三百十七話 決断3
「な、何言ってんだ? タチアナ。」
俺はタチアナの言葉の意味がまるで
理解できなかった。
「君しかいない...... 今私を
殺せるのは! 隼人しかいないんだ!
だから──」
「落ち着け、タチアナ。
大丈夫か? 今自分の言ってることが
わかってるのか?」
俺はタチアナが恐怖で狼狽してしまって
いるのかと思ったが、タチアナは真剣な
目で俺を見てくる。
「聞いてくれ! 隼人。魔王を倒すには
私を殺すしか他に方法がないのだ!」
「......は? どういう──」
「なぜなら私が......」
その時だった。
「なっ!?」
タチアナは突如として自身のナイフで
俺に斬りかかってきた。
流石の俺も予想だにしなかった
ことで危うく斬られるところだったが、
何とか服が少し破ける程度に済んだ。
俺は明らかに様子のおかしいタチアナ
から少し距離を取る。
「お、おい。タチアナ。一体何の
冗談だ。」
「......かわされたか。」
俺はそのタチアナの一言で今目の前に
いるのがタチアナではないことを
察した。
「誰だ、お前。」
俺の問いかけに反応することなく
タチアナの皮を被ったそれは、
再び俺に攻撃を仕掛けてきた。
誰かに操られてるのか?
だとしたら、下手に怪我を負わせる
こともできない。
俺は抵抗せずに、ただタチアナの攻撃を
かわし続ける。
「おい! タチアナ! 」
俺がそう叫んだ瞬間、再び
タチアナの様子が急変した。
タチアナは頭を抱えて
苦しんでいる。
「......っ!? やはり、まだ完全には
支配できぬか......」
すると、いつの間にか倒れていた
魔王がそんなことを言いながら
立ち上がった。
「......隼人......早く私を殺せ......
私が──」
「させるものか......!」
何かを俺に伝えようとした
タチアナに魔王は急接近しようとする。
俺はその魔王の必死さに、もしかして
タチアナが魔王の秘密を知っている
のかと思い、俺は先回りして迫ってくる
魔王を向こう側まで蹴り飛ばした。
タチアナは魔王が向こう側の壁に
激突したのを確認すると、俺の手を
強く掴んでこう言った。
「隼人。 私を殺せば魔王は死ぬ。
なぜなら、私が魔王なのだから。」
その告白に俺の頭は真っ白になった。
一体タチアナはさっきから何を
言ってるんだ?
私を殺せ?
私が魔王?
魔王なら今俺が蹴り飛ばしたじゃないか。
だが、タチアナはそんな俺に
続けて言った。
「私は人間でも魔族でもない。
私は人間の体に魔王の心臓を
移植されて生まれたキメラだったのだ!
だから、私の心臓を破壊すれば、
あの魔王も消滅する!」
「......こんな時に冗談は止めろよ。」
「本当なのだ! 信じてくれ、隼人!
私を殺せるのはもう君しか──」
「そんなはずあるかよ! 何かの
間違いだ。それに一体それを誰に
聞いたんだ?」
「魔王本人からだ。」
「ほら......きっと騙されて──」
「隼人も見ただろう!! 先ほどの
私の行動を! 意識は無かったが、
おそらく私は君に攻撃していたので
はないか!?」
「だ、だからって......そんなこと......」
あり得ない......
何て言葉を俺は今まで何度口に
してきた?
あっただろう? 今まで散々。
信じられないこと、あるはずないと
思っていたことが現実に起こった
ことなんて。
そもそも異世界なんてあり得ないこと
だらけだ。
今、目の前にあることから目をそらし
続けて一体俺は何度失敗してきたんだよ。
じゃあ、もしもタチアナの言っている
ことが正しいとすれば、一体どうなる。
タチアナの体に魔王の心臓があって、
その心臓を破壊すれば、魔王は消滅する。
ということは......今回の異世界を
クリアする条件は魔王を殺すこと。
つまり......タチアナを殺さない限り
俺はこの異世界をクリアできない。




