第二十九話 決着
三機のドローンが起動し、上空を飛び始める。瞬きの度に七歩蛇が眼の光を失くして墜落し、地上の魔物に踏みつぶされた。
「クラン『雪華』は二手に分かれてください。片方はクラン『鞍馬』の援護、もう片方は魔物の間引きをお願いします。荏田井さん、保篠さんはこちらに来てください。橙香、そのまま大嶽丸の牽制を頼む」
素早く指示を出しながら、南藤は機馬での移動を開始する。
「オル、機馬に同乗してくれ。当たらなくてもいいから俺のそばで魔法を連発するだけの簡単なお仕事だ」
魔物の数が多いため、討伐しすぎるとまた魔力濃度が上昇してしまう。オルに魔力濃度を低下させる役割を求めながら、南藤は呼び寄せたドローン毬蜂と雷玉に網を渡して上空に広げさせた。
飛行型魔物への対抗策である。この階層は狭いため、網を広げるだけで飛行型魔物の進攻を妨害できた。
しかし、南藤は妨害程度に網を使うつもりはない。
ドローン毬蜂の映像を見ながら、南藤は欲しい魔物を探し出す。地上にいるのはシイ、蜃、糸繰り狢、ロボット、サトリ、塗り壁。目当ての魔物は地上魔物の頭上をゆっくりと飛んでいた。
網を広げた毬蜂、雷玉が高速で飛んでいく。目当ての魔物、木霊を捕えた南藤は一体では飽き足らずに片端からネットに絡め取っていった。
危機感を覚えたらしい木霊がけたたましい鳴き声を上げる。たった一体でも耳障りな音が増幅され、魔物たちが一斉に振り向いた。
『ぬ?』
振り向かれた先にいた大嶽丸が魔物たちの視線を受けて怪訝な顔をした時には、魔物たちの一部が動き出している。
同じ魔物である大嶽丸に襲い掛かる事はない。だが、周囲の冒険者であれば話は別だ。
魔物たちが突入を開始した瞬間、南藤は大嶽丸の周囲にいる橙香たちに声を掛けた。
「閃光弾」
「了解!」
橙香が鉄塊を横に振り抜いて魔物を弾き飛ばし、塗り壁の後ろに隠れて鉄塊を盾にする。勝屋がライオットシールドを構えて橙香の背後を守り、古村たちも橙香や勝屋が作った塗り壁シェルターに滑り込んだ。
何かを仕掛けるつもりだと気付いた大嶽丸が大太刀で毬蜂と雷玉を切り落とそうとするが、二機のドローンはすでに間合いの外、高く空に上がっている。雷を落としてやろうにも、南藤が避雷針の代わりに飛ばすよう指示を出した雪女たちの氷の弾丸が飛んでおり、飛行型魔物も邪魔だった。
橙香たちへ攻撃を仕掛けようにも、周辺にいる魔物のせいで近寄る事も出来ない。さらに、橙香たちに殺到している魔物たちは上空で鳴き喚く木霊に気を取られて何度も視線を空に移しており、攻め手としても甘過ぎた。
そして、ノーマークだったドローン団子弓が閃光弾を撃ち出す。
刹那の光の蹂躙が魔物たちの視界を奪い去る。冒険者たちが閃光をやり過ごすために目をそむける。それは、仕掛け人である南藤も同じ。
だが、ここは三つ巴の戦場であり、閃光弾の意味を知っている者は冒険者以外にもいるのだ。
閃光弾が発射された瞬間、狙いを定めた魔法銃の引き金が引かれる。
発砲音は小さい。宙を裂く鋼の矢が標的である南藤の胸部に向かって猛烈な勢いで直進する。
「いまだ」
小さく、南藤の声が聞こえた。
鋼の矢にすれ違う二本の矢は荏田井、保篠の和弓から放たれていた。
ゼェグに一度も目を向けていなかった南藤はその実、ドローン毬蜂から送られてくるカメラ映像で常に動きを監視しており、閃光弾を使用した直後の隙を狙ってくることも予想していたのだ。
南藤は自らが囮となる事で、ゼェグ本人に射線を開かせ、カウンターの準備を整えていた。
来ると分かっている攻撃を受けるはずもなく、南藤は機馬の足を二本挙げさせて盾にし、鋼の矢を弾き返す。
まばゆい光の中での攻防は南藤の圧勝だった。
太ももと腹部に突き刺さった矢を唖然と見下ろしたゼェグは、直後に怒りの篭った目で南藤を睨む。
「てめぇ!」
