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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
最終章 リーズリウム深緑ダンジョン
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第二十五話 発見

 定期連絡を欠かさずに行いながら、砂州と小島をいくつも越えていく。


「あれが七歩蛇ってやつか」


 砂州の上を数匹の群れでクルクルと飛びまわっている魔物を遠目に確認して、大塚が双眼鏡を隣の室浦に渡した。

 南藤のスマホにもドローンで撮影した七歩蛇の姿が映し出されている。

 体長十二センチメートルの小さな蛇の妖怪だ。

 姿かたちは龍。四肢を持ち、色は真っ赤で鱗の間が金色に光り、ピンと凛々しく立つ耳を持つ。

 霊界では分類上で爬虫類であり、ヘビとトカゲの中間的な存在として位置付けられているらしい。

 噛まれれば七歩以内に死ぬと言われる猛毒の持ち主ではあるが、南藤たちは今回の遠征に際して抗毒血清を持ち込んでいるため対処を間違えなければさほど恐ろしい魔物ではない。

 だが、血清も数が限られる以上、噛まれないように立ち回るのは基本だ。


「数は七。他に敵影もない。始めようか」


 保篠が周囲のメンバーを見回してから、和弓を構えて七歩蛇を狙う。その隣で、荏田井も和弓を構えていた。


「攻撃開始!」


 宙を二本の矢が割き、七歩蛇が二匹、頭部を正確に射抜かれて即死する。

 仲間の死を代償に保篠や荏田井の場所を知った残りの七歩蛇が空中で反転し、一直線に向かってきた。迎撃のために放たれた矢を、七歩蛇は身を捻って躱す。

 接近してくる七歩蛇だったが、唐突に上から降ってきた網に絡め取られて無様に落下した。

 日本刀の切っ先を真下に向けた状態で空から天狗衆が急降下し、網に絡め取られて身動きが取れない七歩蛇を刺し殺す。

 文字通り一網打尽となった七歩蛇を一瞥して、法徳が網を回収し、橙香に渡した。


「単純ではあるが、実に効果的だな」


 磨き上げた剣術を使えない事には不満そうだったが、安全に討伐できるのであればそれに越したことはない。

 保篠たち陽動組は割り切っているらしく、作戦の成功を素直に喜んでハイタッチを交わしていた。

 網を避けられたときのために控えていた深映たちも水鉄砲をおろす。


「魔物も増えてきたわね」

「人数が多いから対処は容易だけどね。芳紀、次はどっちに行く?」


 深映の呟きに答えつつ、橙香が砂州を指差す。砂で出来た道は途中で二股に分かれており、それぞれが別の小島へと繋がっていた。

 橙香の問いかけに南藤は真剣な顔でスマホ画面を指差す事で答えに代える。


「こっちの島に行くの? 分かった。みんなー移動しよう」


 橙香が目的の小島を指差しながら歩き始めると、すぐに隊列を整えて連合パーティーは動き出した。

 砂州を渡りながら、橙香は何度目かの定期連絡を入れる。


『何か異常はありますか? オーバー』


 定期連絡以外に無線が飛んでこないのだから何事もないだろうと思いながら問いかける。

 帰ってきたのは当然のように問題なし、との報告だった。

 砂州を渡り切って小島に入った直後、森の中に複数の目が浮かび上がった。


「全員――」

『――警戒しろ、魔物がいる』

『ちっ、サトリか』

「射撃開始」


 深映が冷たい声で指示した直後、氷の弾丸が森の中へ無数に打ち込まれた。

 しかし、サトリたちは銃撃がくることを読んでいたらしく、さっと木々の後ろに身を隠した。

 大塚が高枝切りばさみの切っ先を森へ向けて油断なくサトリの出方を探る。


「逃げた、訳じゃなさそうだな。近接組で一気に潰すか?」

「いや、森が深い。サトリ以外にも潜んでいる可能性が高いでしょう。南藤さん、索敵を」

「――上から木霊が来ます!」


 橙香が南藤の言葉を伝えると、すかさず法徳が翼を広げて飛びあがった。

 空から降りてきていた靄のような塊が動きを止める。


『キィーン』


 木霊が金属同士を擦り合わせたような、耳障りな鳴き声を上げた。

 小島の上空。遮蔽物もないその場所で上がった木霊の鳴き声は小島全体に轟き、その特性をもって魔物を呼び寄せる。

 一瞬にして、小島全体の雰囲気が変貌した。冒険者たちへの敵意が膨れ上がり、何かが一斉に迫ってきているのが木々のざわめきから分かる。

 日本刀で真っ二つに斬り殺された木霊が靄のようだったその体の透明度を徐々に下げて行き、白く濁った塊になって地面に落ちる。

 法徳は忌々しそうに木霊の死骸を見下ろした後、指示を仰ぐために南藤を見た。

 すでに南藤はドローンで小島の状況を把握しながらメンバーに対して目の前のサトリへの攻撃指示を出している。

 橙香を介して伝えられた攻撃指示を受け、深映たちが森の一部に攻撃を加え始めた。彼女たちの脇をすり抜けるように駆けた大塚たち近接攻撃組が森に足を踏み入れる。


