騎士と炎龍
「な、なに・・・?」
「この咆哮・・・炎龍様・・・!」
イデアはすぐに咆哮の主に気づくと一目散に駆け出す。悪い予感が当たってしまったと。
「ふ、副団長!」
「炎龍様に何かあったのかもしれない!悪いが先にいくぞ!」
振り返らずアイリに指示をとばす。荷物を持たない状態でのイデアなら、炎龍の棲家は目と鼻の先であった。薄暗い洞窟の入り口を抜けると開けた空間が広がった。
「炎龍様!!」
イデアが炎龍の棲家にたどり着くと、そこには腹を貫かれた炎龍と見知らぬ三人の人間がいた。黒銀のスケイルメイルを身に纏った剣士が赤黒い大剣を炎龍の腹から引き抜き、身を翻した。同時に炎龍が力無くその場に崩れ落ち、洞窟全体が揺れる。腹から流れ出る深紅の血飛沫を目の当たりにしたイデアは言い様のない怒りに駆られた。
「貴様らァァアッッッ!!!」
黒銀の鎧の剣士まで瞬時に距離を詰めたイデアは怒り任せに剣を振り抜いた。剣士は間一髪でイデアの剣線に剣を滑り込ませる。
――ギャインッッッ!
直撃は避けたが、勢いを殺しれなかった剣士は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「・・・ッックッ!!」
叩きつけられた剣士は衝撃により小さな息を漏らす。
「勇者様!ご無事ですか?!」
ウィザードとおぼしき格好をした女が剣士へ駆け寄る。そんなことは構いもせず、イデアは追撃を行う。勇者と呼ばれた男の目前で剣を振り抜いた。
――ガキィィィン!
剣先が勇者と呼ばれた男の喉元に達すると思われた刹那、タワーシールドを携えた大男が間に割り込み、イデアの剣を受け止めた。
「・・・何のつもりですかな?」
大男はタワーシールドの隙間から、ゆっくりと、落ち着いた、しかし怒りに満ちた声で尋ねた。
「それはこちらの台詞だ!」
タワーシールドへ剣を押し当て、火花が散る。イデアと大男の力は互いに拮抗し、膠着状態となった。イデア更に剣に力を込めて押し切ろうとするが、大男は重心を落とし、更に堅牢な防御の体制にはいる。幾度もの剣戟を見舞うも、すべて大男により防ぎきられてしまった。
「邪魔だ!そこを退けぇ!!」
大男はイデアの剣を幾度となく受けながら、反撃の機を窺っていた。怒りに任せて剣を振るっているイデアの攻撃は、パラディンである大男にとって読みやすく、単調であった。数回に一度、大きく振りかぶり、袈裟切りをする。そこにシールドバッシュを合わせてスタンさせる。それが大男の狙いであった。
イデアが大きく上方に剣を振りかぶる。
(…そこだ!)
「ふんッ!」
狙い通りと大男が大きくできた隙を突き、地面を蹴る。身の丈ほどもあるタワーシールドが、瞬時にイデアの目前までせまり、イデアを弾き飛ばす。
…ハズであった。衝突する刹那、イデアは左足を半歩後退し、距離を取っていた。イデアを弾き飛ばすはずであったタワーシールドは空を切り、渾身の力を込めてはなった大男は体勢を僅かに崩す。
「退いてろ!」
イデアは浅く踏み込み、振り上げていた剣を大男の右肩を目がけて袈裟切りにする。体勢を僅かに崩された大男は間一髪で防御するが、イデアの渾身の一撃を受けきれず地面に叩きつけられる。イデアはわざと大技を何度も織り交ぜ、隙を見せていた。シールドバッシュを誘発するためであった。
大男を叩き伏せた後、瞬時に勇者に詰め寄るが、時間稼ぎは事を為し、黒銀の鎧がゆらりと揺らめき立ち上がる。そのままイデアの剣を大剣で受け止め、鍔迫り合いになる。バチバチと火花が散る中、勇者はイデアに語りかけた。
「なぜ邪魔をする?そいつが邪龍と知っての助太刀か?」