叫ぶゼェグには目もくれず、南藤は毬蜂と雷玉を操作して木霊をゼェグの頭上から投下する。雷玉がテーザー銃のワイヤーを切り離すことで網を開き、木霊を解放したのだ。霧状でありながら実体が存在する木霊は上空のドローンたちを警戒して距離を取ろうとし、必然的に下降していく。それを雷玉が牧羊犬のように追い立ててゼェグの元へと誘導していく。
南藤への怒りに気を取られて反応が遅れたゼェグが頭上を見上げた時には、木霊たちが獲物は此処にいるぞと魔物たちに知らせた後だった。
「魔物と違って考える頭のある相手は読みやすくて助かるな」
平然と言いながら、結局一度もゼェグを見ることなく封殺した南藤は機馬の収納スペースを漁って拘束具を取り出した。
太ももと腹部、二か所に矢を受けたゼェグはまともに逃げる事も出来ない。後は拘束するだけだ。
しかし、南藤は魔力酔いの体質が理由でゼェグに近付けない。拘束するには周辺の魔物を蹴散らす必要があった。
「オル、そろそろ魔法を空撃ちしてくりゃ……」
「これでいい?」
「あぁ、大丈夫だ。世話になる」
ふらりと体勢が崩れかけた南藤を魔法の空撃ちで支えたオルは周辺の魔物と、中央の大嶽丸へと視線を移す。
大嶽丸は魔物に群がられながらも応戦しているゼェグを眺めていたが、やがて大太刀を両手で握り、肩に引き付けるように構えて南藤へと視線を移す。
『大将の器。兵も揃っている。やはり厄介な手合いだったか』
心の底から楽しむように笑った大嶽丸が一歩踏み出す。大地に根を下ろす巨木のような重厚な構えだったが、腕から先は柳のようにしなやかなのが見て取れた。鬼の図抜けた膂力があれば、わざわざ力を込めるより柔軟さを維持して動きを制限しない方が必殺の一撃になる。
『蘇ってみるものだ。これほど逸る戦ができるのだからな。我が名は大嶽丸。――名乗れ!』
「南藤芳紀」
「――橙香」
大嶽丸の横合いから鉄塊が唸りを挙げて迫る。
元々乱戦だ。大嶽丸も、名乗りをあげての一騎打ちなど望んでいない。
ただ単に名を聞きたかっただけだと、正確に理解した南藤に大嶽丸は満足そうな笑みを浮かべる。この戦の躍動感を共有していると分かったからだ。
橙香が振り抜いた鉄塊を見切り、紙一重で避けた大嶽丸は大太刀を袈裟がけに振り降ろそうとする。
割って入るように、ドローン雷玉がテーザー銃を発砲し、ワイヤーを大嶽丸と橙香の間に滑り込ませた。横合いから視界に異物が入ったことで反射的に警戒したその隙を突き、橙香が鉄塊を地面に叩きつけ、反動で持ち上げる。
背後にドローンの駆動音を捉えた大嶽丸は、橙香の鉄塊を避けながら背後のドローンへと斬りかかる。しかし、ドローンはただの牽制で配置されただけだったのか、すでに間合いの外に出ていた。
『見事な連携なり』
称賛しながら、南藤と橙香の息の合った連続攻撃を切り抜けていく。
南藤は大嶽丸への攻撃の手を休めることなくドローンの操縦を続けながら、オルを除く冒険者に指示を出す。
「ゼェグの拘束を急いでくれ。――法徳、拘束具を!」
「請け負った」
南藤が投げた拘束具を空中で掴みとった法徳がゼェグへと急行する。
殺到してくる魔物に対処しながら大塚、室浦、天狗衆の攻撃に対処していたゼェグが射殺さんばかりに南藤を睨む。
優勢だった状況が覆ったのは魔力濃度を大幅低下させる小規模氾濫を起こした大嶽丸が切っ掛けだが、何よりもただ一人で支援も攻撃も防御も指示もこなして戦況をコントロールしている南藤の存在が大きい。
事前に集めた情報から魔力酔いがなくなった場合の南藤の危険性はある程度理解しているつもりだったが、インターネット上には仲間の鬼娘の功績を横取りした結果だとかサイコパスだとか書かれており、ここまで指揮に従う仲間が揃っているとは思っていなかった。
だが、そんな事よりもゼェグは、今に至っても目も向けようとしない南藤に腹が立って仕方がない。
「――この劣等世界人が!」
