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全魔導士のアインレーベン  作者: 美音 樹ノ宮
11/21

晩餐会 5

~全魔導士のアインレーベン~







「陰、の仕事とは。」


「リタウレ夫人。

 アインレーベンというものをご存じかな。」


「...はい、教養はあります。」


「うぬ、貴殿の浮かべた表情とその意味は、そのまま内容を理解していることと同義である。

 流石は、と言わせていただこう。」


「勿体なきお言葉です...。」


「ふッ、まぁそういう反応をされるであろうことは予想がついていた。

 それゆえ、此度の件は断ってくれて構わないと言ったのだ。」


「お話をお伺いさせて頂いてよろしいでしょうか。」


「ッ、そうか。

 わかった、では話すとしよう。」



重々しい雰囲気から話し始めた皇帝陛下。

従者を部屋から退出させ、アデレアとリタウレ、皇帝陛下の三人きりになった部屋の中は、既にシンッと静まり返っていた。

そしてその雰囲気をさらに沈めているのは皇帝陛下その人の落ち着きよう。

しかしこれは何となくわざとやっているのでは、という雰囲気をリタウレは感じ取っていた。

これからこれ以上ない真面目な話が飛び交うだろう。

残念なことに、彼の口からでたアインレーベンというものを知っていないアデレアにとっては、伝わることのない雰囲気ではあるが。

その様子に今までのアデレアからして、しっかりした態度を崩した今の首をかしげる行動とは、おそらく本心から出た無意識のものであろう。

緊迫するリタウレと皇帝陛下の表情からして、今の間の抜けたアデレアの顔が何よりもそれを物語っている。

意味不明とばかりに二人の顔を交互に見るアデレアに微笑み、皇帝陛下は続きを話し始めた。



「リタウレ夫人の知識確認として、そしてアデレアくんとの確認として、とは言っても今はまだわからないだろうが、説明させてもらう。

 アインレーベンとは私の陰の仕事を引き受けてくれているもの達の総称である。

 私達皇帝、その一族はこの【アスレン帝国】を上手に発展させてきた。

 周囲隣国からしても、流石の一言に尽きるように。

 しかしそれには当然として綺麗ごとだけで片付けれない事象もたくさんあった。

 未だ陰で横行している奴隷商や違法取引(いほうとりひき)、危険な研究であったり...重鎮たちの横行だ。

 見過ごすわけにはいかない、しかし何もかもを制限していくことが国の上手な運営だと、そんな簡単な話ではない事は重々承知している。

 私はこの国の頂点に君臨し、そしてその事実に何より誇りをもって皇帝という立場を続けている、だからこそ表立って動けないことは言うまでもない。

 そこで裏の仕事、ようは行き過ぎた言動をとる、この国の発展のために消さなければならないものを掃除する者が必要になってきた。

 それがアインレーベン、私たち皇帝の家系に代々仕えてきた”裏の仕事人”だ。

 リタウレ夫人、貴殿の教養はこれと合致しているかね?」


「はい、その通りでございます。」


「うぬ、ではアデレアくんに、その職務と全うしてもらいたいと、考えている理由を話そう。」



まずはアインレーベンなるものの存在と、リタウレの知識が合っているかどうかの説明を淡々とこなす皇帝。

重々しい雰囲気にはなんともばっちりというべきか、皇帝の声は幼きアデレアでさえ何か内容を理解しなければならないという義務感に駆られるような、威厳を乗せて放たれていた。

そしてその内容をまるっと汲み取り、理解していたとばかりに頷くリタウレを見届けて、今度はアデレアに対しても話す姿勢を見せ、次なる話題に話を移す。



「まず、このアインレーベンという職務に就くにあたり、いくつかの条件が存在していることから話しておこう。

 それは三つある。

 一つ目は当然のことだが、裏切らないこと。

 二つ目は私利私欲のために行動しないこと。

 そして三つ目にどれほど人のために行動できるのかということだ。

 それを踏まえ、これからの話を聞いてほしい。」



そこまで語った皇帝陛下は今までとは打って変わって、何かをテストした後に良い結果を得られたかのような、軽々しくも愉快で感心したとばかりの声音に変わって話をつづけた。



