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亡国のイデア  作者: おこめ
第一章
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騎士と炎龍

「グオォォオオ!」


 伏していた炎龍が意識を取り戻し、咆哮する。瞬間、炎龍の尾が横薙ぎにされた。大きな衝撃とともに炎龍の棲家が揺れ、イデアの視界からガラハッドが消えた。


「ガハ・・・ッ!」


 意識の外から炎龍の尾を叩きつけられたガラハッドは防御態勢を取る事も適わず、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。白銀のタワーシールドはくの字の曲り、壁にめり込んだガラハッドは意識を失っていた。


「くそッ!」


 絶望的。近接戦闘において明らかに自分より上手な騎士を相手に、三対一で優位に立っていたハズであった。しかし練度の高いウィザードが加勢に加わり、均衡したと思われた矢先、再起した炎龍によって勇者パーティのタンク役であるガラハッドが戦闘不能に陥ってしまったのだ。


「勇者様、撤退しましょう。もうブレイブも使えません。しかし、炎龍は致命傷を負っています。あと数刻で息絶えるでしょう。」


 マーリンがアーサーに耳打ちをした。


「・・・退くぞ。」


 アーサーは不服に感じながらも撤退を決断した。素早くガラハッドまで駆け寄り、担ぎ上げる。


「剣神、勝負は預ける。」


 マーリンがアーサーの下に駆け寄り、呪文を唱える。


「させない!」


 アイリが魔術を打ち込み撤退を阻害しようと試みるものの、次の瞬間にはアーサー達の姿はそこに無くなっていた。


「・・・逃げられました。」

「テレポートか。敵もなかなかの手練れだったようだ。」


 ―—空間転移魔法テレポート

 6属性魔法(火・水・風・土・光・闇)に属さない無属性魔法の一つ。

 術者が過去に訪れたことのある場所を一時的に記憶し、大量の魔力と引き換えに瞬間移動する魔法である。テレポートのような上級無属性魔法は適正が全てであり、熟練のウィザードにおいても発動できるものは極僅かであった。


 蛇足ではあるが、生活魔法は下級無属性魔法に含まれる。


 敵の消失と共に炎龍が再度崩れ落ち、床へ倒れ込む。アーサーに割られた腹は未だに出血を続け、もはや止まることはない。


「炎龍様・・・ッ!お気を確かに!」


 イデアが倒れ込んだ炎龍に駆け寄る。炎龍は最後の力を振り絞り、イデアに顔を向ける。


「汝の助力により・・我が魔核・・守り、きれた。・・・礼を・・言う。」

「炎龍様!先に治療を!」

「・・・もう良い。・・・どちらにしろ、間に合わん・・・。」


 息も絶え絶えに、炎龍が続ける。


「あ奴ら、は・・黒龍の鱗を纏っていた・・・。恐らく、他の者も・・狙われる・・だろう・・。その前に・・・。」


 イデアは力強く頷く。


「・・・必ず。」


 イデアの返事に静かに笑い、炎龍は魔力を何もない空間へ集中させる。


「・・・我が友イデア。汝に、我が力、我が希望を託す。・・・汝との時間、楽しかったぞ・・・。」


 そう告げると、炎龍は再び力尽き、目を覚ますことは無くなった。


「炎龍様・・・仇は、必ず・・・!」


 炎龍の亡骸を前に片膝をつき、復讐を誓う。


「・・・これを。」


 炎龍が力尽きる前に魔力を注いだ空間には深紅の魔核が輝いていた。それをアイリが拾い上げ、イデアへ手渡す。


「あぁ・・・。」


 こぶし台ほどの魔核を受け取ったイデアは、強く握り締め、炎龍の亡骸を後にする。


「炎龍様が亡くなった今、庇護下におかれたアルセリアがどうなるか分からない。急いで帰ろう。」


 アルセリア王国は炎龍の庇護の下、魔物の襲撃や帝国の侵攻を退けてきた。それが無くなった今、アルセリアは大きな危機を抱えていることになった。


 山頂付近の炎龍の棲家は洞窟から出ると同時に、アルセリア王国が遠望できる。現在夕刻過ぎ、そろそろ炎龍祭が始まる頃であろうか・・・。


「副団長!あれを!!」


 アイリが声を張り上げ、アルセリア王国の方面を指さす。本来なら和やかに祭りの準備が進められているアルセリア王国から黄色の煙が上がっていた。


「まさか・・・!」


 アルセリア王国は異常時に信号煙を上げることで警報として機能している。信号煙は色識別できるようになっおり、黄色煙は・・・


「魔物の襲撃!」


 王国の西方、陸橋からアルス霊峰にかけて黒い影が覆い尽くしていた。影は波のようにうねり、アルセリア王国に向かっていた。


「アレが全て魔物・・・ですか?」


 おぞましい光景であった。平和で美しい王国が今まさに滅亡の危機に瀕していた。


「アイリ、身体強化の魔法をかけてくれ。」


 アイリは無言で頷き、イデアに身体強化魔法を付与する。魔法を付与されたイデアはアイリを担ぎ、アルセリア王国へ急ぐ。身体強化されたとはいえ、テレポートの魔法が使えないイデア達は馬車で一日以上かかる道程を走り抜けるしかなかった。跳ねるように猛スピードで駆け抜けるイデアは文字通り音を置き去りにし、担がれたアイリは三度意識を失うこととなった。


 イデア達がアルセリア王国付近に到着するころには日は完全に落ち、アルセリア王国は紅蓮の炎と肉の焼けたような悪臭に包まれていた。

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