クローク連合国
「えぇぇええーっ!あの秘境に行ったことあったんですか!?」
アイリが驚愕の表情を浮かべイデアへ食いつく。
ヤポーニアはレミリア大陸より遥か東方に位置する小さな島国である。ヤポーニアより東は人類未踏とされており、広大な海の先には世界の終わりが広がっているとされている。更にヤポーニアは閉鎖的な民族と云われ、あまり他国と交流を持たないことで有名であった。
それ故、ヤポーニアは一般的に秘境と呼ばれていた。
「あぁ、幼い頃にあそこに住んでいたんだ。」
イデアにはヤポーニアで生活する以前の記憶がなかった。いや、正確にはヤポーニアにて物心を得たと言うのが正確だろうか。どうしてヤポーニアにいたのかも分からず、気づけばそこで生活をしていた。
閉鎖的といわれるヤポーニアの民であったが、髪の色や瞳の色が明らかに違うイデアを受け入れ、育ててくれた。それがイデアの師であった。
そんな生い立ちをアイリに話した。
「そのお師匠様ってどんな方なんですか?苦手なんですよね?」
「・・・。」
「怖い方なんですか?ねぇねぇ。」
「・・・。」
普段選り好みをしないイデアが明らかな拒否反応を示すのは珍しかった。それがアイリのツボに入り、悪戯心を刺激した。イデアは執拗に抉られる古傷を無言を貫くことでしか守れなかった。
「・・・とにかく、師を保証人として仰いで、狩人協会でハンター登録しよう。」
アイリの執拗な攻撃を強引に終わらせ、本筋へ戻る。
少し不満そうな表情を浮かべながらも、アイリも頷き、同意した。
「早いうちに出発したい。移動方法はマリウス将軍経由でメロウ殿に依頼しよう。多少は融通してくれるはずだ。」
「わかりました。私は明日、市場にて必要備品を揃えます。」
「そうだな。あと、最後にもう一つ。アイリ、副団長と呼ぶのを止めてくれ。」
「えっ・・・何故ですか?」
「現状、騎士団は裏切り者だ。それは民に知られているかは分からない。ただ、噂が広まっていた場合、無益な争いを生む可能性がある。」
噂が回るのは早い。それはまるで流行り病のように人々に伝染し、心を支配する。万が一、街中で騎士団と判明すれば争いは避けられないのは明白であった。
「・・・分かりました。では何とお呼びしましょう・・・?」
アイリがどこかぎこちなく問いかける。その声を聴いてイデアは自分が言ったことを理解した。
「あー、そうだな・・・。普通に名前でいいんじゃないか?」
「えっと・・・イデア・・・さん?」
顔を赤らめながら、アイリは名前を呼んだ。その表情にイデアは悶絶し、顔を背ける。
「なんかその・・・恥ずかしい・・・ですね?」
「そ、そうだな・・・。」
常闇の中、街灯を頼りに都市部へ向かう二人の間には甘酸っぱいもどかしい空気が漂っていた。




