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亡国のイデア  作者: おこめ
第三章
22/35

コルラ峡谷

「厄介だな。」


 モロに当たれば即死は免れない。それどころか掠りでもしたら大きなダメージを負うことになるだろう。

 熱線を繰り出したリンドヴルムは、背鰭が徐々に赤黒く変化し、煙を上げていた。


「・・・放熱が必要なのか。」


 熱線は、背鰭の集熱機関に熱を収縮させた後、閃光の如く直線状に放出される。放出された熱線は鉄をも容易く溶かし、音よりも早く着弾する。まさに一撃必殺の大技である。

 リンドヴルムの体内で熱を作り出すため、一度熱線を繰り出すと放熱が必要であり、背鰭が完全な黒銀色へ戻るまでクールタイムとなる。


「さて、どうするか。」


 リンドヴルムの速度や膂力、熱線の威力を加味しても、難なく勝てるとイデアは判断している。しかし、それは、時間をかけ、体力をそぎ落とした上でである。

 リンヴルムは縄張り意識が強い魔物であるため、他のリンドヴルムが合流することは稀ではあるが、前例がないわけではなかった。さらに、仮に倒したとして、他のリンドヴルムにどう影響を与えるかが未知数であった。


 イデアにとって第一目標は竜車を逃がすことである。それさえ達成してしまえば、リンドヴルムと交戦するメリットは薄い。

 それらを加味した結果、イデアは時間稼ぎに徹することを判断した。


「時間を稼ぎつつ、折を見て撤退だな。」


 しかし、縄張りに不用意に入り込んだ侵入者を易々と逃がすリンドヴルムではなく、唸り声をあげ威嚇する。同時に尻尾を大きく振り上げ、イデアに叩きつける。

 イデアの右頭上から迫った巨大な尻尾に対し、剣身を左手で支え、力を逸らすように受流す。


――ズドンッ


 受け流された尻尾は地面に叩きつけられ、大きな土煙を上げる。リンドヴルムはそのまま体を捻るように尻尾を横薙ぎに振りぬく。対してイデアは剣を下げ、半身を引くと鼻先を尻尾が掠めて空を切っていった。

 尻尾を空振りさせてできた隙に空かさず懐へ潜り込み、後ろ足に一閃する。


――キィィィイン


 金属と金属が衝突するような高い音が響き、リンドヴルムの堅殻に亀裂が走る。


「っ!硬い・・・!」


 リンドヴルムの鱗はイデアの予想より硬く、オリハルコン製の騎士剣でさえ小さな傷を作るのみであった。

 竜種にダメージを与える場合、本来であれば鱗の密度や厚みの薄い腹や首を狙うのがセオリーである。だが、並みの人間では竜種の懐に潜り込む前に致命傷を負う場合が多い。

 しかし、イデアの狙いは竜種にダメージを与えることではなく、この場に拘束し、時間を稼ぐことである。つまり、敵視さえ稼げられれば問題はないのだ。


「あと少し時間を稼げば十分だろう。」


 常人が命がけで行う時間稼ぎも、イデアにとってはただの作業であった。幾度か同じ個所に打ち込み、堅殻が剥がれ落ちる頃、業を煮やしたリンドヴルムが空に向かって咆哮した。


「熱線ッ!」


 サッと距離を取り、熱線に備える。リンドヴルムの背鰭はすでに黒銀色に戻っており、それがみるみる赤く染まっていく。

 固く閉じた顎から蒸気が溢れ出したとき、リンドヴルムの更に後方から、大きな咆哮が響き渡った。



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