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Folge 01 藍原家の朝

 藍原家の朝は――はやい、おもい、うるさい。

 早い理由は弟妹たち曰く、『兄ちゃんとイチャイチャするため』。

 今日も三人はオレのベッドに潜り込んでいる。

 布団なのか、抱き枕なのか、図体のデカい猫なのか。

 オレはこいつらの重さと熱さと感触で早起きさせられているわけだ。


「んー、この感覚は誰の尻だ?」


 オレの目の前に尻が鎮座している。

 起きたのは息苦しさもあったのか。

 とりあえず揉んで確かめてみたいが――両手が掴まれていてどうにも動かせない。

 仕方がないから――そう、仕方がないから尻に頬を当ててみる。


「この感触だと、カルラか。珍しいな、カルラがこんな寝相になるなんて」


 カルラの尻の心地良さを楽しんでいると、二度寝しそうになる。

 毎朝二度寝の誘惑に悩まされている。困っているとは言っていない。


「カルラ~、起きてくれ。気持ち良過ぎてまた寝ちゃうよ」


 下の妹は確認できた。となると、左腕に抱き着いているのはツィスカか。

 ツィスカ――上の妹はフランツィスカだから、縮めてそう呼んでいる。

 じゃあ、足に乗っかって右手を掴んでいるのが弟のタケルになるわけだ。

 一人一人は軽いけど、みんなに固められたら重いって。

 この状態で朝まで寝ているオレもオレだけど。


「おーいタケル、重いから起きろー。ツィスカも起きな。手汗が出るほど握るなよ~」

「兄ちゃん、おはよ」


 タケルが起きた。右手を離してくれたのはいいけど、両足に抱き着いてきやがった。

 太ももを枕にするな。その――場所が悪い。


「俺は重いと言ったんだけど、タケルちゃん。気持ちはうれしいが、とりあえず起きようか」

「わかった、起きるよ~」


 タケルはさらにキツク抱き着いてきた。駄目だ、こいつ退く気が無い。


「ツィスカなら起きてくれるかな~? 長女として、この二人を起こしてくれると兄ちゃんはすっごくうれしいんだけど。ご褒美あげるぞ~」


 ツィスカは、ご褒美という言葉を聞いたとたん、ガバッと上半身を起こした。


「兄ちゃん、任せて! タケル、かぁくご~」


 ツィスカはタケルの腰を思いっきり揉んで、弟を笑い地獄へ突き落とす。

 ……っつーか、ツィスカの反応早かったなあ。全員寝たふりしていやがったってことか。

 ――いつものことだけど。

 強制的にベッドの下へ笑いと共に転がり落ちてったタケル。

 姉に遊んでもらって楽しそうだ、よきよき。

 続いてツィスカの標的はカルラになるわけだ。


「カルラもかぁくご~……あれ?」


 カルラは隙をついてオレの頭の横で割座になると、ツィスカへの防御態勢に入ったみたいだ。


「させないわ」


 カルラは乱れた長い髪を左から右へ手でかきあげる。

 おもむろに顔を近づけてきて、オレにキスをした。

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、カルラの髪の間をすり抜けている。

 何、この綺麗な光景は。


「ああああああああっ! カルラやったなーっ!」


 憤慨したツィスカは、カルラにヘッドスライディングアタックを試みる。

 カルラは寸前でかわしたけどさ、オレの顔に乗っかるなよ。

 ツィスカはただのヘッドスライディングになってしまった。

 気を取り直してすぐに起き上がり、カルラへの攻撃を続けようとする。

 カルラはオレの上をひょいっと超えるとベッドを下り、さささっと逃げていった。

 部屋のドアを開けてから振り返ると、可愛らしい笑みを浮かべてオレに朝の挨拶をしてきた。


「サダメ、おはよ!」


 出ていくカルラを追いかけようとしたツィスカを、オレは抱き止めた。


「ツィスカ、全員起きたからミッション完了だ。だからご褒美をあげる」


 そう言って、カルラと同じく乱れた長い髪を、おでこから後ろへ撫で上げる。

 顔がはっきり見えるようにしてから、軽いキスをしてあげた。


「うー、カルラはもっとしっかりやってた。あたしにはご褒美なんだからもっとちゃんとしたのして」


 うわぁ、乱れた髪で寝起き顔のジト目。

 これは言うこと聞くしかあるまい。

 こんな可愛い妹に求められちまったらしょうがない。

 拒否ったら確実に罰が当たるだろう――まあ、拒否る気はないけど。

 では失礼して。


「ぷはぁ。兄ちゃんおはよー。いい朝だねー」


 ツィスカは随分満足してくれたみたいだ。

 強いハグをしながらそんなことを言っている。

 どんなのをしたかは内緒。


「兄ちゃん、朝ごはんの準備をしてくるね。兄ちゃんも学校行く準備しなよー」


 ご機嫌なツィスカが部屋を出ていった。

 オレはもう昼下がりぐらいの気がしているよ。

 気だるい――だが妹に起きろと言った手前、起きないわけにもいかない。起きるか。

 ベッドから降りたらやわらかい感触が足元から伝わってきた。


「タケル、いつまでそうしている気だ?」

「姉ちゃんたちが羨ましいなあと思って」

「弟とは勘弁してくれ」

「僕は好きじゃないの?」

「いや、好き嫌いじゃなくてだな。あー、オレでそうやって遊ぶな」

「キスぐらいいいんじゃないかと思うけど、わかったよ、我慢する」

「我慢かよ。それでいいから勘弁な。ハグぐらいならしてあげるから」


 タケルに手を差し出して起き上がらせ、ハグをしてあげた。


「さ、出かける準備をしよう」


 タケルの背中をポンっと軽く叩いて部屋を出るように促した。

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