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蒼海の墓標   作者: 絶海戦線
激震編
7/11

前哨戦3

 日本艦隊にとって不運だったのは、艦隊周辺に密雲がたれこめていたことだった。

 日本海軍でも主要艦艇に限ったことではあるが、敵の監視は熟練した見張員のみならず、艦橋トップに備えられた電子の目によって行われている。

 第二航空部隊の場合、旗艦「蒼龍」と僚艦「飛龍」に加えて、第一航空部隊から分派されている防空巡洋艦「加古」が盟邦イギリスから導入された対空見張電探を装備しており、期待に違わぬ性能を発揮して敵編隊を捉えていた。

 アメリカ軍攻撃機隊は、日本軍のような大規模な編隊を組むのではなく、各母艦の航空隊ごとに分かれた編隊を組んで日本艦隊に向かっていた。しかし、密雲の中を飛ぶうちに足並みが乱れてしまい、隊列が間延びしていた。

 母艦から通報を受けた直掩隊は、積極的な迎撃戦闘を意図して艦隊前方に進出したが、密雲に遮られて敵機の発見に手間取り、先頭集団を見逃してしまっていた。

 ようやく敵編隊を発見した二航戦の直掩隊は、眼下に捉えた敵編隊に攻撃を加えた。これはほとんど最後尾の「ホーネット」雷撃隊だったが、悪いことにそのすぐ後方に「ワスプ」の戦闘機隊が付随していた。

 二航戦では主力の「蒼龍」「飛龍」の戦闘機隊を全て攻撃隊につけてやったため、直掩に残っていたのは「瑞鳳」の零戦18機だけだった。対して「ワスプ」の戦闘機隊は24機で、しかも高度上の優位は彼らが占めていた。

 最初の一撃は「瑞鳳」隊の意識がデヴァステイター雷撃機に向かった絶妙な時宜を捉えた強烈なもので「瑞鳳」隊は一挙に5機を失った。

 機先を制された「瑞鳳」隊だが、ここでも零戦は圧倒的な戦闘能力を発揮した。即座に反撃に転じた「瑞鳳」隊は、「ワスプ」戦闘機隊を巧みな機動で撹乱し、得意の格闘戦に引きずり込んで痛打していった。

 孤軍奮闘することとなった「ワスプ」戦闘機隊は、最終的に未帰還率6割を超える損害を受けたが、彼らの奮戦は他の多くの攻撃機に前進する猶予を与えていたのである。

「敵編隊十時方向、高度3000!」

 旗艦「蒼龍」の艦橋見張所で見張員が叫んだ。

 山口中将がそちらを見上げると、濃密な鉛色の雲の隙間から染み出すようにして、群青色に塗装された機体が現れ始めた。対空戦闘用意のラッパが艦内に鳴り響き、乗組員が緊張した面持ちで空を睨む。

 爆音が「蒼龍」の頭上に轟いた。乗組員たちが反射的に空を見上げると、日の丸を描いた銀翼が密雲を切り裂くようにして駆け抜けていった。

「一航戦の直掩隊です!」

 見張員が上ずった叫びを上げると、第二航空部隊全艦の艦上で歓声が上がった。甲板上で高角砲や機銃に取りついている砲術員たちは拳を突き上げて歓声を送り、それに応えるようにして零戦隊もスロットルを開いた。

 敵編隊もそれを認めたのだろう。敵の先頭集団――おそらくは護衛の戦闘機隊と思われる編隊が散開して零戦隊に立ちはだかった。ほどなく格闘戦が始まったが、早くも煙を吐いて落ちていく機体が出始めている。

 山口は戦闘機同士の死闘を遠望して難しい表情を浮かべた。

 一航戦からの来援はおよそ20機。小沢長官は手持ちの零戦のほとんどを派遣してくれたに違いない。派遣された零戦隊は味方に倍する敵機に対しても猛然と襲い掛かり、戦闘機同士の戦いは優位に進めている。

 米戦闘機隊は「ヨークタウン」「ホーネット」の混成部隊で、進撃中にはぐれた機体を差し引いても38機を擁していた。一航戦戦闘機隊に対して倍近い機数を揃えていたが、まるで連携が取れていなかった。

