クローク連合国
翌朝、イデアとアイリは旅の準備を始めた。
極東の島国ヤポーニアへは、陸路を半月ほど東へ進み、港町ヴァニスから交易船に乗るしかない。ざっと計算しても二十日間の旅程となるだろう。その間、通りかかる国や街に補給と休憩を兼ね、立ち寄る予定ではあるが、レミリア大陸東部に悠然と広がる峡谷を横断することが最大のネックであった。
「さて、そろそろ馬車の準備ができた頃だろうか。」
「そうですね。少し長い旅になりますが、頑張りましょう。」
それぞれ別の雑品を買い揃えていた二人は合流し、都市部の入口まで移動する
入口近くには見知った顔の男が立っており、イデアを見て一礼する。
「イデア殿。お待ちしておりました。」
「まさかメロウ殿直々にとは・・・。」
「下の者は昨日より大変忙しくなりましたので、一番暇だったのが私なのですよ。」
嫌味にもとれる発言の後、後方を指し示す。
「あちらがお二人にお使いいただく馬車になります。」
メロウの後方に目を向けると二人で使うには大きな荷車ろそれに繋がれた小ぶりな地竜がいた。
「まさか・・・竜車か!?」
「左様です。お二人には国益がかかってます故、このくらいはサービスいたします。」
馬車と竜車は移動速度に大きな差はない。だが竜車は悪路に強く、非常にタフネスである。本来馬車で通れない悪路も力任せに進めるため、結果として移動期間に大きな差が生まれる。
しかし反面、竜車は馬車と比べ高額であった。1台の竜車を購入するために通常の馬車を30台は準備できると言われている。さらに、力任せに牽引されるため、引かれる荷車の質も重要になってくる。
通常の馬車での渓谷越えは大きく迂回して進むため、大きく時間がかかってしまう。しかしこの竜車であれば、渓谷を突っ切りかなりの時間を短縮できるだろう。
「ありがとうございます。必ずお返し致します。」
「いえ、必要ありませんよ。私どもからの餞別です。それでは良き旅を。」
メロウは胡散臭い笑顔を浮かべ、街中へ消えていった。
二人はメロウを見送ると、荷物を積み込み、旅路へ着くのであった。




