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亡国のイデア  作者: おこめ
第一章
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騎士と炎龍

「・・・分かった。死ぬなよ。」

「誰が死ぬか。こっちは剣神様に四度も勝ってるんだ。・・・いけッ!」


 ローランの声と同時に城門へ走り出す。その動きにつられるようにして魔物たちがイデアを目がけて一斉に動き出した。


「テメェらの相手はこっちだァァアァァア!!!」


 ローランが全身のオーラを解き放ち、再び魔物を釘づけにする。イデアが城門を潜るのを見届けたローランは静かに笑い、魔物の群れを睨む。


「・・・魔物如きが、ここを通れると思うなよ。」


 ローランは剣を強く、強く握りなおした。




 ローランに援護されたイデアは城門を潜り、生存者を探す。城内はローラン達が死守しているにも関わらず、魔物で溢れかえっていた。

 城壁をよじ登ってきたのか、はたまた空を飛んできたのか、イデアにとって想像以上の光景が広がっていた。


 街の至る所には民や王国兵、騎士団の亡骸が散乱し、その一部に魔物が群れ貪っている。白く美しかった景観が、飛散した血肉によって赤く染まっていた。


「クソッ!どうしてこんな・・・!」


 地獄・・・まさにそんな言葉が脳裏に浮かぶ。


 中央道を抜け、王城前の聖堂が避難所となっていたのか、入口にバリケードが形成されていた。しかし、形成されたバリケードは、今にも数体の魔物が破ろうとしている。

 イデアとアイリは瞬く間に魔物を殲滅するも、バリケードを守っていたであろう王国兵は亡骸となり足元に転がっていた。バリケードの向こう側を確認するも結果は同じであり、そこには血だまりが広がっているだけであった。


 二人に絶望の空気が押寄せた。もう生存者はいないのだろうか。そう諦めかけたとき、何も動くものが無くなった聖堂から、風に乗って微かに息遣いが聞こえた。恐る恐る音の先を伝い、教壇の裏を確認すると、そこには涙を流しながら小刻みに震える少女が身を隠していた。


「ひっ・・・!」

「大丈夫。アルセリア騎士団副団長のイデアだ。助けに来たよ。」


 少女はイデアとアイリの顔を確認すると安著の表情を浮かべた後、気を失った。


「・・・よかった。」


 もう生存者はいないと思っていた。誰も助けられなかったと。たとえ一人でもいい、生きていてくれたことがイデアにとって心の支えとなった。


「まだ生存者がいるかもしれない。急ごう。」

「団長とカームが時間を稼いでくれている間に、一人でも多く助けましょう!」


 少女を担ぎ、再び街に繰り出す。聖堂より進むと王城の入口が開いているようであった。おそらく、王族専用避難経路を開放しているのだろう。

 王城の入口は魔物が群れており、数名の王国兵が魔物の侵入を阻むように抵抗していた。が、すでに限界を迎えようとしていた。


 イデアは即座に地面を蹴り、魔物の群れを一蹴する。


「無事か?よく堪えたな。」


 危機を逃れた王国兵はイデアの顔を見て安堵の息をつく。


「イデア様!助けていただきありがとうございます。」

「そんなことはいい。状況は?」

「良くないですね。民の避難はほぼ完了しておりますが、王国はもう・・・」


 王国兵はその先を言わなかった。誰の目にも明らかであった。アルセリア王国は滅亡に向かっている、と。それでも多くの民が避難できた事実はイデアにとって大きかった。


「そうか。よく踏ん張ってくれた。ここは俺たちに任せて君たちも避難するといい。それとこの子を頼む。」

「ハッ!御武運を!」


 脇に担いでいた少女を王国兵に任せ、振り返る。なんとしてでも、民が安全に脱出できる時間を稼ぐ必要があった。


「アイリ、君も避難したらどうだ?」

「嫌ですよ。私にも恰好つけさせてください。」

「あはは、そうか。じゃあ、援護はよろしく頼む。」

「お任せを!」


 イデアとアイリはそれぞれの武器を掲げ、襲い来る魔物をひたすらに屠った。


 あれからどのくらい経ったのであろうか。実際の時間はそこまで長くないのかもしれない。ただ、イデアとアイリは途方もないほど長い間、ひたすらに魔物を屠り続けているような、そんな錯覚に陥っていた。


 気づけば城門は決壊しており、魔物の数はみるみる増し、街を覆い尽くしていく。その事実はローランとカームの敗北を示しており、自分もそのあとを追うことになると悟るには十分であった。


「皆は無事に避難できたのだろうか。」


 イデアは大きな怪我こそないが、アルス霊峰から戦い詰めであり、体力の限界が近かった。

 アイリは既に魔力のほとんどを使っており、魔力欠乏症を引き起こしている。ポーションは携帯していた完全ポーション2瓶のみであり、それもすべて使い尽くした。騎士団の備蓄はカームが全て持ち出していたため、アイリは撤退する他なかった。


 もう十分だろうか。そろそろ楽になろうか。そんな誘惑が脳裏に過ぎる。その時、目の前の光景に違和感を覚えた。


 ――なぜ魔物は西門から攻めてきているのか。

 ――なぜ魔物は一直線に王国を目指しているのか。


 まるで何かの意図が働いているように感じた。思えば偶然が重なりすぎている。炎龍祭当日という各国重鎮が集まる日に炎龍が倒されたこと、炎龍が倒れてすぐに魔物が暴走したこと、西門からの襲撃、そしてあの勇者・・・。


 偶然とは思えない事象の重なりを紐解くうちに、イデアは一つの結論へたどり着く。


「帝国か・・・!」


 今やレミリア大陸の半分を征服する帝国。炎龍の庇護下におかれたアルセリア王国によってその侵攻は10年以上も足踏みをしていた。それが今回この事件を巻き起こした首謀者ではないのか。


 イデアの胸の中にドロドロとどす黒い感情が生まれた。炎龍が倒された時にも微かに感じた黒い感情が更に色濃くなり、渦を巻いていく。


「・・・復讐してやる。絶対にッ!」


 怒りに満ちたイデアの叫びは王国内に虚しく響き、魔物の唸り声でかき消されていく。


「それなら、今は生きましょう・・・!」


 誰もいなくなったはずの背後から呼びかける。イデアが振り向くと足をフラつかせながら涙を流すアイリがいた。


「生きて、生きて、取り返しましょう!私たちの居場所を・・・!死んでいった仲間のためにも・・・!」


 嗚咽を漏らしながら、アイリは悲願にも似た声を出した。


「副団長まで死ぬのは嫌です・・・私を一人にしないでください・・・」


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