「本日の晩餐会、その来城の段階でのことだ。

 毎年一つや二つの馬車が暴走していることは知っているだろう。

 そして貴族たちはそうならないように手慣れた御者を取り扱う、それは自分の首を思うと何とも軽い出資にして、礼儀であるともいえよう。

 しかし、私たちはその段階から貴殿に目を付けていた。

 実はな、例にもれず今年も暴走した馬車は我々が用意した馬車なのだ。」


「ッ―――――」


「まぁ、驚かれるもの無理はない。

 がそうは言ってももちろん安全面を考慮した作戦の内であるがな。

 暴走予定の馬車、その午連種(ブルーバ)を取り扱う御者は手練れ中の手練れ。

 さらに襲われそうになった女の子とその午連種(ブルーバ)は、生まれたころからの家族で、何より信頼に厚い。

 怪我をさせるようなこともなければ、芸もできて、何から何まで言うことを理解しているかのように行動に移す賢い午連種(ブルーバ)と、優しい少女だ。

 そして、その馬車の前後左右は、同じくこちらで用意した馬車。

 つまり何かが起こったとしても安全は確実に確保されているということである。」



説明口調の皇帝は、自慢げに指を立て頷き更なる事情説明を行う。



「これによって三つ目の、どれほど人のために行動できるのかというところをテストさせてもらっていたのだ。

 晩餐会に招待しているのは誰もが成人していない男女。

 そして暴走馬車を止めるのは手練れの御者。

 当たり前の光景ではあるが、幼いうちからその合間を掻い潜り、例の少女を救ってくれるものを探し求めていたのだ。

 毎年行っているということから、誰か特定の人物を狙ったわけではない事を理解してほしい。

 そして本日その祈願が果たされた、ここより先は言うまでもない、貴殿のことだ。」



皇帝陛下はその正体がアデレアだと、誰にでもわかるよう大げさに彼へと視線を送る。

そして目を閉じ、淡々と話を続ける彼はさらに微笑みを強めた。



「ここからは残り二つの条件を含めて話すとしよう。

 一つ目の裏切らないというところに関しては、幼き時よりアインレーベンとしての教養を身に着けてもらうことで、きつい言い方ではあるが半強制的に裏切りを行わないよう性格を確立させていくつもりである。