悪態吐いた時、魔物の群れを斬り裂いて高枝切りばさみを持った男が突っ込んできた。
ひねりを加えた鋭い突きを放ちながら、男、大塚が鼻で笑う。
「うるさい噛ませ犬だな」
寸前でゴーレムが大塚の突きを受け止める。
しかし、ゼェグは大塚の言葉に顔を真っ赤にしていた。だが、瞬時に理解する。
南藤は最初からゼェグを噛ませ犬程度にしか見ていなかった。そして、今まさに噛ませ犬として処理されようとしているのだ。
ゼェグは周囲に目を走らせる。魔物に囲まれた状況。南藤、橙香、オルの三人を除いた冒険者がゼェグを拘束しようと動いている。完全に包囲され、ゼェグが体から発している濃密な魔力は魔物たちが使う魔法により消費され尽くしている。
何か逆転の手を打たなくてはいけない。
「……調子に乗んじゃねぇよ」
挽回の目はある。確かに冒険者たちの連携も魔物の包囲も分厚いが、この戦況の要になっているのは南藤なのだ。
ゼェグは立ち昇らせていた魔力を魔法銃に集約する。この階層の魔力濃度を上げて南藤を行動不能に追い込む手はもはや使えないのだから、周りの雑魚魔物に使われるより自分自身の攻撃に集中した方がはるかに有意義だと判断したのだ。
集約した魔力により、魔法銃が霞むほどに空気が歪む。ゼェグの体を覆っていた陽炎を発生させるほどの魔力が集まったのだから当然だ。
魔力濃度の低下により魔法がほぼ使えなくなった魔物たちをゴーレムが蹴散らし始める。魔物の死骸が変換された魔力さえ集めて、ゼェグはこれから放つ魔法の威力を底上げした。
防ぎようのない一撃を。躱しようのない一撃を。必殺の一撃を。
「てめえ以外は有象無象だ」
ゼェグは魔法銃を南藤に向かって構え、魔法を起動しながら引き金を引く。
浮かび上がるのは、精緻にして絢爛豪華な極彩色の魔法陣。
発動するのは、ゼェグの故郷たる魔導世界の戦争に使用された制圧魔法。
莫大な魔力を注ぎ込まれて形成されていく青い稲妻を纏う無数の槍。その一本一本が着弾と同時に周囲を焼きつくす。
これで終わりだとゼェグが笑った瞬間、南藤が振り返った。
目が合うと同時に、南藤が肩を竦めた。
「判断が遅い」
南藤の口がはっきりとそう言葉を紡いだのを見届けた直後に、ゼェグの視界が暗転した。
意識ははっきりしている。しかし、視界は暗幕にでも覆われた様に真っ暗で、何も見えなかった。
ばさり、と巨大な翼が空気を叩く音が聞こえ、ゼェグは反射的に振り返り、攻撃を加えようとする。
しかし、身体の内から湧き出るはずの魔力が完全に霧散していた。それでもせめてもの抵抗に振り上げた拳は鍛え抜かれた腕に掴み取られ、遠慮なく握りつぶされる。
「拘束完了。計画通りだ」
重々しい声が、ゼェグに敗北を叩きつける。
全て読まれていた。
何が起きたのかも、どこまで読まれていたのかも分からないというのに、敗北した事だけは理解できた。
※
南藤はゼェグの意識のすべてが集中したその瞬間に、作戦を決行していた。
単純に、ゼェグの放とうとしていた青い稲妻を纏う槍へ、麻酔弾を撃ち込んだ夜雀を落としたのである。
稲妻に焼け死んだ夜雀が命と引き換えに放つ呪いにより視界が完全にふさがれたゼェグに上空から法徳が急降下し、拘束具をはめた。
視界の端で一連の作業を見届けた南藤は目の前の戦いに集中する。
――大嶽丸。
平安時代に鈴鹿山を根城にした鬼神であり、坂上田村麻呂に討ち滅ぼされたが、それは黄泉がえりの力を持つ神刀二本を盗み出されてからの話だ。
神も仏も天女も、大嶽丸を撃ち滅ぼすのに協力したと神話にあるほどに猛威を振るった鬼である。
全身がミイラ化し、理性も失っていた最初ならばいざ知らず、上半身を取り戻した大嶽丸はゼェグと並ぶかそれ以上に位置付けられる脅威度を誇っていた。
