T 昼休み
「本棚の下敷きになったことある?」
高校。お昼休み。教室でのおしゃべり。
昨日も一昨日も同じ。たぶん去年も同じ。きっと来年も同じ。卒業したら……さすがに同じとはいかないけど。
隣にはカナとエリコ。
私は、机に頬杖ついてグラウンドを見ていた。制服のままサッカーしてる男子を見て、よくあんなことできるな、と思っていた。一人が、見ている方も気持ちよくなるようなシュートを決めた瞬間、私はつい頭に浮かんだ光景のことを声に出してしまった。
「本棚? どーしたのトモ?」
「えっごめん。なんでもないよ」
エリコに覗き込まれて、とっさに笑顔を作って誤魔化す。
エリコのスマホから、さっきまで話してたアイドルの新曲が流れていた。
「本って言えばさ、これチョーよかったんだけど」
カナが見せてきたスマホの画面には、自由に文章を投稿できるどこかのサイト。タイトルだけで恋愛ものと分かる。
私も右手のスマホを見る。ブラックアウトした画面にぼんやりと私の顔が映る。
今は本棚もCDを収めるラックもいらない。全部、この機械の中に入るから。
だったら、さっき浮かんだ光景は誰の記憶?