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亡国のイデア  作者: おこめ
第一章
4/35

騎士と炎龍

  明朝、出発の準備を整え馬車に乗り込む。夜営地は供物を献上した後に再度利用するため、設営したままとした。

  アルス霊峰の中腹までは、なだらかな斜面が続く為、馬車で移動できる。

 しかしそれ以降は急勾配と獣道が続き、馬が登れず邪魔になる。そのため、中腹の比較的安全な位置に馬を待機させ、荷台を切り離し、荷車のように押しながら登る必要があった。

  道中、当然ながら魔物が出現した。現れた魔物を冷静に処理し、淡々と進むイデアにアイリは感嘆の声を洩らした。


「さすがです!ところで、このあたりの魔物は見たことないものばかりですが・・・どのくらいのレベルなんでしょうか?」


  アルス霊峰中腹以降は炎龍の棲家ということもあり禁足地となっていた。王国周辺とは違う濃魔素地であるアルス霊峰は独自の生態系を構築していた。


狩人協会(ハンターギルド)の定めた組分け表を参考にすると、()()()()B()()()()()()かな。」


  魔物はその危険性によってAからFまでランク付けされる。狩人協会は必要に応じて狩人を派遣し、魔物を討伐する。稀にAランクを大きく凌駕する力を持つ魔物が出現すると、その強力な魔物はハイパーモブと呼称され、暫定的にSランクに位置付けされる。

  現在レミリア大陸にて確認されているハイパーモブは4体。四皇獣である。


「Bランクって・・・それを一瞬で始末する副団長って・・・」


  Bランク相当の魔物を討伐しようとする場合、平均的な兵士が一個小隊を編成しなければならない程度である。

  淡々と魔物を屠るイデアを前に、魔物とどちらが化け物か分からないな・・・と呟くアイリだった。


  アルス霊峰八合目・・・特に危険が伴う場所である。足場の悪さや勾配のキツさもさることながら、それ以上に魔物が一層多くなることが一番の原因であった。

 アルス霊峰のような山林の濃魔素地では空気が薄くなる事に比例し魔素も濃くなってゆく。また、炎龍から溢れだす魔力の恩恵に与るため、魔物は山頂を目指すように登っていく。しかし、山頂付近は炎龍のテリトリーのため、炎龍を刺激せず、且つ最大限に恩恵を得られる八合目に棲み着くのだ。


  イデアたちは正に八合目を抜けようとしていた。熾烈な魔物の波状攻撃を避わし、尚も上へ上へと登っていく。我関せずと、観戦を決め込んでいたアイリもいつの間にか立ち上がり、参戦していた。


  アイリが魔導書を開き、目を見開く。アイリを中心に空気が渦を巻く。


「唸れ太雷、裁きの光、地に穿ちて悪しき者を討ち滅ぼさん!いでよ神の雷ッ!ージャッジメントッ!!!」


  薄雲りであった空が瞬時に明転し、轟音と共に魔物の群れへ雷が降り注いだ。落雷が直撃した魔物は一瞬にして影と化し、辛うじて直撃を逃れた魔物も四肢の何れかを欠損するほどの重症を負った。


――ジャッジメント

光魔法上級第二位の中範囲魔法である。瞬時に敵を焼き焦がす火力と、発動後の即効性、そして必中と言っても過言でない到達速度が特徴の魔法だ。


  アイリが得意とする光魔法の中でも、最も好んで使うが、元来、アイリのような若者が扱える魔法ではい。熟練のウィザードが何年も鍛練し切り札として習得する高難度魔法である。それを単騎で発動させるアイリもまた天才であった。

  そんなアイリを横目に、イデアはある違和感を覚える。


「おかしい。魔物の数が多すぎる。」

「やっぱり・・・流石に多すぎますよね・・・!」


  肩で息を切らしながらアイリは納得する。毎年、氷系のウィザードが同席してるとはいえ、ほぼソロで登っているはずのイデアの対応が間に合っていないのだから。


「何か・・・胸騒ぎを感じる。」


  前例のない魔物の大発生や、エンカウントの仕方にも違和感を感じていた。まるで下層に向かっているような・・・何者かから逃げているような・・・。

  八合目突破を目前に、イデアは処理速度のギアをあげる。


「突っ切る!」


  腰を少し落とし、片手を地面へ付き、前傾姿勢をとる。脚に力を集中させ、つま先が地面を抉った。

  瞬間、破裂音と共に地面を蹴りあげ、破魔弓の如く閃光と化したイデアが魔物の群れを一閃した。イデアが蹴りあげた地面は隆起し、近接戦闘が苦手なアイリはその軌道を追うことすらできなかった。

  その眩い閃光のあとには何一つとして動く影はなかった。


「さあ、急ごう。」


  アイリが目を白黒させているうちに側まで戻ってきたイデアが声をかける。


「あ、はい!」


  荷車を再度持ち上げ、一歩踏み出した瞬間、巨大な咆哮と共に大気が震えた。


「グオォォオォオ!!」


  アルス霊峰全体を震わせるような、凡そこの世のものとは思えない怒りに満ちた咆哮が響き渡った。


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