 アメリカ海軍では航空母艦を完全な補助兵力とみなしており、戦艦部隊の護衛や偵察部隊に単独で組み込んで運用するのが常であった。

 日本海軍との決戦に先立って空母を集中配備する機動部隊が編成されたのだが、「エンタープライズ」が損傷したため二個部隊に分割されるはずだった空母群は一個部隊に押し込まれることになり、艦隊運動にも不安が残るほどだったのである。

 そんな状況であるから、母艦航空隊同士の連携などは思いもよらなかった。

 猛速で突進していった零戦隊は、迎え撃った米戦闘機隊の連携を寸断して、1機ずつで戦わなければならない乱戦に持ち込んでいった。格闘戦となれば、運動性能に秀でた零戦と熟練搭乗員の組み合わせはおよそ無敵だ。

 日本軍戦闘機隊の突撃を真っ先に受け止めた「ヨークタウン」のF4F隊はたちまち崩壊して編隊を引き裂かれた。それを支援し、逆撃を掛けるべき「ホーネット」隊は足並みがそろわなかったばかりか、視界不良に悩まされて半数近い機体が遊兵となる醜態をさらした。

 零戦隊は相対するF4Fを容赦なく撃ち減らしていったが、さしもの零戦も短時間のうちに敵戦闘機隊を粉砕することはできなかった。しかも、米戦闘機隊はどれだけ撃ち減らされても執拗に食い下がり、容易に振り切らせなかった。

 戦闘機隊が死闘を繰り広げる空戦域をかい潜るようにして、ドーントレス艦爆やデヴァステイター艦攻の編隊が殺到してくる。

 この頃になってようやく「ワスプ」戦闘機隊を退けた「瑞鳳」の零戦隊が駆けつけてきたが、いささか遅きに失した感がある。敵攻撃機のほとんどが、すでに二航戦を攻撃の間合いに捉えていたのである。

 二航戦を取り巻く護衛艦艇が撃ち始めた。防空巡洋艦「加古」と軽巡洋艦「由良」、それに第十二戦隊の10隻の駆逐艦群である。

 山口の手元には、さらに旧式戦艦の「比叡」「霧島」が存在するはずだったが、彼女らを含む第六戦隊の金剛型戦艦は南方作戦に従事する第三艦隊に引き抜かれてしまった。それでも、これだけの艦艇が一斉に撃ち始めると迫力がある。

 たちまち、艦隊周辺の空は高角砲弾の炸裂煙に覆われた。しかし敵機は勇敢で、炸裂煙の間を縫うようにして殺到してきた。やがて機銃が撃ち始め、真っ赤な縫い目模様が幾筋も伸び上がっていく。

 何機かが対空砲火につかまって撃ち落とされたが、敵機は怯むことなく突っ込んでくる。舞い戻ってきた直掩隊が、味方に撃たれることを承知で喰らいつくが、あらゆる方向から殺到する敵機のすべてを退けるのは不可能だ。

「敵機、直上に侵入しつつあり!」

 けたたましい連射音が艦橋を満たした。急降下の体勢に入った敵爆撃機に対して「蒼龍」自身の機銃が射撃を開始したのだ。

 噴き上げられた火箭は先陣切って降下してくる敵爆撃機を正面から粉砕した。プロペラを吹き飛ばされ、風防を紅く染めた一番機はうなだれるように海面に激突するが、二番機以降はまるで火箭に引き寄せられるかのように迫ってくる。

 低空からも雷撃機が迫っている。ともすれば理想的な雷爆同時攻撃のようだが、敵は高低の連携が取れていないようだった。

「……甘いな」

 柳本柳作「蒼龍」艦長は、防空指揮所で呟いた。防空幕を突破してきた敵攻撃機の勇気のほどは認めるにしても、その技量は稚拙である。

 急降下爆撃はむしろ緩降下爆撃というべきで、踏み込みが足りていない。突入角度と速度が足りておらず、爆弾を切り離す高度も高すぎる。雷撃隊も同様で、魚雷を投下する高度が高いために進路を特定しやすく、しかもかなりの遠距離で投下するから馳走距離が長くなり、命中率は手荒く落ちる。