『二人一組で――』


 心を読み切る前に高枝切りばさみで切り落とされたサトリの首が転がる。

 サトリの数が一気に減るのと、森の奥から乳白色の装甲に包まれたロボットが現れるのはほぼ同時だった。


「森から外に出すな。木であいつらの拳銃の射線を塞ぎ続けるぞ!」


 大塚が素早く状況を判断して前線組に指示を飛ばす。

 翼が邪魔になるために森へと切り込めない法徳たちがもどかしそうに森を見つめる。


「塗り壁が左右の海岸線から来ています」


 毬蜂が索敵した映像を見た橙香が報告する。

 南藤が持つスマホには海岸線を移動する巨大な壁が映し出されている。簡単には壊せない塗り壁は足元を払うだけで消せるが、塗り壁の後ろには魔物の群れが控えていた。ちょうど、塗り壁を盾にする形で迫ってきているのだ。塗り壁の後ろにいるのはシイや七歩蛇、大蜂という毒持ち魔物三種である。

 荏田井が弓を構えて木々の隙間を縫うように矢を放ち、ロボットの胸部装甲を破壊する。

 大塚たちの働きで森に足止めされているロボットたちは次第に数を減らしているが、このままでは海岸線を通ってくる新手の魔物の群れに挟み撃ちにされる方が早い。

 オルが魔法の準備をしながら、南藤と橙香に視線を送る。


「撤退しようか?」

「このまま押し切るって。オルちゃんは海岸線から来る魔物の迎撃をお願い。深映さん、芳紀の事を少しの間まかせます」

「分かったわ」


 南藤を深映に任せた橙香は鉄塊を担いで前線へ飛び込んでいく。木を蹴り倒し、鉄塊を振り抜いて木の裏に隠れているロボットごと粉砕。一気に前線を押し上げながら木材を確保していった。

 法徳たちも慣れたもので、橙香が蹴り倒した木を回収して海岸線をやってくる毒持ち魔物の群れの上空へと飛び立って行った。

 塗り壁を盾にしていようと、上から丸木を落とされれば無事では済まない。七歩蛇や大蜂は飛行型魔物でもあるため、法徳たち天狗衆は丸木を落としてすぐに戻ってきた。

 橙香が準備しておいた丸木を次々と運んでいく法徳たち。その反対側では南藤たちを挟み撃ちにしようと進んできていた別の塗り壁と毒持ち魔物へ雪女たちの攻撃が加えられていた。

 塗り壁は盾として極めて優秀な頑丈さを発揮しており、雪女たちの銃撃を受けても穴ひとつ開いていない。しかし、塗り壁の上を越えるようにして室浦がバスタオルを振り抜いて水の玉を打ち上げると、形勢は雪女側に傾いた。

 何しろここは海の側だ。水であればいくらでも準備できるため、室浦は残量を気にせずに水を打ち上げ放題である。

 打ち上げられた水の塊が塗り壁の上を越したのを見計らって、雪女たちが冷気を纏った水の弾丸を撃ち込む。たちまち凍りついた水の塊は巨大な氷塊となって毒持ち魔物に襲い掛かった。

 三方から攻められる形ではあったが、橙香が加わった森側はロボットの掃討を終え、二手に分かれて毒持ち魔物の対処に動き始める。タイミングを合わせて塗り壁の足元を払って消し、すかさず襲いかかろうとした毒持ち魔物を迎撃する。

 塗り壁は確かに盾として優秀ではあったが、それに頼りすぎて冒険者側に攻撃の準備を整えさせてしまったのは魔物側の失策だろう。

 さほど知能が高くない魔物に臨機応変さを期待するのも野暮というもので、冒険者にとっても魔物は馬鹿であった方が対処しやすいのだが。


「……一時はどうなる事かと思ったけど、何とかなるもんだな」

「結果だけ見れば魔力強化の機会に恵まれた感じですからね。シイは邪魔ですけど」

「棘に毒があるってのが面倒臭いよなぁ」


 魔物の解体を進めながら言葉を交わしている連合パーティーを他所に、法徳たち天狗衆と共に周辺の偵察を行った南藤は安堵の息を吐く。

 お茶を配って回っていた橙香が南藤に目を向けた。


「近くにはもう魔物がいないのかな?」

「ゼロ」


 木霊で周辺の魔物が一斉に集まって来ただけあって、魔物のいない空白地帯が生まれたらしい。

 帰ってきた法徳が翼を畳みながら歩いてくる。


「階層スロープらしきものを見つけた」

「え、本当?」

「あぁ、双眼鏡で遠目に確認しただけではあるが、少々遠い。南藤殿、場所を伝える故、地図を」


 法徳は南藤から渡された地図に丸を付けて返す。

 オルが地図を覗き込んだ。


「ここから徒歩で二時間ちょっとってところかしらね」


 南藤が毬蜂の望遠レンズで確認した画像をスマホに表示する。

 確かに階層スロープらしき物が映し出されていた。


「これを下ったら第六階層だね。検証サイトだと、ボスがいるって話だけど」


 あくまでも予測でしかないため確証はないが、心してかかる必要があるだろう。

 魔力の篭った血を抜き終えた連合パーティーのメンバーが立ち上がる。


「それじゃあ、階層スロープっぽい物に向けて出発――」


 橙香が指示を出そうとしたその時、無線機から慌てたような男性の声が飛び出した。


『――緊急事態発生! 繰り返す、緊急事態発生!』



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