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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
最終章 リーズリウム深緑ダンジョン
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第二十四話 有機物なロボット

 南藤のスマホ画面に映し出されたロボットらしき物は全長二メートルほどの人型をしていた。ロボットという字面からは想像がしにくいほどスリムで洗練されたデザインのそれは、乳白色の装甲に覆われている。

 場所は小島の中心であり、その数は二十二体。ドローンが上空から撮影した陣形は菱形で全方位からの攻撃に対処が可能なように体の向きがバラバラになっている。

 直立不動で微動だにせず、その手には拳銃らしきものが握られていた。

 映像を確認した各クランのメンバーがあからさまに嫌そうな顔をする。


「銃器まで持ってんのかよ」


 嫌悪感も露わに大塚が呟く。

 砂州を移動して小島を経由しながら進むこの階層において、まとまった数の魔物を無視して次の島を目指すと後方を脅かされ、場合によっては挟み撃ちにされかねない。そのため、二十二体のロボットらしき物との戦闘は避けようがなかった。

 しかし、銃器を持っているのが非常に厄介だ。


「ダンジョンが魔物の参考にするのって生物だけだと思っていたのだけれどね」

「地球のロボットか、人間を模しているのかも。藻倉のサハギンだって三つ又の槍が標準装備だし、扱う武器ごと魔物を生成する感じで鎧を着た人間を魔物化したとか」

「いずれにせよ、硬そうね」


 深映が呟いて、仲間たちに水鉄砲への給水を指示する。相手が銃器持ちである以上、銃撃戦を想定して準備を整えなくてはならない。


「霊界にも薄闇世界にもこんなのいないし、日本側を参考にした魔物なんだろうね」


 橙香はロボットを観察しながら南藤に問いかける。


「どうするの?」

「めまぁ」


 小島の空撮映像を元に作成した地図を機馬に送って印刷した南藤はその地図を広げて一点を指差した。

 続いて、周辺の木を指差し、最後に橙香を見る。

 ただそれだけで南藤の作戦を把握した橙香は軽い調子で頷いた。


「分かった。じゃあみんな、張り切っていこう」

「いや、全然わからないわ」


 オルがすかさずツッコミを入れるが、説明は移動しながらにしようと、魔物を警戒しながら南藤が指示した地点へ移動を開始する。

 何事もなく到着したのは丘の上だ。斜面は緩やかだが見晴らしがよく、橙香の眼でもロボットたちの様子が見える。


「じゃあ始めるね」


 鉄塊を機馬に立てかけて、橙香は手近な木に歩み寄ると腰の入った回し蹴りを繰り出し根っ子から蹴倒した。

 蹴り倒した木を拾った法徳たち天狗衆が丘の上に運んでいく。

 そうして二十数本の木を組み上げ、上から水をかけて深映たち雪女が凍結させる。凍りついた木々は固定されて簡単には動かない。


「ダンジョン内で築城し始めるのかよ」

「材料があるからってやりたい放題ですね」

「サンドイッチ欲しい人、ツナとハムとフルーツのどれか選んでー」

「自分はツナで」


 日本人冒険者たちは築城風景を眺めながら朝食を取っている。双眼鏡でロボットや周辺を警戒しながらではあったが。

 鬼の膂力に任せた資材確保と天狗の空輸能力と雪女による釘を使わない凍結固定により、あっという間に完成した野戦城塞は前方に対しての防壁と銃座を備えたそこそこに立派なものだった。

 左右や後方までは手が回らなかったためむき出しだが、人数が多いこともあり、回り込まれても対応は可能だ。勝屋のライオットシールドに、いざとなれば南藤の機馬も盾に出来る。

 木製とはいえ立派に防壁と呼べるものができると、距離があるとはいえロボットたちも気付いたらしく進軍を開始していた。

 ロボットたちは関節の可動範囲が狭いらしく、動くがぎこちない。自然と進軍速度も遅く、南藤たちは余裕を持って配置に着く事が出来た。

 丘の下に到着したロボットたちは乳白色の装甲に覆われた腕を持ち上げて拳銃を構えながら丘を登り始める。

 銃座から深映たちが射撃を開始する。飛距離が強化されている事に加えて丘の上という高所に陣取っている事もあってロボットたちへと楽々と届く氷の弾丸だったが、予想以上の強度を誇るロボットたちの装甲に弾かれてしまった。


「凍結弾で足を止めて」


 顔をしかめた深映が仲間たちに指示を飛ばす。

 雪女たちは一斉に氷の弾丸ではなく冷やされた水の玉に切り替えて、ロボットたちを氷漬けにしていく。拳銃らしき物を優先的に凍らせて無力化を図るが、ロボットたちは温度変化に対しても強いらしく、動きを止めなかった。