 たちまち水柱と雷跡に囲まれた「蒼龍」だったが、柳本艦長の的確な操艦と、敵機の稚拙な技量のおかげで、被弾を免れていた。

「どうも、狙われておりますな」

「目立つからな、本艦は」

 殺到する敵機に辟易した様子の見張長の言葉を受け、柳本も苦笑を浮かべた。

 同型艦に分類される「飛龍」は、専用設計された小型の島型艦橋を装備しているが、「蒼龍」は大型巡洋艦の艦橋構造物をそのまま流用しており、「翔鶴」と並んだ際には「どちらが旗艦かわからない」とまで言われたことがある。

 遠目にも目立つ大型艦橋を見て、敵機は「蒼龍」を最大の得物と見たのだろう。あるいは左舷側に艦橋を装備した艦形が攻撃を誘引しているのかもしれない。

 敵機の攻撃はほとんど「蒼龍」に集中していた。「飛龍」に向かう敵機は嫌がらせ程度には存在しているが、「瑞鳳」は完全に無視されている。

 連続して投下された爆弾がきわどいところで海面に突き刺さる。舷側をこすり上げるように立ち昇った水柱が雪崩落ち、飛行甲板を叩き据える。同時に、後方から追いすがってきた雷跡が艦尾を掠めるようにして駆け抜けていった。

 それに安堵する暇はなく、新たな敵機が殺到してくる。

「敵降爆、突っ込んできます!」

「こいつは……!」

 敵機の中にも、勇者は居たらしい。これまでに攻撃を掛けてきた連中の中にも思い切ったやつらは居たが、こいつらはよっぽど思い切りが良い。急降下の角度と速度は、我が艦爆隊にも匹敵する。

「面舵そのまま、最大戦速!!」

 機関室への伝声管に怒鳴り込むと、柳本は敵機を睨み据えた。先頭の機体が爆弾を投げ落とすと同時に、足元が大きく揺らいだ。最大戦速まで増速した「蒼龍」は、右傾斜を深めながら海面に弧を描き続ける。

 手摺を握りしめ、柳本は投じられた爆弾を凝視する。

 敵弾が外れるなら、その形状は徐々に楕円形に変化していくはずだ。

 先頭の機体と、二番機、三番機が投じた爆弾はその通り楕円形へと変化していったが、四番機が投じた爆弾は点のまま「蒼龍」へ迫ってくる。

 そのまま黒点は艦橋の死角に消え――艦の後方から、殴りつけられるような衝撃が、防空指揮所を襲った。

「被害報告!!」

 焦燥を露わに、柳本は命じた。

 空母は搭載する艦載機によって絶大な威力を発揮する反面、被弾には弱く、たった1発の命中弾でも戦闘能力を喪失してしまう。ましてや、ドーントレス艦爆の装備する爆弾は、日本軍のそれよりも強力な500キロ爆弾だ。

 一航戦の「翔鶴」や白龍型空母であれば、飛行甲板の破壊は免れないにしても、上部格納庫の床面に張り巡らせてある装甲鈑が爆弾の貫通を許さず、下部格納庫や機関区への被害を食い止めることができるだろう。

 しかし、ストックホルム条約に縛られた「蒼龍」は、航空機運用能力と速度性能を優先したために防御力は軽空母に毛が生えた程度でしかなく、機関区を保護するための装甲甲板も装備されてはいない。戦闘能力の喪失はまず間違いなく、ともすれば致命傷を食らいかねない。