 まぁこれは拷問的な意味ではなく、単純にそういった勉強を行ってもらう事で成長を促すようにと考えている。

 あまり重く受け取らないでほしい。

 そして二つ目の私利私欲のために行動しないこと。

 これに関しての話なのだが、正直に言ってもとよりこれ基準で我々は貴殿を迎えたいと考えていた。」



途中、きつめの言葉に、流石のリタウレも少し表情を曇らせたことで、今までの笑みを消し真剣にその事実を伝えることで、思いを伝達させることにした皇帝。

内容を理解したことで、リタウレは少し落ち着きを取り戻し、それを見た皇帝はさらなる条件へと話を切り出した。

一つ目の条件と三つ目の条件が揃った現状で、残るは当然二つ目の条件に当てはまるかどうかの確認。

しかし思った以上にすんなり浮かべた笑みを物語るように、皇帝は軽い声を飛ばし話を続けていった。



「これまで5年間にわたり、私の招待を拒んできた貴殿たち。

 あぁいや、悪い意味で言っているのではなく、これ以上ないほど良い意味で言っているのだ。

 それを把握したうえで後の話を聞いてくれ。

 その実、私の招待に生まれて間もない赤子をこの晩餐会へと連れてくるものが多くてな。

 建前でもありメインの目的でもあるのだが、一応はリリアーナの縁談という形で開いている会だからこそ、お眼鏡にかなうためにはと。

 もちろん皇帝である私の誘いを断るなんて言語道断だという意見もあるだろうし、不敬にあたりたくないからと言う意見もあるだろう。

 しかしこれだけ長く偉族(いぞく)達を見ていると、”欲にまみれた者”と”そうでない者”の区別くらいは簡単につくようになった。

 最も、晩餐会に来る奴に後者は一人としていなかったのだが。

 そして今日まさに待ち望んだ後者が現れた、貴殿らだ。

 この招待を受けなかったのは貴殿らが初である、それが私にとって何よりうれしかった。

 貴殿らからはいい意味で欲を感じない、それが逆に気になり始めな。

 そしてアデレアくんを監視し続けていると、これ以上ない結果を見せてくれた、ということなのだ。」


「一つ、よろしいでしょうか。」



満足であると、微笑む皇帝にそれでもと声をあげたのはリタウレ。

アデレアもその様子を淡々とただ見ているだけで内容を理解しつつ見守った。



「無礼であることを承知の上で。

 それだけの理由でアデレアをアインレーベンに望まれる、理由が此方(こなた)には少し。」


「うぬ、そうであろうな。

 まだ5歳で、教養もなければ常識もない、国の運営や発展、そして裏の仕事の過酷さなどに関する知識は皆無と言ってもいい。

 それでも、私たちがアデレアくんを望んでいる事に変わりない。

 その理由は数多くある、説明ばかりになるが、お互いのためきちんと話をさせてもらってもよいだろうか。」



その問いかけに頷くリタウレとアデレア。

そして語り掛ける皇帝陛下は「まずは来城の時を思い返してほしい。」と一声。

続く行動はリタウレ達の記憶の掘り返しである。



「あの時、馬車の暴走が起こった後、アデレアくんに声をかけた男がいたことを覚えているか?」



リタウレが知りようもない事情に、彼女はアデレアへと視線を送って、そういえばと大男の姿を思い返すしたアデレアは皇帝に向かって頷きを見せる。



「はい、しっかりと。」


「奴はグラウスという名前でな、貴殿の行動を見張るよう頼んでいた男でな。

 その正体はこの城の戦士長なのだ。

 貴殿を一人の子供として見張らせていたが故、敵意もなければ油断もしていただろう。

 しかし、実力は確かである、そんなグラウスを貴殿は見事撒いて見せた。

 それがどのように行われたのかは見ておらんが、奴が見失うとは何か得体のしれぬ貴殿の強さが関係していると、私たち一同は考えておってな。」



得体のしれぬ貴殿の強さ、と言われた段階で、笑みを浮かべるリタウレは少し目を細めた。

皇帝も気づかない程度であったがゆえに、その場で言及されることはなかったが、隠すつもりでいるアデレアの本当の力がバレそうになっていることを把握し、より一層警戒心を強めておくことにする。

そしてそれはアデレアにも伝わったそうだ。

屋敷を出る段階で、再度確認していた力を隠す必要があるという作戦。

それがバレたのかと、リタウレをこっそり伺って、変化がないことを確認すると自分も顔に出さないよう作った笑みを保ち続ける。



「申し訳ありません、あの時声をかけられた男の人のことは覚えているのですが、どうやってその場を離れたのかは。

 何分、急ぎ姫様...ッリリアーナ皇女を、お守りしなければと必死でしたので...」


「んッ、リリアーナ?」


「...はい、馬車の暴走の時、救うことができた女の子のことです。」



内情は打って変わって別の話ではある。

なにせ馬車を止めるために『強化:脚力(エンハンス)』を使ってその場から消えただけであり、彼女が現れたのはその後であるからして。

ただ現状では最も使いやすいリソースを見つけたと、それを用いながらこの歳で皇帝陛下相手に嘘ではない嘘をつくアデレア。

そしてそんな彼の言葉に何かの食い違いを感じているのか、驚くようにも尋ねるようにもそう聞いていた皇帝に、これは言うべきではなかったかと失言を危惧するアデレアは少したじろぐ。

しかしその恐怖を切り裂いたのは皇帝の豪快な笑い声であった。



「はっはっは、彼女がリリアーナだと気づかれておったか!」


「あぁ、いえ。

 確信を持てたのは晩餐会の途中でリリアーナ皇女とお話しした際ですが。

 髪の毛の色も違いましたし、雰囲気も少し。」


「ん!

