これが正しい歩み方
~全魔導士のアインレーベン~
此方の家系は風使い。
風魔法を得意としてる家系だ。
そのおかげで帝国を仕切る帝族として高い地位に位している。
だから、今此方が受けている全ての拒絶は、風の性質にとことん疎い我此方の運命をまとめて語っているようだ。
「お前の今後が、うまくいくように祈っているよ。」
期待している、と言われることはなくなった。
神仏に此方のすべてを祈っているらしい。
笑顔を向けられることもなくなった。
変わりに嘲笑をくれるようになった。
それは言い換えれば此方に期待などしていないのだ。
それは言い換えれば此方を認めていないということなのだ。
「はい、この身に誓って。」
好きに笑えばいい。
好きに罵ればいい。
此方には関係のないことだ。
「アデレア、下がってよい。」
アデレア・アル・リードレイン、それが此方の本名だ。
しかし、家名を継がせないとばかりに、大衆の面前で此方だけの名を呼ぶ。
喜んで、こちらから願い下げだ。
誰にも見られないよう、垂れた頭で口元をゆがめる。
「はい、失礼いたします。」
此方の後ろ姿に刺さるのはいつだった変わらない目線。
全てを理解している気の哀れな愚者たちの軽蔑のまなざし。
「愚かだ、すべて愚かだ。」
誰にも聞かれぬよう、口元に言葉を放つ。
此方の行く道は決まっている。
この愚者の王である父親よりも、はるかに優秀な君主となってやる。
「これが...此方のアインレーベンだ。」
「リタウレ奥様、生まれましたよ!
元気な男の子です!!!」
「奥様そっくりに美しい顔立ちの男の子です!
ほら!!」
その日生まれたのはいたって健全で母親そっくりの銀色の目と髪が特徴の人類種の男の子。
その子の頬にそっと触れる母親。
「此方の、子供。
あぁ、アデレア、無事に生まれてくれて、ありがとう。」
その感嘆の言葉とともに涙を流す母。
ここに流れるのは幸せと歓声、その中に包まれて生まれた幼子は、泣くことはせずに静かに笑っていた。
「そうか、生まれたか。」
「はい、ただいま。
元気な男の子だそうです。」
ここは真逆に不幸せと静寂が訪れる息苦しい空間。
「ゴクライ様、そろそろお時間です。」
「わかった。
それでは私は失礼させてもらうよ。」
ゴクライ・アル・リードレイン。
リードレイン家の当主で一夫多妻制の一本柱。
彼は後に10人の子供の父親となるはずの暴君である。
自身の10番目の子供、アデレア・アル・リードレインが生まれたと知っても、特にうれしがる様子も見せず、自身の統べる領地の仕事へと赴く。
その内容は使用人には知らせが入らず、何をしているのか全く知られていない。
「はい、それではわたくしめもこれにて失礼いたします。」
「よい、先に出て行かれ。」
「ハッ。」
黒い執事服に身を包む使用人。
9人の母親の内、アデレアの母親であるリタウレに付き添う執事であるジェフは年老いた猫舞種である。
猫舞種の特徴である猫耳は、元気を失ったように垂れ、しかしその風格はまだまだこの魔法の世界に順応しきっているように強さを保っている。
身長は180cmくらいであろうか、銀髪でモノクルのよく似合う老紳士。
威厳を放つ当主に背を向け、規律良い歩幅と姿勢で部屋を後にする。
そして部屋を出るや否や、心の中で渦巻いていた感情をすべて聞こえないように吐露した。
「チッ、自身の子供に向けて、あの反応。
あれが実の父親ですか。」
これはジェフの言葉である。
アデレアとリタウレに従える執事たち、総勢28名は言わずもがな、リードレイン家が心底嫌いであった。
だからこそその当主であるゴクライのことも嫌いだった。
それはリタウレが他の妻たちから迫害を受けているにもかかわらず、一切の関与も手助けもしてこないことに他ならない。
いやがらせ程度であろうが受けている本人はそれ以上の苦痛を味わっている。
そんな一番醜い迫害だ。
絶世の美女であるリタウレはその美貌からほかの女に嫉妬心と劣等感を抱かせる。
さらに出身もわからないことから、美しさだけでゴクライに付け入ったと思われ、その迫害はさらにヒートアップしていた。
それがまたなんとも憎たらしい。
救いの手を差し伸べてくれるほかの者もいない。
それなら救われた自身たちが彼女たちを救ってあげなくてはならない。
「リタウレ様、アデレア様、今すぐ戻りますぞ。
そして、そしてそのお美しいお顔を拝見させていただきます。」
彼らの愛28人の愛はすべてがアデレアとリタウレに向けられていくのであった。
「予言通りであったな。」
「いえ、まだ定かではありませんが。」
「それでも、銀髪に銀の目。
さらに男と来た。
もう確定ではないか。」
部屋に響くのは低い男の声と老婆の声。
その部屋に残響する厭らしい言葉の数々。
「これからの成長次第ですが。」
願ってもないような声音の男は、他に興味も示さないような態度で仕事へと向かう。
自らの問題に対してただただ無感情に何も思わない、これがその父親、ゴクライである。