 関節部分に狙いを変更し、肘や肩を凍らせる。しかし、氷が張ったその関節部分も痛みを感じないらしいロボットたちは無理やり動かすことで氷を砕き、動き続けた。


「物理的に破壊しないと止まらないみたいね」

「代わろう」


 ラクロスのラケットを携えた『藻倉遠足隊』の後衛二人組が雪女と交代し、高速で石を投げ飛ばす。今度は物理的な破壊力に優れているため、ロボットが徐々に破損していった。

 荏田井、保篠も和弓を構えてロボットの足を射抜く。

 しかし、たった四人では手が足りない。


「ボクが出ようか?」

「いや、私がやろう」


 鉄塊で破壊しつくそうとした橙香の代わりに、オルが杖を構えて立ち上がる。


「――炎にて禍根を焼き切る。来る災いを祓い清めて白と成す」


 青い燐光がいくつも浮かび上がり、ロボットへと飛んでいく。動きがとろいロボットたちが避けられるはずもなく、燐光が衝突したロボットたちは青い火柱に包まれた。

 青い火柱を纏いながらもなお進軍を続けるロボットたちだが、徐々に装甲が溶け始め、泡立っていく。強度も落ちてしまったのか、自重を支えきれずに崩れるように倒れ伏した。それでも両手を使って這いよって来ようとするその姿は趣味の悪いホラー映画の一幕のようで、連合パーティーのメンバーは嫌悪感も露わに見つめている。


「可燃性ではないみたいだけど、溶けるね」

「材質が気になるところです」


 オルの魔法により残り二体まで減ったロボットが拳銃の引き金を断続的に引きながら接近してくる。

 壁に取りつこうとしたその時、橙香が壁を思い切り前に押した。

 ぐらり、と壁が傾ぐ。次の瞬間、ロボットの体を下敷きに壁が横倒しになった。

 怪我人が一人もでないままロボットの討伐を終えた一行は、機能停止しているロボットに近付いて検分を始める。

 紫杉が得物の金槌で装甲を叩いてみると、硬質な音が響いた。金属にしてはやや濁った音であり、未知の材質としか言いようのない代物だ。


「しいて言うなら有機物っぽい感じだな。プラスチックとか」

「そう言えば、なんか臭いね」

「消火しようか?」

「駄洒落か?」


 オルの魔法で燃やされたロボットから異臭がしているのに気付いて、室浦がバスタオルを軽く振って水を飛ばし、消火を試みる。

 しかし、魔法の火は消えることなく、標的物を燃やしきるまで勢いを緩めようとはしない。

 仕方なく機能停止したロボットを丘の頂上に運んで検分を再開する。

 冷却液なのか血なのか分からない液体が中央部のタンクらしき部分に満たされていた。まだ動きを止めていないロボットの関節を破壊してみたところ、この液体が流れ込まない限り稼働しないようになっているらしい。

 攻撃手段がことごとく無効化されていた深映たち雪女は真剣な表情でタンクの強度を調べ、討伐方法を模索していたが、やがて諦めたように首を振った。


「無理ね。こいつの相手はみんなに任せるわ」


 得物の高枝切りばさみの刃を飛ばしてロボットのタンクを貫通できることを確かめた大塚が深映の言葉に反応する。


「銃撃戦では勝ち目がないって事か。今回は地の利があったから良いようなものの、今後はどうしたもんかな」

「日本人冒険者の遠距離攻撃で無力化を図るしかないですね。天狗衆が上から丸木を落として攻撃するのも手だと思うわ」


 深映が法徳を見るが、法徳は渋面で首を横に振った。


「必要とあらば仕方がないが、七歩蛇や鎌鼬がいる以上、空で刀を振るえなくなる丸木の運搬はやりたくないものだ」

「いざとなったら芳紀が粘着弾で足止めするって」


 橙香が新たな戦術を口にする。

 粘着弾は数の制限もあるため多用は出来ないが、ロボット相手に身動きを封じる効果があるのは間違いなかった。

 全員が衣服の魔力強化で防御力が高い事もあり、ヘッドショットに気を付ければ正面から戦えない事もない。

 クラン『踏破たん』の荏田井が結論を出す。


「出来る限り木を使って砦を作ってから迎え撃ちたいですね」

「結論としてはそこに落ち着くよな」


 紫杉が同意し、思い出したように橙香を見た。


「そろそろ定期連絡を入れた方がいいんじゃね?」

「あ、そうですね」


 橙香は無線機を取り出し、階層階段の警備についている傭兵クランへ連絡を入れる。


『こちら大戸峠ダンジョン攻略連合です。定期連絡します。死者、けが人なし、探索を継続します。オーバー』

『……こちら階層階段守備パーティー。異常なし。一人も通っていない。探索継続、了解。オーバー』


 無線機からの報告に、橙香はオルと顔を見合わせてほっと息を吐く。

 まだ刺客は現れていないようだ。



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