さらに現在、二度目の死亡に際して右足を股関節から自ら斬り落としたことでこの部位も復活している。ミイラ化したままの腰や左足の分、全快とは言えないにもかかわらず、その戦闘力は南藤と橙香でも抑えきるのがやっとである。
しかも、大嶽丸が全力を出していないのは明らかだった。神刀は残り一振り、すなわちもう一度復活できるため、大嶽丸は上半身を吹き飛ばされたように下半身を吹き飛ばされるタイミングを計っている素振りがある。
全快すれば、誰も止められないと分かっているのだろう。
「オル、俺が合図したら奥の手を使え。ただし、狙いは大嶽丸そのものじゃない」
「神刀を吹き飛ばせというのなら、遠慮するよ。当てられるとは思えない上に、あの磨き上げられた神刀相手なら反射されるからね」
「分かってる。だから狙うのはこれだ」
視線で大嶽丸に狙いを気付かれないよう南藤がスマホ画面に表示した地点を見て、オルは眉を寄せる。表示されていたのはゼェグが魔法でばら撒いた光を反射する金属片だ。
「どこに反射するか分からないけれど」
「いや、反射角度は計算してある。ただ撃てばいい」
勝負の時はまだだけどな、と南藤は真剣な目で大嶽丸の動きを観察し続ける。
大嶽丸は橙香の鉄塊を悉く避けながら反撃の機会を窺っている。南藤の役割はドローンを利用して大嶽丸の死角から常に圧力を加えつつ、反撃の兆候を察知して攻撃を加え、反撃を防ぐこと。
すでに何度目になるかもわからない反撃封じを成功させても、大嶽丸に焦る様子はない。
「ゼェグは煽れば煽るだけ頭に血を昇らせてくれたんだがな」
大嶽丸は純粋に戦いそのものを目的としている分、逆境に置かれればおかれるほどに楽しむための余裕を常に残しているらしい。
鬼だけあって体力は無尽蔵。大気中の魔力濃度が下がってるため落雷のような派手な魔法はあまり使わないが、長期戦になれば魔力濃度が回復する可能性がある。
「……仕方がない。どの道、冒険者としては最後の戦いになるだろうしな。オル、機馬を下りてくれ」
「何をするつもり?」
何かの覚悟を決めたらしい南藤に不安を覚えたオルは訊ねながらも機馬を下りる。
南藤は答えずに橙香へ声を掛けた。
「無茶するぞ!」
「この後無茶苦茶!」
「里帰りだ!」
「……余裕そうね」
オルは呆れながら呟く。
大嶽丸と死闘を演じながらも夫婦漫才を繰り広げる南藤と橙香だったが、その動きは一段と激しさを増す。
橙香が鉄塊を地面に叩きつけたかと思うと、舞い上がった土砂からドローン毬蜂が飛び出す。
斬り落とそうとした大嶽丸の大太刀の間合いギリギリで毬蜂が急制動をかけてやり過ごし、橙香の掌底で押し出されて再加速。一瞬で大嶽丸の間近に迫る。
大嶽丸は半身を引いて毬蜂を躱し、大太刀を橙香へと振るう。
しかし、橙香は後ろに飛び退いて互いの間合いに空隙を作っていた。
「芳紀!」
「任せろ!」
一気に距離を詰めていた機馬から南藤が飛び降りる。
これにはさすがの大嶽丸も頬を引き攣らせた。幅二メートルの鉄の塊が問答無用で突っ込んでくるのだ。時速六十キロメートルで突っ込んでくる機馬は鬼の大嶽丸であれば容易く避けられるが、大太刀を振るった所で防御も出来ない。
行動を限定されることに顔を顰めながらも大嶽丸が飛び退いた先には南藤がいた。
大太刀を袈裟がけに振るう。武道の嗜みのない人間では目で追えないほどの速度のそれは、南藤に当たるより先にぴたりと止まった。
大太刀が描く軌跡の先を粘着弾が通り過ぎる。鬼の膂力で慣性を完全に御していなければ確実に粘着弾に衝突し自慢の大太刀はなまくらと化していただろう。それでも鈍器として扱えば南藤をミンチに出来るが、その後の戦いに支障をきたすことは明らかだ。
無茶ではある。だが、大嶽丸が余裕を残して理性の上に戦っている以上、粘着弾を斬れないのも当然だ。無謀ではなかった。
『斬らねばいい』
大嶽丸が蹴りを放つ。南藤は読んでいたように腕で蹴りを受け、後ろに飛ばされた。