「飛行甲板後部に命中! 格納庫に火災!」

「左舷至近弾! 三番高角砲損壊!」

「対空戦闘再開、急げぇ!」

 艦内各所からもたらされる被害報告に、憤怒の形相を浮かべた柳本の叫びが交錯し、

「消火班、消火にあたれ! 可燃物は投棄せよ!」

 額から流れる鮮血を拭いもせず、艦内電話で指示を下す鹿野副長の声が混ざり込んだ。

 怒号の飛び交う艦橋で、山口はよろめく足を踏みしめて立ち上がった。被弾の直前、高橋航空甲参謀が体当たりをするようにして引き倒したのだった。

「長官……」

 掠れた呼び声に振り返ると、顔面蒼白な長谷川参謀長が立っていた。

「やられたな……第二航空部隊の指揮は十二戦隊の岸福治少将に、航空戦の指揮は『飛龍』の加来艦長に委ねる。ただちに指揮権を移譲せよ!」

「敵降爆、さらに向かってきます! 急降下ぁッ!!」

 山口の命令が実行に移されるよりも早く、焦燥と絶望に彩られた絶叫が、次いでそれをかき消すようなダイブ・ブレーキの轟音が覆いかぶさってきた。

「面舵!」

 柳本艦長の短く、切迫した叫びが事態の深刻さを物語っていた。

 報告こそもたらされてはいないが、先の被弾は「蒼龍」の心臓部を抉っているはずだ。格納甲板を貫いた爆弾は機関区で炸裂し、8基を備えるロ号艦本式ボイラーか、あるいはタービンのいくばくかを叩き潰したに違いない。

 その証拠に、明らかに「蒼龍」の行き足は衰えつつあり、柳本艦長の絶妙な時宜を捉えた操艦指示にも拘らず、その動きは鈍かった。

 直撃を確信し、ドーントレスのパイロットたちが凄絶な笑みを刻んだ瞬間、横合いから叩き付けられた対空砲火が、ドーントレスの小隊を包み込んだ。

 彼らの双眸が驚愕に見開かせた刹那、連なるように降下しつつあった機体は、ことごとく火達磨となって海面に叩き付けられた。


「旗艦上空の敵機、全機撃墜!」

 電測室からもたらされた報告が、鋼鉄の壁に囲まれた対空戦闘指揮所の空気を震わせた。

「間に合ったな」

 高橋雄次「加古」艦長は、目の前の戦況盤を睨みながら額の汗を拭った。

 対空戦闘指揮所は、現在では防空巡洋艦に改装された古鷹型重巡洋艦の2隻だけが備えている設備であり、その骨子は、対空電探に表示されて敵機をどのように自艦が擁する対空火器に割り当てるか、その分析と指示にある。

 指揮中枢として厳重に防御された指揮所は、電測室と各射撃指揮所と直通電話によって通じており、電測室からもたらされた情報を中央に置かれた戦況盤に素早く反映させ、高角砲や機銃座の射撃指揮所に攻撃目標を伝達するのである。

 戦況盤には二航戦の3隻の空母に加えて、「加古」以下12隻を数える護衛艦艇の模型があり、それを取り囲むようにして、日本軍機を示す赤と、アメリカ軍機を示す青の飛行機の模型が乱雑に置かれていた。

 電測室からひっきりなしに飛び込んでくる報告に従って、艦艇の模型と飛行機の模型が入り乱れるように移動し、あるいは戦況盤から取り除かれることによって、目視することのできない戦況を見事に表していた。

「敵雷撃機編隊、『蒼龍』の右舷から迫りまぁす!」

 電測室からの報告が、戦況盤に反映されるよりも早く高橋艦長は命じた。

「機関全速、本艦を『蒼龍』と雷撃機の間に入れる!」

「か、艦長!」

 戦況盤を睨んでいた管制長が、目を剝いた。

「加古」は旗艦「蒼龍」の右舷後方に位置しており、直ちに増速すれば肉薄する敵雷撃機と旗艦の間に割り込むことは可能だ。

 しかし、「加古」の強力な対空砲火といえども、12機もの敵雷撃機編隊を撃退するのは容易なことではない。最悪の場合、撃ち漏らした敵機からの反撃を受けて、「加古」が複数の魚雷を浴びる可能性もある。

 大規模な改装工事を受けた「加古」は、帝国海軍最強の対空戦闘能力を有しているが、防御力は竣工当時とほとんど変わっていない。第二次改装ではバルジが追加されたが、これは重心の上昇した艦体を安定させるためのものだった。

