Folge 26 ……まったく
オレは寝ている。
夢の中は平和だ。
双子の妹が十組いるんだ。
みんなオレに懐いている。
どの子もそれぞれかわいい。
次から次へとキスをされる。
夢だから唇も腫れない。
安心してキスができる。
二十人も妹がいるんだ。
オレからの愛を全員に行き渡らせるのは至難の業。
しかしここは夢の中。
至難の業も朝飯前と化す。
素晴らしい。
なんて素晴らしいんだ。
ん?
なぜだろう。
夢なのによ~く知っている重さを感じる。
夢のはずなのに。
オレは双子だらけの妹たちとまだイチャつきたいんだ。
頼む。
オレはこの世界で一生暮らしても悔いはない。
頼む。
ここに居させてくれ。
頼む。
……頼む。
…………頼む!
夢から目覚めてしまった。
最高の夢だったのに。
と思いきや、目の前にはツィスカの顔が間近にある。
間近に。
マジか。
これはしておかないと。
そのままツィスカにキスをした。
夢とは違う。
やっぱりこっちがいい。
もう一回キスをした。
するとツィスカが抱き着いてプレス機のように締め付けてきた。
夢ではこの感覚は味わえない。
うん、これだ。
オレも抱き返す。
ツィスカもさらに力を増す。
負けじとオレも。
それにしても。
ツィスカってこんなに力あったっけ?
いや、なんか、違わね?
締め付けのあまりのキツさで眠気が覚めてきた。
よく見ると……。
「タ……ケ……ル……。き、キツイんだけど」
「兄ちゃん、最初騙されたでしょ。兄が僕たちのこと分からないなんてことがあったらダメだよ」
「ごめん、寝ぼけていたからだ。覚めてきたら気づいただろ? ゆ、許せ」
「騙せた僕はもう満足しているんだけど、ツィスカがもっとやれってブロックサインを出しているから」
「いや、別に相手に分かりにくい合図を出す必要はないだろ」
違う、問題はそこじゃない!
「え~。僕が怒られちゃうんだよね。兄ちゃん、ツィスカに謝って」
「ツィスカ~、愛しているから許してくれ~」
締め付けられたままで謝るからなんとも情けない声だ。
「解いて良しのサインだ。はい。兄ちゃんご苦労様でした」
ほっ。
束縛から解放された。
あれ?
また束縛が。
「兄ちゃん、愛している人には何をするんでしょうか?」
今度はツィスカが抱き着いてきた。
あの~。
オレって確か休んでいたのでは。
まあ、キスはするけど。
「はい、よろしい。もっとする? 遠慮しなくていいのよ?」
「オレさあ、疲れて寝ていたはずなんだけど」
「そうね。じゃあこうしてあげる」
ツィスカは胸の間にオレの頭を抱え込んだ。
いい匂い。
安眠枕……。
即寝られる。
おやすみなさい。
「一人忘れていない?」
あ、安眠枕が遠ざかってゆく。
しかし、次の安眠枕に替わった。
即寝られる。
おやすみなさい。
「寝たらわたしとできないでしょ?」
しっかりとキスされた。
うん、しっかりと。
「それじゃ、後は姉ちゃんたちに任せて僕は部屋にいくよ」
「ありがとね、タケル」
「僕は兄ちゃんにくっついただけだから」
タケルは部屋を出て行った。
あん?
今ちらっと美咲が見えた気がするんだけど。
咲乃の看病でいるんだからおかしくはない。
――けど。
なんだかいつもと雰囲気が違ったような。
自分でも何が気になるのかわからないから、いっか。
◇
「兄ちゃん、美咲さんだよ」
あれ?
あのまま寝てしまったようだ。
休むために横になっていたのだから問題はない。
カルラの抱きしめは、絶妙な力加減だから幸せになる。
美咲?
