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亡国のイデア  作者: おこめ
第三章
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コルラ峡谷

「しまった・・・。これは考えてなかったな。」

「ですねえ。どうしましょう・・・?」


 就寝直前となり、二人は頭を抱え悩んでいた。


「いっその事、一緒に寝ますか?」


 荷台を宿代わりにする予定だった二人だったが、ここで初めて同じ空間で就寝するというイレギュラーを認識する。野営用にテントを買ってあるが、もう外は常闇に包まれており、今からの設営は難しいだろう。


「それは・・・いろいろマズくないか?」

「でも、警戒は地竜がしてくれてますし・・・。」


 騎士団の野営は、基本的に男女関係なく一人につき一つのテントを張り夜を過ごす。これは万が一の間違い防止もあるが、それ以上に敵襲時に火を放たれた場合に備えてであった。

 だが、今回は地竜が警戒しているということもあり、ほぼ心配はいらないと言えた。

 

「私と一緒だと嫌ですか?」

「そういうわけでは・・・ないんだが・・・。」

「じゃあいいじゃないですか!私は気にしませんから!」


 同じ空間で就寝することに少し戸惑っていたイデアであったが、アイリの強い押しになし崩し的に同意し、荷台の中に寝袋を広げる。

 イデアのすぐ横にアイリが寝袋を広げ、横になる。寝袋の中から顔だけ出し、ニコニコしながらイデアを見つめる。


「じゃあ、おやすみなさい。」

「あ、あぁ、おやすみ。」


 そんなアイリを見ないようにしてイデアも寝袋に滑り込み、ランタンの明かりを消す。意識してしまい寝付けないかと思っていたイデアであったが、連日の疲れからか、思っていたよりも早く眠りへ落ちた。


「イデアさん。起きてますか?」


 そんなことも露知らず、アイリは寝付けずにいた。自分が予想していたより意識してしまい、胸の高鳴りが止まらないのだ。


「あれ?寝てるんですか??」

「・・・スゥー・・・。」


 横で眠るイデアをみて、アイリは少しムッとする。もう少し意識してくれてもいいのにと。

 無論、イデアも意識していない訳ではないが、それ以上に疲れていたことをアイリが知る由もなく、小さくため息を吐く。

 

「まぁ、いいか。旅は長いんだし。」


 ぽつんと独り言を言い、イデアの顔を見つめる。

 

「私が守りますからね。」


 小さく誓いを立て、アイリもまた深い眠りへと落ちるのであった。



 「おはようございます・・・。」


 重たい瞼を擦りながらアイリが荷台から降りてくる。周囲の警戒を地竜に任せられるため、よく眠れたようだ。


「おはよう。朝食できてるぞ。」


 イデアはアイリが起きる少し前に目が覚め、地竜に餌を与え、その後簡単な朝食を作っていた。朝食はパンに干し肉と葉野菜を挟み、上からトマトペースト、香辛料、薬味、酢などを混ぜたソースをかけたサンドと昨日の残り物で作ったスープだ。


「わぁ、朝からおいしそう・・・。」


 じゅるりと涎を啜り、アイリが焚火の前に座り、食事を始める。


「今日はできるだけ進もう。」

「ですね。もう少しでリンドヴルムの縄張りですし、今日中に抜けておきたいですね。」

「あぁ、縄張りの中で野営をすることは避けたい。」


 リーンの東に広がる平原の支配者とも言えるリンドヴルムは現在までに三頭が確認されており、それぞれが平原中央付近を縄張としている。

 圧倒的な破壊力と縄張り意識の高さからリンドヴルムの縄張り内に侵入することは商人の間で自殺行為と言われ、迂回を選択する者が多い。

 また、イデアたちの竜車を牽引している地竜の上位種とも言われ、地竜の警戒はあまり頼りにはならないとされている。


「もし戦闘になった場合どうしますか?」

「そうだな。リンドヴルムの危険度はAだ。一体なら勝てるだろうが、合流されると厳しい。穏便に処理できないと判断した場合は縄張り外まで逃げよう。」

「わかりました。」

「無論、戦闘がないほうがいい。」


 簡単な打ち合わせをしながら、野営道具を荷台に積み込み竜車を走らせる。表情には分からないが心なしか地竜も緊張しているようであった。


 街道を逸れ、直線に最短距離を走る。リンドヴルムの縄張り内に侵入したとき、空気が冷え込んだような感覚を覚えた。


「あれが、リンドヴルム・・・」


アイリが見つめる先、竜車からかなり離れた場所にリンドヴルムはいた。

褐色の鱗に強靭な四つ足、首から背にかけて刃のような背鰭が立っていた。また、一番特徴的であるのは、その退化した両翼だ。


「かなり距離がある。気づかれないうちに抜けよう。」

「ですね。もう少しでやり過ごせそうです。」


アイリが安堵の表情を見せ腰を下ろしたたとき、竜車のバネが軋む音がした。

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