いだ銀髪と銀色の瞳は人々を騙し陥れるような美しさを兼ね備えているため、迫害を受けていた。

容姿は誰もが嫉妬や劣等を抱き、そのあまりに美しすぎる銀が故に気味悪がられ、物理的にも精神的にも疎外を受けていた。

一番下の妻である彼女はこれまで時間をかけて関係を結んだほかの母親たちとは違い、一瞬でゴクライのそばに入ったらしい。

そのことも加わり、さらに劣等感や嫉妬心を書き立たせてしまっている。

そんな彼女がいるのはゴクライが用意した、統治という名目の疎外をくれる屋敷。

リードレイン家としては明らかに領地外にあるそれでも大きな館だ。

リードレインの名を背負ったからには醜い恰好はさせない、しかし迫害は受けてもらう、そんな意味合いがひしひしとにじみ出るそんな場所。

この場所を領地として授けられ、近しい地域の貢献になるよう統治を行っていくことが、生まれて間もない此方(こなた)に与えられた試練とか何とか。

しかし彼らにとっては逆に嬉しかったりもする。

彼らとはリタウレに従える使用人たちで、すべてを敵に回しても味方であると腹をくくっている執事等だ。

領地の中、そしてゴクライの近くにいれば、またいずれあいつらから何かされる、そんな心配から解放された彼らといえば。

「アデレア様。

 お待ちください!!」

「アデレア様、こちらにおいで下さい!」

「アデレア様ーーーー!!!!!」

執拗なまでの愛を、自身等が慕うリタウレの子、アデレアに注ぎに注ぎまくっていた。

「そっちいく!」

「そうです、こちらにおいで下さい!」

室内では全身ずぶ濡れで走り回る裸のアデレアと、それを遠くから椅子に座り見つめるリタウレ。

そして彼を追いかける使用人ジェフに、タオルを両手にアデレアを包み抱き上げるの使用人ミラ。

アデレアは生まれてから5年の月日が経過して、幼子というには少し無理があるほどの成長を遂げていた。

銀髪の髪も伸び、幼さからもわかる顔の整い、そしてその可愛さときたらここにいる者たちを一瞬で殺してしまうほどの存在感を放っている。

もちろん物理的にではない。

「はーい、捕まえましたよー!」

「はぁっはぁっ、全く、早いですね。」

「ジェフさんはもうお年ですから、アデレア様のお世話は私に一存してもらってもいいですのに。」

「なんの、この老体。

 朽ち果てようともアデレア様のお世話をお譲りするつもりもありませんぞ。」

「ちょっと、二人でアデレア様を取り合わないでよ、私たちもアデレア様と遊びたいんですから!」

「そうだそうだ、アデレア様、こちらにおいでー」

ここにはいろんな性格のいろんな種族がいる。

猫耳が特徴の猫舞種(キャーミット)森召種(エルフ)地槌種ドワーフ人類種(ヒューマン)

狼の獣人狼義種(フェアラルフ)に、犬耳の戌愀種(リディバ)、小人の小銘種(コローナ)

そんな様々の種族が様々なもてなしでアデレアを楽しませようと試行錯誤を繰り返し、当主からの使命など忘れているかのように幸せな時間が流れていた。

「こらこら、あなたたち。

 アデレアも早く着替えさせないと、風邪をひいてしまうわ。」

遠くから見守っていた笑顔のリタウレがその温かい笑みのまま使用人たちに声をかける。

「そうですね、はいアデレア様。

 こちらにいらしてください!」

「あーずるい!」

「こら、風邪をひくでしょう。

 早くしないと...ッちょっと邪魔しないで!」

てんやわんやな中、その中心にいるアデレアはずっと笑顔を振りまき続けていた。




「奥様!!!」

「ん、何かしら。」

メイドの人類種(ヒューマン)、ミラが一つの便箋をもって部屋に入ってきた。

今は一悶着あった後、アデレアの着替えが終わって、アデレアとリタウレ二人が食堂でケーキを食べているところだった。

もちろん使用人を合わせると15名ほどになる。

食堂はとても広い作りだが、アデレアの周りは取り囲む使用人の数に押され、とても狭く感じてしまう。

そんな中、便箋を受け取ったリタウレはその内容に目を通す。

「...どうしようかしら。」

「どうなさいました?」

聞き返したのはジェフである。

「ジェフ、皇帝陛下からの招待状。

 また催しを開催なさるようで、ゴクライからその知らせが。」

便箋の内容はこの帝国の平和と今後の多幸、発展を祈念しての親睦会という名目の腹の探り合いへの招待状であった。

皇帝陛下のお屋敷で毎年開催される偉族(いぞく)がこぞって参加するパーティーである。

そこでは皇帝陛下へのお目通りや、他の爵位のものとの談話、あとは本当に腹の探り合いが行われる。

アデレアが生まれてから4回の招待があったが、リタウレはそれに一切参加してこなかった。

それはひとえにアデレアが小さかったからだ。

最初はリタウレの身を案じたが、リタウレは他の女達からの嫌がらせは本当になんとも思っていないらしくアデレアを守りたい気持ちが強かったそうだ。

「今回はどうなさいますか?」

聞き返すジェフ。

「そうね、流石にそろそろ顔を出さないといけないかしら。

 アデレアも大きくなったし、それに...」

と彼女はアデレアを見る。

きちんと丁寧に銀器を使い、口にケーキを運ぶ我が子。

彼女の懸念はたった一つ。

アデレアの力を隠しきる必要がある。

そう今日の昼間もアデレアがびしょぬれになった理由はそれだった。

メイドたちが水の魔法で草花に水をあげていたらそれを見たアデレアが尋常ではないほどの水を放出させ、辺り一帯水浸しになった。

5歳児が扱うにしては大きすぎる魔力量。

もしそれを何の気なしに皇帝陛下の前で暴発させでもしたら...。

「アデレアの力、隠しきれるかしら。」

「そのことが唯一の懸念ですからね。」

使用人みな思っていることは同じらしい。

「でも...」

これまで、母親らしく常識という常識を教えてきたから、失礼に当たることは何一つしないであろう。

それとは逆に魔法に関して何一つまともに教えていないからこそ、見よう見まねですべてを壊しつくす可能性もあり得る。

それでも、外の世界に事に触れていかなければこれから生きていけない。

「ジェフ、ミラ、あなたたちで催しまでの一週間。

 アデレアの訓練はできるかしら。」

「魔法を教え、好奇心を抑える。

 魔法の取得を促すことで無知をなくし、暴発を抑える。

 アデレア様の成長、リタウレ様の願いとあらば必ずや。」

「私も全力を尽くします。」

老紳士、そしてメイドそのもの、この二人に任せていれば大抵のことはうまくいく。

「任せたわよ、それとアーレとサシャはアデレアの正装を。

 リュットはもう一度アデレアが皇帝陛下に拝謁するためにふさわしい作法を。

 ロッドは口調を、お願いできるかしら。」

それぞれがそれぞれの役割に適した指示を一瞬で行うリタウレ。

「「「「かしこまりました。」」」」

一斉に返事を行い、首を垂れる。

その様子はアデレアにとって、母に対する最大の尊敬する姿となって後に理想とする姿になる。

いつもは子供らしい顔を引き締め、じっくり観察するアデレアであった。

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