騎士と炎龍
それからすぐにイデアとアイリは王国から脱出した。王城内の脱出用通路を抜け、振り返らず東へ東へと走った。かなりの距離を走り、隣国の領地へ逃延びたあたりで後ろを振り返る。
王国であった場所は黒い煙を上げ、見る影もなくなっていた。今迄自分が守ってきたものを一気に失ったような喪失感がイデアを襲うが、アイリの顔が横目に入り持ちこたえる。
「いこうか。」
「どこへ向かいますか?」
「とりあえず東方の商業国リーンへ。逃延びた者たちがいるかもしれない。」
アルセリア王国の東に位置する商業国リーン。南東に位置する公国クレイドラッヘ。もし避難民が向かうとしたら距離から考えるとこの二国に絞られる。
そしてクレイドラッヘは移民受け入れに厳しい国であった。そのため、商業国として移民受け入れに比較的寛容なリーンを避難民たちは目指すだろうと考えたのだ。
「そうですね、道中大丈夫でしょうか。」
「おそらく大丈夫だろう。ここの平原に強い魔物はいない。それに王国兵も何名かついていたハズだ。」
城を最後まで守っていた王国兵たち、彼らがついていれば心配いらないだろう。リーンまでは一般的な成人が丸二日ほど歩き続ければたどり着ける程度の距離だ。
滅亡する王国を眺めながら、イデアは騎士団の鎧を脱ぎ、近くの小高い丘へ置いた。鎧の前に手のひらほどの小石を積み、手を合わせる。アイリも騎士団用のローブを脱ぎ、鎧へ掛け、手を合わせた。
アルセリア騎士団に伝わる殉職した騎士への弔い方法だ。本来であれば、殉職した騎士が着用していた鎧やローブを墓標とするのだが、現状ではこれが手一杯であった。
数刻の静寂の後、イデアは立ち上がり、王国を背に再び歩を進めた。いつの日にか、王国を滅ぼした者へ復讐し、王国を取り戻すことを胸に誓って。
ここまでで第一章完になります。
お読みいただきありがとうございます。