そっか。
もしかして……。
オレは半身を起こして美咲に聞いてみることにした。
「咲乃は起きたの?」
「ええ、お陰様で。いつも通りに戻りましたよ。ゆっくり起きるように言ってありますが」
「焦ることはないから、ゆっくりしていくといいよ。美咲もご苦労様」
えっと、ベッドを降りられない。
いつも通り妹に挟まれているんだな。
「ベッドを降りてきちんと起きたいんだけど、いいかな?」
二人はそれぞれ起き上がる。
何か一言頼まないと束縛を解除してもらえない妹ロック。
言わないと解除されない素晴らしいロック。
「オレ、咲乃の顔を見に行くよ」
「ぜひ。喜びます」
二人に文句を言われないように、妹たちを連れて咲乃に会いに向かう。
ツィスカのベッドで半身を起こした咲乃が、こちらに気付いた。
「サーちゃん! ボク迷惑かけてばかりでごめんね」
「そんなことないよ。誰だって自分じゃどうにもならないことはあるさ」
咲乃の前で膝をつき、目線を合わせる。
眼も澄んでいて奇麗だなあ。
美咲と同じなのになぜか咲乃の眼は惹かれてしまう。
「そんなにジッと見てどうしたの? 初めてだよね、そんなに見てくれるの」
「ごめん、随分顔色も良くなっているし、安心したんだ」
「謝ることないよ。ボクはサーちゃんに見てもらいたかったからうれしい」
そこまで言ってもらうようなことをしたつもりはないのに。
言葉で説明できるものじゃないっていうやつなのかな。
家族以外の女性から好意的に接してもらえると、なんだか戸惑うな。
「今日一日でこれだけのダメージを受けるなら、学校へ連れて行くのを躊躇うんだけど」
「ううん、それは大丈夫……までは言えないけど、慣れないと、ね」
「気持ちは凄くわかるんだよ、でもなあ」
「サーちゃんがいてくれれば頑張れるの! お願いそれだけは、させて」
「医者からその辺の話はないの? 無理にするとまずいよ、とかさ」
「薬を出されるだけだし、確かに無理はするなと言われるけど、外へ出たいときは出てみなさいって」
「う~ん、慣れようとする初日だから症状が重いと考えれば、徐々に良くなっていくのかなあ」
自分の身体じゃないから無理の限界がわからない。
これは咲乃の言う通りにしてあげるしかないのかな。
「よし、わかった! つらいのを承知でやるんだよな。協力する」
咲乃の表情がグッと明るくなる。
こっちまでうれしくなっちゃうよ。
「でも、限界を感じたら絶対にオレに言うこと。言わなかったら二度と会わないからな」
痛っ!
咲乃に腕を思いっきり掴まれた。
「絶対に言うから! 会わないとか言わないで。ボク、ちゃんとサーちゃんの言うこと聞くから」
「約束してくれるならこの話は終わりだ。それより咲乃、爪を立てて握るなよ」
腕に刺さる勢いで爪を立てられた。
猫じゃないんだから。
ん? 見回すと猫人間だらけだな。
「ごめん! 怖いこと言うからつい……」
咲乃がこちらを向いて正座をした。
「改めて、よろしくお願いします。う~、やっぱりこれだけさせてっ!」
へ? うわあ!
咲乃が抱き着いてきた!
「ちょ、お前、また――」
はあ。
結局、唇は奪われるわけね。
まったく、この娘は。
「ちょっと! まったく、離れなさいよ!」
ツィスカが咲乃を剥がしにかかる。
カルラはオレを羽交い絞めにして咲乃から引き離した。
「サダメも離れなさいよ! なんでされたままなの。まったく、そういうところなのよっ」
引きずられながらそんなことを言われた。
うん、確かに。
なんでキスを回避しなかったんだろう。
まったく、と思ったことがブーメランとなってしまった。
この状況を眺めている二人がいる。
なんだよ、二人で笑い合って。
最近、タケルと美咲ってなんだか……いや、まさか、ね。
咲乃はすっかり元に戻り、美咲と自宅へ帰っていった。
妹二人はやれやれといった様子。
タケルはなんだか一人だけ楽しそうだ。
「なんでタケルは楽しそうなんだ?」
「そう見える? 別に何もないんだけどな」
ふうん。
何もない、か。
何かありそうだから聞いたんだけど、答えを引き出せなかった。
まあいいや。
そのうちにわかるだろ。




