騎士と炎龍
「戯れ言を!炎龍様はアルセリアの守護獣だ!」
「アルセリア・・・そうか邪教の国の者か。」
勇者は短いやり取りの中で納得し、同時に理解した。話し合いができる相手ではないと。
「マーリン!こいつを鑑定しろ!」
勇者はウィザードの女、マーリンに指示をする。マーリンは小さく頷き短い詠唱を始める。
「彼の者を暴け!ステイタス!」
イデアが聞いたことのない魔法を唱えると、身体の奥底を擽られたような感覚が襲いかかる。それとも同時にマーリンが声をあげた。
「・・・ッ!勇者様ッ!信じ難いことですが、魔力以外の能力において勇者様より上です!!」
勇者は大きく目を見開き、驚愕するが直ぐに平静を取り戻す。
「なるほど。貴様が噂に名高い剣神か・・・ッ!」
勇者は瞬時に距離をとった。叩き伏せられた大男もゆっくりとその身を起こし、戦闘に復帰する。
「三人でかかれば、勝てます。」
マーリンが短杖を掲げ、強力な魔法の詠唱をはじめる。それを勇者と大男が守る。敵ながら見事な連携を前に、イデアは攻めあぐねていた。
勇者と大男の連携は見事であった。初撃をタワーシールドで受け止め、勇者が側面から切り込む。イデアが回避すると、大男の持つシールドが目前まで迫り、スタンを狙ってくる。イデアはシールドを踏み台に蹴りあがり後退する。これの繰り返しであった。
二対一の状況では拮抗していても、勇者の後で強力な魔術を展開しているマーリンがおり、イデアは明らかな劣性に陥っていた。
「ガラハット!マーリンの詠唱が終わるまで耐えるぞ!」
「言われるまでもなく。アーサー様こそ気を抜かぬように。」
もはや数秒の猶予もなく魔術が完成する目前、イデアの背後から大きく魔力が膨れ上がった。
「我が敵を焼き払え!ファイアボール!!」
火属性下級魔法。しかし下級と呼ぶにはあまりにも強力な火球がマーリンへ襲い掛かる。マーリンは小さく舌打ちをしながら詠唱を中止し、回避行動をとる。だが、直撃は免れない。
「クソッ・・・!ファランクスッ!!!」
ガラハッドがタワーシールドを地面に突き立て、叫ぶ。突き立てられた盾を中心に、巨大な光の壁が形成され、ファイアボールが衝突する。轟音と共に小爆発が発生し、ファイアボールと光の壁が消滅した。
「副団長!無事ですか!?」
「アイリか!ナイスタイミングだ。」
勝ちを確信したタイミングでの増援に勇者は舌打ちをし、いら立ちを露わにする。その時、再び轟音が鳴り響き、炎龍の棲家が揺れた。