まともな人間ならば地面に叩きつけられて行動不能、打ち所が悪ければ即死する。魔力強化が施された衣服を着ている南藤であれば即死は免れるだろうが、骨の数本は覚悟するような一撃だ。
だが、大嶽丸は南藤を蹴り飛ばした瞬間に悟っていた。
『貴様、人間の癖に鬼に投げられ慣れているのか!?』
「ボクの未来のお婿さんだからね!」
背後からの声に大嶽丸は大太刀を振るいかけ、視界の端に飛んでいる団子弓に気付いて片足立ちのまま跳ぶ。ミイラ化したままの左足ではあったが、どうにか大嶽丸の無理な行動について来れた。
しかし、跳んだ瞬間に背中に重たい衝撃を受ける。固い感触のそれは、橙香の鉄塊ではない。
先ほど突撃してきた六脚の鉄の塊だと瞬時に判断し、後ろ手にその鉄の脚を掴みとる。
ちょうどいい重量武器だ、と機馬を投げ飛ばそうとして、失策を悟った。
手が、機馬の脚から離れない。大太刀で斬らずに済ませた粘着弾がべったりと、大嶽丸の手と機馬の脚を繋いでいた。
それでも盾代わりには使えると思考を切り替えた瞬間、機馬が掴まれていない五本の脚を乱雑に動かして大嶽丸のバランスを崩した。
大嶽丸の視界の端で南藤が立ち上がり、機馬を操作しながら自前の脚で走ってくる。
まだ何か仕掛ける気なのだ。
この体勢で迎撃するのは不可能と判断して、大嶽丸は機馬を思い切り地面に叩きつけて破壊を試みる。いやに頑丈で一度地面に叩きつけた程度で破損する事はなかったが、動作は停止した。
真横まで走り込んできた南藤の背後から団子弓が現れる。
飛び道具を使う気だと瞬時に判断して、大嶽丸は動作停止した機馬を盾として構えた。
縦横二メートルの大型機械だけあって、盾としては十分な大きさだ。
――的としても。
『ぐっ!?』
突如大嶽丸の全身を貫いた痛みに筋肉が勝手に硬直する。雷に打たれたような衝撃だった。
団子弓の背後からさらに雷玉が現れ、機馬にテーザー銃を撃ち込み電流を流したのだ。当然、機馬の内部回路にも深刻なダメージが入る。
しかし、機馬を代償にしても大嶽丸の行動の自由を奪ったのは多大な戦果だった。
隙を窺っていた橙香が鉄塊を振り上げる。
「逝ってらっしゃい」
『ふっ、留守を頼む』
間近に死が迫っている状況で軽口をさらりと返した大嶽丸だったが、身体までは動かず橙香の振り降ろした鉄塊に頭部を粉砕される。
最後の神刀が砕け散る。
復活直後の反撃を警戒して下がった橙香を南藤が抱き留め、そのまま後ろに引き倒す。
「ちょっと、えっ!?」
まだ復活し切っていないとはいえ再生が始まっている大嶽丸の前で尻もちをつく事になった橙香が動揺するが、南藤は別の方向を向いて叫んだ。
「やれ、オル!」
「どうなっても知らないよ!」
準備していた魔法をオルが放つ。
再生が完了した大嶽丸がいまだに手に張り付いたままの機馬を鈍器代わりに振り上げ、南藤と橙香をまとめて叩き潰そうとする。
次の瞬間、大嶽丸の体にいくつもの穴が穿たれた。
『何が!?』
いくら鬼でも筋肉そのものに穴が空けば体勢を保っていられるはずもない。その場で膝を突く大嶽丸へと南藤は声を掛ける。
「今の時代、復活持ちへのリスキルは基本戦術なんだ。悪く思うな」
大嶽丸は背後を振り返り、ゼェグがばら撒いた光を反射する金属片が地面に転がっているのを見てすべてを悟ったらしい。
『抜かせ。ここに立たされるまでが策略であろう。嵌まった己が弱かったのだ』
負けを認めて一瞬悔しそうな顔をした大嶽丸だったが思考を切り替えたらしく、南藤の前に頭を垂れた。
『止めを刺せ』
南藤は手元に戻した毬蜂を掴みとり、大嶽丸の頭へ突きつける。
「遺言は?」
『ふむ』
大嶽丸は面白い冗談を聞いたように笑みを浮かべた後、南藤と橙香を見て口を開く。
『お似合いだ』
「どうも。では」
毬蜂が繰り出したパイルバンカーが大嶽丸の頭蓋を貫く。
ぐらりと傾いだ大嶽丸の身体が地に伏した。




