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亡国のイデア  作者: おこめ
第二章
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クローク連合国

 アルセリア王国の滅亡から一夜明け、イデア達は商業国リーンへ向かっていた。リーンの辺境にたどり着いたころ、アルセリア王国方面へ向かう兵士の一団とすれ違う。


「止まれ。こんなところで何をやっている?」


 兵士の一人がイデアたちに牽制をする。今のイデア達はアルセリア騎士団の正装をしていないため、一見するとボロボロの冒険者であった。


「アルセリア王国から落ち延びてきた。リーンの都市部へいきたい。」

「そうか災難だったな。我々は国境付近に防衛線を張る。リーン領内まで魔物が押寄せることは無いとは思うが、安全のためにな。」

「・・・ところで少し前に王国兵が護衛する一団が通らなかったか?」

「あぁ、今朝方すれ違ったな。彼らも都市部へ助けを求めに向かうと言っていた。しかし、都市部は今、アルセリアからの避難民受入で混乱しているぞ。」

「そうか、ありがとう。」


 短い会話を終え、兵士たちは国境へ向かった。


「避難した方たち、無事みたいで良かったですね。」

「そうだな。今朝方すれ違ったということは、今頃は都市部にたどり着いているだろう。」


 イデアが予想したとおり、避難民のほとんどはリーンを目指したようであった。しかし小国とはいえ数万を超える民が一斉にリーンへ押しかけるとなると、混乱を極めるだろう。


「少し急ごう。我々が少しでも混乱を抑えなければ。」

「そうですね!」


 アイリは秘かにイデアを案じていた。復讐に囚われ、身を焦がしてしまうのではないか、と。しかし、先ほどの兵士とすれ違ってからイデアの雰囲気が少し明るくなったのを感じた。

 アイリは小さく笑い、離れていく背中に追いつき隣に並ぶ。


「リーンについたらまずアルセリアの王城関係者を探そう。国王様の安否も気になる。」

「騎士団のみんなは無事でしょうか?」

「どうかな。生き残りはほとんど居ないかもしれないな。」


 団長をはじめとする騎士団の多くは城門と王城の死守によって命を落としていた。そして、200名で構成される騎士団のうち100名以上の亡骸を見た。

 そんな中、イデアとアイリが生き残れたことは不幸中の幸いであったと言えよう。


 平原を進むこと約2時間、地平線の先に商業国リーンが見えてきた。


「やっと見えましたね。」


 安堵感と共に、張りつめていた気が緩み、ドッと疲れが増す。しかし、都市部を前に安堵するのは早計であったと思い知らされた。


 リーン都市部の門前には、開聞を悲嘆する避難民であふれていたのであった。


 先ほどの兵士に聞いた通り、リーンの都市部への入口は大混乱を極めていた。

 突然祖国を追われ、命からがら逃げだし、丸二日間歩き続けたアルセリア王国の民たちは心身ともに憔悴しきっており、ただ門が開くことを願うほかなかった。避難民の中には怪我人や衛兵に掴み掛り中へ入れろと喚くものもいたが門は一向に開く気配はない。


 イデアは現状を把握すべくあたりを見回していると不意に背後から声がかかる。


「失礼。イデア副団長とお見受けする。」


 聞いたことのある低い声であった。振り返るとそこに立っていたのはアルセリア王国軍の将軍マリウスであった。


「マリウス将軍閣下。御無事で何よりです。」

「謝辞はいい。それよりも王国は?」

「・・・残念ながら。」

「・・・そうか。」

「失礼ながら、国王様はご健在でしょうか。」

「あぁ、今あちらで避難民受入の交渉を自らなさっておる。」


 マリウスが示す先には衛兵に守られた簡易なテントが建てられていた。


「イデア副団長。良ければ貴公も国王様と共に交渉の場についてはくれんか。王国の顛末も説明する必要がある。」


 マリウスからの提案にイデアは二つ返事で了承する。現状を打破し、避難民の支援・受入を獲得するために協力を惜しんでいる場合ではないのだ。


 イデアとて政治に疎い訳ではない。現状、避難民が門前にてあふれているのには理由があった。

 アルセリア王国や商業国リーンなど五つの小国を中心として組まれている対帝国軍事経済連合 通称クローク連合国。それぞれ軍事的あるいは商業的に協力関係を結び、有事の際に支援しあう仕組みとなっている。だが、飽くまでそれは、国家間の支援であり、滅亡した国への支援は想定されていない。国として、もはや成り立っていない大量のアルセリア避難民を受け入れるメリットがないのである。


 この苦しい状況でどう支援を獲得するか。非常に難しい交渉になることが予想された。


「アルセリア王国騎士団副団長イデア並びに次席魔術師アイリ入ります。」

「許可する。入れ。」

「ハッ!」


 固苦しい入室確認を終え、天幕を潜るとアルセリア国王とリーンの外交官が話を中断し、イデアを迎え入れる。イデアは片膝を着き、頭を垂れる。


「よくぞ戻った。騎士イデアよ。」

「ハッ!国王様においてはご健在のご様子。何よりで御座います。」

「堅苦しい挨拶はよせ。それよりもこちらに挨拶を。」


 頭をあげ、立ち上がるとイデアの目前までリーンの外交官が移動し、手を差し伸べられる。


「商業国リーンの外交官を務めますメロウです。どうぞお見知りおきを。」

「アルセリア王国騎士団副団長イデアです。こちらは次席魔道師のアイリです。よろしくお願いいたします。」


 イデアはメロウの手を取り、交渉の場へついた。

蛇足:

クローク連合はそれぞれ五か国の頭文字を取っています。


C クレイドラッヘ(クレイドラッヘ公国)(コンドラムール王国属国)

L リーン(商業国リーン独立国家)

O オーグル(オーグル首長国)

A アルセリア(アルセリア王国)

K コンドラムール(コンドラムール王国)

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