 そうかそうか!

 誰だかわからんけど、とりあえずは少女を救うことに全力を注いだと!

 ますます貴殿が欲しくなった!」



言い切った皇帝はもうすでにアインレーベン入りを決め込んでいるかのように喜びの雰囲気を見せる。

そして未だ納得できてないという表情を浮かべているリタウレに、落ち着きを取り戻しつつ向き直り、更なる理由説明を行った。



「いや、すまないリタウレ夫人。

 アデレアくんは、これ以上ないほど良い子である。」


「有難きお言葉です。」


「して、あの場ではその他の要因も絡んできてはいたが、これが(おおむ)ね戦闘面でアデレアくんを求めている理由である。

 この歳にして、はるかに優れた体術とみた。

 場合によっては...おぉそういえば、リリアーナがアデレアくんを勉強に誘ったと聞いている。

 そこを含め我が城で彼女とともに稽古勉強に励んでもらいたいと考えておる、検討してほしい。

 そして、これがアデレアくんを、いや君たちを求めている理由でもあるのだが...」



と何度目か、皇帝は親密でも真剣な表情を浮かべ直して一呼吸置き、リタウレ達に説明内容を理解してもらおうとする態度を見せてきた。

そして紡がれた言葉に反応をみせたのはリタウレだ。



「ゴクライに関係している。

 先の晩餐会で彼には世話になっていると言ったのを覚えているか。

 あれは確かに事実である。

 しかし奴は貴殿らとは違い、悪い意味での欲がない。

 事実、彼の正妻から側室、貴殿とメリラ、ピーレを含まないもの達とその子供からはいい話を聞かないのだ。

 親の務めであるはずのゴクライの教育はいかがなものか、それをしないということは自分の地位に関心がないという事と同義。

 それゆえの欲がないというのは、この国にとっても危ういとも考えている。

 とは言っても彼はこの国において重要な位置を確立させている帝族の一人。

 私とて失うわけにはいかないほどには世話になっていること間違いない。

 そして、そのリードレイン家の横行の放置は、巡り巡ってリタウレ夫人、貴殿の義姉からの被害へと繋がっているようにも思えてな。

 余計な詮索をして申し訳ないな。」


「いえ、そのようなことは。」


「だがの、私がゴクライに伯爵との位を与えている要因が二つあってな。

 そのお詫びと言っては何だが、はっきりとそれを伝えることで先の無礼を水に流してほしい。」



決まってこういうと決めていたかのように、すらすら言葉を話す皇帝は、まるで頂点に君臨するべき象徴であるかのように下の者にも同じ目線で話を続ける。

彼の口から「無礼」という言葉が出てきたときは、流石にアデレアでさえ驚きを見せたものだ。

水に流す、その単語でリタウレが遠慮気味に止めに入る行動を見せるや否や、皇帝はそれに声を被せることで今度はリタウレの行動がとまった。



「お辞め下さい―――――」


「いやいや、けじめを付けさせてくれ。

 して、その内容であるがな、まず一つ目はリードレイン家の家系であるその強力な風が関係している。

 天候を読み、街に安定の息吹を吹かせ、元々の魔力量もさることながら強力とも言える戦闘との織り交ぜなど、多種多様にして十全十美(じゅうぜんじゅうび)

 それゆえ【アスレン帝国】では類を見ない存在として重宝し、かなり帝国の発展に尽力してもらっている。

 そして二つ目は聡明にして的確な状況判断と処理能力、そして何においても冷静を掻かない彼の性格そのものだ。

 これは特に突き詰めることがないほど、完璧であるため説明を省かせてもらう。

 以上のことから、私は彼の力を買っているのだが、知っての通り近ごろはというと少々思うところも増えてきた。

 そこでな、同じ家系でもあり、さらにこの歳にして彼に劣らない聡明さに冷静さ、そして事件の際見せた行動力にして状況判断と処理能力。

 これから伸びしろしかない、そしてその伸びしろは限界を知らないと来たら、すでに喉から手が出るほど欲しい人材として、そしてゴクライに変わる人材として、君の力を買っている。