 本質的には大正最後の年に就役した旧式重巡洋艦であり、複数の魚雷が命中すればどうなるかなど想像するまでもないことであった。

 高橋とて、それは重々承知している。

 だが、相次ぐ回避運動によって第二航空部隊の陣形は大きく乱れており、二航戦を取り囲んでいた護衛艦艇は、いまや「蒼龍」を支援できる状況にはない。

 何より、「加古」の任務は空母の護衛だ。しかも敵機の標的は第二航空部隊の旗艦であり、司令部の壊滅という最悪の事態を避けるためには、「加古」と引き換えにしてでも敵機を阻止しなければならなかった。

 増速する「加古」の艦上で、直前まで振り上げられていた高角砲の砲身が水平に倒され、再び猛砲撃を開始した。

 いまだ試製の文字が取れぬままとはいえ、盟邦イギリスの協力を得て開発された射撃管制電探は前評判通りの威力を発揮して敵編隊の只中へと高角砲弾を送り込んでいく。

 全力射撃を開始した高角砲に次いで唸りを上げたのは、陸軍から採用したホ―202と呼称される37ミリ機関砲4門を合わせた新型防空機銃だ。

 機銃射撃指揮所の指示を受けて旋回した新型機銃は、けたたましい咆哮と共に、圧倒的な量の弾丸を、肉薄する敵攻撃機編隊に注ぎ込んだ。

 そこに、日本海軍の標準装備である25ミリ機銃の射撃が加わった。

 大小二種類の曳光弾の奔流が、高角砲弾の防空幕を突破しようとしたデヴァステイター艦攻の編隊を押し包むと、早くも1機が主翼を叩き折られて、海面に激突した。

 次いで1機が37ミリ弾を正面から叩きこまれた。押し潰されるように機首がひしゃげ、回転を続けるプロペラが弾け飛んだ。風防が砕け散る刹那、内側が真っ赤に染め上げられ、直後には爆炎に飲み込まれる。

 櫛の歯が抜け落ちるようにして撃ち減らされた雷撃機編隊は、「蒼龍」への雷撃を断念して「加古」に目標を変更したが、しかし思うように射点に付くことはできず、ようやくの思いで放った魚雷はことごとく回避された。

「……敵魚雷、艦尾後方を抜けます!」

 見張所からの報告を受けて、対空戦闘指揮所に安堵の空気が広がった。

 一時はどうなることかと思ったが、「加古」は強烈な弾幕射撃によって旗艦を守り、さらに自分の身も守ったのである。

「電測、敵機の状況はどうだ?」

 高橋艦長は、喜色を滲ませながら電話を取った。

 アメリカ軍機の空襲は五月雨式に続いたため、離脱する機体と突入してくる機体、さらに自軍の直掩隊が交錯して混沌としていたが、そろそろ敵機のほとんどが離脱したはずだ。あるいは、先の雷撃機隊が最後かもしれない。

 旗艦を傷つけられはしたが、ともかく最小限の被害で空襲を乗り切った――。

 そう思った直後であった。

「て、敵雷撃機編隊、『蒼龍』右舷にあり!!」

「何だと!?」

 愕然としながら戦況盤に目を落とすと、「蒼龍」の右舷側は文字通りがら空きだった。

 敵戦闘機隊を退けた直掩隊は、敵機が集中していた艦隊左舷側に展開してしまっており、呼び戻そうにも、零戦隊が備える無線機は改良を重ねているとは言っても、いまだガラクタ同然の代物で使い物にならない。

 艦艇にしても、「蒼龍」からかなり離れた海面に駆逐艦の「曙」「潮」が確認できるが、直接援護を行える艦艇は存在しないようだ。

「敵編隊、投雷した模様!」

「『蒼龍』面舵を切ります!」

 電測室からの報告に重なって、緊迫した見張の叫びがスピーカーから響いた。

 指揮所に詰める全員が、「蒼龍」が存在する方向へと血走った眼を向けた。

 もはや、彼らは「蒼龍」が敵魚雷を回避することを祈るしかなかった。帝国海軍最強の対空戦闘能力を保有する「加古」といえども、そもそも射撃することができないのではどうすることもできないのだ。

 やがて、悲鳴じみた絶叫が、対空戦闘指揮所にこだました。

「敵魚雷、『蒼龍』に命中!!」


 半年も放置することになってしまいまして、誠に申し訳なく思っております。

 今後は、なるべく早く投稿できるように努力しますので、なにとぞお許しください。


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