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亡国のイデア  作者: おこめ
第一章
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騎士と炎龍

「これは・・・。」


 戦場と化したアルセリア王国を前に、イデアは怯んだ。既に城壁を破り多くの魔物が侵入し、王国民を襲っていた。悲鳴が上がり、肉の裂ける音とともに悲鳴が収まる。遅かったのか・・・そんな絶望が過った。


 だが多くの魔物が城門を前に、城内に入ろうとせず、ただ一人に憎悪を向けていた。そこに立っていたのはアルセリア騎士団団長ローランであった。


 ローランは自身を魔法で強化するとともに、全身にオーラを身にまとい、怒声をあげる。もはや龍の咆哮にも劣らぬ威力を持った怒声に、弱い魔物は攻めることを躊躇い、そうでないものは決して無視できない驚異に釘付けになる。襲い掛かる魔物を騎士剣で一閃し、怯んだ魔物へ魔術を打ち込む。はたして何時間、この城門を守り続けていたのだろうか。ローランは既に満身創痍であり、左腕を失っていた。


「真なる炎、原初の核よ。溶け、混ざり、増幅する。今、その理を示せ!―インプロージョン・フレア!」


 ―インプロージョン・フレア

 火魔法上級一位の大規模殲滅魔法。術者から放物線上に放たれた火球は着弾とともに大爆発を起こし、半径50mほどを焼き尽くす。また、爆風を至近距離で浴びたものは皮膚が溶け、死に至る場合もある。


 城門の上より放たれた魔術は、魔物の尻込みしている魔物の群へ着弾し、大爆発を上げる。爆風とともに着弾点から近い魔物が吹き飛ばされ、酷い火傷を負っていた。焼けた皮膚から酷い悪臭を発しながら、出来上がったクレーターを再び魔物が覆い隠した。


「遅かったな。」


 城門の上からアイリのライバルの声がした。


「カーム!」


 城門を見上げるとそこにはアルセリア騎士団主席魔術師のカームが立っていた。


 強大な魔術を行使したことにより魔力欠乏症を引き起こし、肩で息をするカームはいつ倒れてもおかしくはなかった。ポーチから魔力回復薬を取り出すと一気に飲み干す。僅かに回復した魔力だが、本来の回復量には程遠かった。


 魔法・魔術は術者の魔力を消費して行使される。魔力が一定以下になると魔力欠乏症に陥り、魔法の精度・威力が激減し、術者本人も眩暈や吐き気といった症状に見舞われる。その状態を回復するのが魔力回復薬、通称ポーションである。


 ポーションは即効性があり、一度の飲用により魔力を全回復させる完全ポーションと呼ばれるものもある。先ほどカームが飲用したものが完全ポーションであったが、連続した飲用により体内で飽和状態となり、効果が低減している。


 この状態が俗にいうポーション中毒である。ポーション中毒に陥ると、ポーションの効き目が薄れるが、魔力の限界を超えて魔法を行使できるようになる。ただし、その時消費されるのは術者の魔力でなく生命力である。


 文字通りカームは命を削って魔術を行使していた。


「これ以上は死んじゃうよ!」


 アイリが制止しようとするが、カームは意に介さない。次々と強力な魔法を詠唱し、魔物に向けて放つ。心配をするアイリを横目に、カームはニヤリと笑った。


「アイリとの勝負は俺の勝ち越しで終わりだなァ!…ここは俺と団長で抑える。民を避難させて撤退してくれ。」

「そんな!私も戦うよ!」


 短杖を掲げ前に出ようとするアイリをイデアが制止する。


「副団長!なんで?!」

「…民の安全確保が優先だ。」

「私たちが戦えば避難する時間が稼げます!」

「すでに城壁内に魔物が侵入している。お前は中の魔物を倒しながら民を避難させるんだ。」


 城門の中から絶えず悲鳴が聞こえている。確認こそできないが、城内も間違いなく対応できていなかった。今にも泣きだしそうなアイリの肩に手を置き笑いかけた。


「頼んだぞ。」


 剣を抜き、援護に向かおうとした時、ローランが叫んだ。


「お前も撤退しろ!!」


 思わぬ台詞に足が止まるイデア。


「撤退だ!中はウィザードだけでは手に負えん!アイリをみすみす死なせるな!」

「し、しかし!」

「いいかイデア!お前はここで死ぬな!生き延びて、生き延びて、いつの日かアルセリアを取り戻せ!」


 悲鳴にも似た怒声にイデアは困惑する。


 副団長として、一人の友として、ローランの横で戦って散りたかった。しかし、確かに、このまま混乱した城内へアイリ一人援護に向かわせたところで、すぐに魔物に接近され蹂躙されるだろう。生粋の魔術師は一人では戦えないのだ。


 イデアは判断を迫られ、決断する。


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