 それが君を求めている理由だ。」


「そういうことでしたか。」



なんとしてでも、というこれ以上ない圧力を感じる皇帝の興奮した声音。

それは既に決まりつつあるかのようなテンションで語られているがゆえに、未だ納得いっていないリタウレの表情が浮いて見えるほどである。



「とは言っても、おそらく未だリタウレ夫人が不服に思っているであろう所だと、今すぐにというわけではない事は伝えさせてもらおう。

 先も申した通り、リリアーナの初めての友人として、彼女が誘った勉強と稽古に関しても受けてもらうつもりもあるし。

 私が願うところでは未だ幼すぎるというのも同じ思いだ。

 勉学に励む場所、そして稽古に励む場所は既に決まっているのなら話は別であるが。」


「それは未だ。

 此方(こなた)の想いでは、陛下もご存じの通り、気軽にアデレアを外へ連れていくことができないからゆえ、優秀な使用人たちに任せるつもりではいました。

 しかし、先のお話が本当でしたら、これ以上ない喜びです。

 アデレアのためにも、皇女とご一緒に勉学、稽古に励むことが何よりかと。」


「おぉ、そうか!

 して、アデレアくんはどうか。」


此方(こなた)は、約束を破る真似はしたくありません。

 謹んでお受けいたします。」



これであっているのか、甚だ疑問ではあった敬語。

しかし喜ぶ陛下の顔を見ると間違いなかったのだと確信する。

そして今すぐではないという内容がカギとなり、一気に話しが進むと、すでにアデレアの勉強先が決定した模様。

リタウレも思った以上の好展開に愛想笑いではなく本物の笑みを見せていた。



「いい返事が聞けて良かった。

 アインレーベンとなること、期待しているぞ。

 ただそうでなかったとしても、ここでの訓練はいつか君の役に立つだろう。

 リタウレ夫人、まだその答えは出さなくてよい。

 すでに大人びていることに変わりないが、アデレアくんがしっかりと将来を見据える歳になるまでは。

 さらに良い返事が聞けることを長らく待つとする。」


「ありがとうございます。」



「よし!」という掛け声で立ち上がる皇帝は、そのまま後ろの机へと足を運び、棚から書類をいくつか取るとまた戻ってきた。

そして、今後始まる勉強と訓練の日時含め内容と、送迎から細かい事情まで互いの予定を話し合いながら確認をとっていく。

今日一日で将来の何もかもが変わったような気がしている。

そんなアデレアと同じ思いなのは母親であるリタウレ。

喜びを見せる二人の表情を汲み、皇帝もよい返事が聞けたことによる笑みを浮かべると、話し合いが続く光景がその場に残る。

そして三人の会議は少し長引き、終わるころにはすっかり夜の星が輝き始めていた。

事情の最終確認を終えた二人は、皇帝に促されるまま起立し、その部屋を後にする。



「アデレアくん、最後に良いかな?」


「はい。」


「リリアーナを、よろしく頼む。」


「お任せください。」



退出間際に掛けられた皇帝からのその声に、特に何か思う様子も見せず反射でそう答えたアデレア。

綺麗に胸に手を当て、頭を下げる姿は偉族(いぞく)顔負けの気品を感じさせている。

それを受け取った皇帝と後ろから見守るリタウレは、一瞬驚いた表情を見せるとすぐに微笑み、場に笑い声が戻る。

そして「失礼しました。」と一声の後、再度頭を下げ直して部屋を後にした。

廊下で待っているミラたちに「お待たせ」と声をかけたリタウレに、続き皆は歩き始める。

内容は聞いていなくとも、主人の雰囲気で何やらいい話が行われていたことを察した使用人一同。

そんな彼らを連れ、リタウレ達は帰路に就くのであった。

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